各国に舞い降りる日本らしさ from LA ダニエル・アーシャムの侘び寂びポルシェに会いに、ミュージアムへ。

世界は愉快 2023.03.29

稲石千奈美

LAのピーターセン自動車博物館で開催中の「アーシャム オート モーティブ展」は、アートやデザイン、ファッションとマルチ分野で活動する人気アーティスト、ダニエル・アーシャムの個展で、車好きのアーシャムが時の経過と車のデザインの関係性、さらには自動車が象徴する文化的意義をアートとして表現した展示だ。オープニング直後、ミュージアムに出向くと平日だというのに古い車を愛するという老夫婦や丁寧に作品の動画を撮るインフルエンサーなど多くの訪問者がじっくりと作品を閲覧していた。

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ピーターセン自動車博物館の展示フロアでいぶし銀のような渋さとぼろパッチワークが一際存在感のあるポルシェは一体何者?  photography: Chinami Inaishi

自動車展示というとハードなイメージだが、この展示ではソフトな淡いパステルのボディや天然石、ビジューのような輝きの鉱石などを使ってアーシャムが名車を美しく「風化」させているのが見どころ。『フェリスはある朝突然に』のフェラーリや『ブリット』のムスタングなど映画に登場した名車のレプリカモデルにはボディが古くなって朽ち果てたような穴があり、その中を覗くと「風化」がなす小宇宙が見えるようだ。

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アーシャムがクオーツや黄鉄鉱、灰をあしらって風化させた『フェリスはある朝突然に』のフェラーリ(写真左)、『ブリット』のムスタング(写真右)。photography: Chinami Inaishi, Petersen Museum

映画の美術道具名手とのコラボもある作品の中で、一台だけ走行可能な実車がある。ポルシェ「Bonsai 356」だ。ポルシェのデザイン美学に幼い頃から惹かれたというアーシャムは、1955年製のポルシェ356スピードスターに大好きな日本の美意識、侘び寂びを施した。外装は金属の原板が見えるように、2年間かけて徹底的に塗装を削ぎアマニ油で表面を保護、メカ部品はすべてレストアされたオリジナルだ。一方、小木“Poggy”基史や藤原裕とコラボした内装には藍染布やぼろ風のパッチワーク、幌(ほろ)は日本が世界に誇るデニムを使用、さらに畳も取り入れた。ネーミングの『Bonsai 356』にもしみじみとうなずける。アーシャム展で対面するのは、時間軸で見る名車のルーツとカルチャー、不完全な美へのリスペクト、テクノロジーと自然の関連性。盆栽ポルシェの前に座って、しばらく時の流れを感じてみたい。

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原型も美しいヴィンテージスポーツカーポルシェ356スピードスターがアーシャムのアートで『Bonsai 356』に。まるっとした金属板の鈍い光にぼろや刺し子を思わせる布が懐かしさを感じさせる。酸化した青銅のような盆栽ロゴも愛らしい。photography: Porsche AG

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アーティスト、ダニエル・アーシャムは日本好きで「趣味は盆栽」とインタビューで答えていた。photography: Guillaume Ziccarelli, Courtesy of the artist and Perrotin

ピーターセン自動車博物館
「アーシャム オート モーティブ展」 
開催期間は9月まで。
https://www.petersen.org/arsham

text: Chinami Inaishi

稲石千奈美

在LAカルチャーコレスポンデント。多様性みなぎる都会とゆるりとした自然が当然のように日常で交差するシティ・オブ・エンジェルスがたまらなく好き。アーティストのアトリエからNASA研究室まで、ジャーナリストの特権ありきで見聞するストーリーをエディトリアルやドキュメンタリーで共有できることを幸せと思い続けている。

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