ロンドンの南西部に位置する旧王宮のハンプトン・コート宮殿内にあるロイヤル・スクール・オブ・ニードルワークは、その名の通り王立の刺繍学校だ。
開校は1872年。当時は雇用者20人というごく小さな規模だったが、ヴィクトリア女王の3女で初代校長を務めたプリンセス・ヘレナの尽力により、20世紀初頭には150人のスタッフを抱えるようになったという。
学校があるハンプトン・コート。テムズ川に沿うように建ち、観光名所としても知られている。
刺繍職人の養成を目的とするだけでなく、スタジオを構えて歴史的価値のある刺繍の修復や、ビスポークの注文を受け付けている。その確かな技術で近年では、エリザベス女王の戴冠式のローブやキャサリン妃のウェディングドレスなど重要な王室行事で用いる衣服への刺繍をはじめ、イギリスのさまざまなシーンを飾ってきた。
ショートコースで学ぶ作品たち。さまざまなテクニックを駆使して作られているのがわかる。
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多様なプロ養成のコースの一方で、幅広く刺繍に親しんでもらうことに重点を置いた各種講座も充実している。趣味で始めてみたい、技術をブラッシュアップしたいという人たちに最適なのが、数週間に渡って週に1回受講するショートコースだ。ビギナーから上級向けの実践的なもの、デザインや色彩理論を学ぶものまでと内容は実に幅広い。受け付けが始まるとすぐに定員に達してしまうものも多く、人気のほどがうかがえる。また7~8月には5日間に渡るサマーコースもあり、こちらも多様な授業が用意されている。
現在はオンラインのコースが中心ということもあり、アメリカやヨーロッパ、そして日本からの受講者も多いという。
初級者用のコース「The Introduction to Embroidery Tulip by RSN Tutor Jessica Ingram」は、4月14日と21日の2日間で137ポンド。この真っ赤なチューリップが愛らしい作品となる。
中級者向けの「Intermediate Jacobean Crewelwork ‘White Hart by RSN Tutor Jen Goodwin」は5月5日から6週間で453ポンド(材料費込み)。イギリスの伝統的な手法でウールの刺繍糸を使う「ジャコビアン刺繍」を学ぶ。
4時間かけて図案のためのドローイングとデザインを勉強する「Drawing and Design by RSN Tutor Caroline Homfray」は人気のコース。受講料は106ポンド
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2022年は開校150周年の節目の年でもあり、ロンドンのファッション&テキスタイル・ミュージアムでは4月1日より「150イヤーズ・オブ・ザ・ロイヤル・スクール・オブ・ニードルワーク:王冠からキャットウォークまで」も開催される予定だ。
英国の歴史的シーンを飾ってきた技を受け継ぐ学校での学びは、きっと素晴らしい経験となるはずだ。
プラスチックのボトルを再利用した、教員による作品。可愛らしい見た目ながらも、自然破壊への警告でもあるという。
text: Miyuki Sakamoto
在イギリスライター。憂鬱な雨も、寒くて暗い冬も、短い夏も。パンクな音楽も、エッジィなファッションも、ダークなアートも。脂っこいフィッシュ&チップスも、エレガントなアフタヌーンティーも。ただただ、いろんなイギリスが好き。