スウェーデンはガラス王国としても有名なほどガラス産業が盛んだ。南部に位置するスモーランド州ではガラス工場をめぐるツアーや手吹きなどガラスの制作過程を実体験もできる。ひとりでも家族でも楽しめるためスウェーデン内でも人気の旅の場所にもなっている。
今回はその作品が対極とも言えるふたりのガラス作家を紹介。それぞれが取り組んでいるアートプロジェクトがとてもおもしろいのだ。
ひとり目はラスムス・ノスブリング。ストックホルムにあるコンストファック美術大学を卒業。当時からすでに注目の作家ではあったが、彼の長年のプロジェクトでもあり、現在個展として巡回されている『Lost and Found』ではこれまでのガラスのオブジェの常識を超えたストーリーを展開し、さらなる注目を浴びている。
このプロジェクトではラスムスがセカンドハンドショップやグスタフスベリの陶器やガラスの工房・アトリエで見つけた昔のオブジェ(主に70年、80年代物)をもとに、そのオブジェができた背景や歴史に伴い、かついまの時代に繋げられる土台をラスムスが作りガラスのコラージュとして表現している。自分の作品ではなく、かつて別の時代に作られたものを違和感なく、くっつけるのは至難の技で、何度もそして長時間にわたり継ぎに当たる部分を溶かしながらの作業を繰り返すのだ。
これらの制作にあたり、5人のアシスタントを起用し緻密なまでの計算と下準備の上で独特なラスムスワールドが完成する。それぞれの作品の物語の始まりだ。(ちなみにラスムスの作品には即興でそれぞれのパーツを付けるという事は皆無に等しく、すべてが計算され尽くした上で成り立っている)
もうひとりは日本人でストックホルム在住の山野アンダーソン陽子だ。山野も上記のラスムスと同様コンストファックの卒業生でもあるが、山野はインターネットや携帯電話がない2001年に(はっきり言ってど田舎の)スモーランド州にある1学年6人しか入れないKosta Glasskola(コスタ・ガラス学校)に入学。2004年までの3年間、ガラスを吹き続け、3年生になると自分たちで工房に火を入れてと工場と同じサイクルで勉強した強者だ。
その山野が最近アートブックを上梓した。『Glass Tableware in Still Life」(ガラスの器と静物画)』というタイトルと同上のプロジェクトが展覧会として日本を巡回したのだ。アートブックの話をもらった時に、ただの作品集ではなく「ガラス屋の自分が本を作るってどういうことだろう?」と具体的なコンセプトに至るまでに5年。スウェーデン、日本、ドイツから異なる作風を持つ18人の画家たちにリクエストをして、彼らが望むガラスのうつわを山野が作成。今度はそのガラスのうつわを画家が描くという、ほかには類を見ないプロジェクトでおもしろい。ガラス作品とそれを描いた絵画の両方を同時に見ることが出来るのだ。
片や色とりどりでカワいおかしいガラスのオブジェ、もう一方は日常生活に欠かせない機能的なクリアなガラスのテーブルウェア。
すでにご存知とは思うが、ラスムスも山野もデザインだけではなく、自分でガラスを吹けて作れるのだ。釜の炉内は1,200度にも達し、窓も開けられないので(風の圧などでガラスが割れる)、作業場は年中とてつもなく熱い、それぞれの作品は大きさも異なるが、重さもかなりのものだ。そんな重いものを吹きながら回して形作るという、とてつもない肉体労働なのだ。そんな中ひとつ一つ手作りで吹き上げられるふたりの作品はまさに唯一無二の一点もの。クラフトマンシップにアートが加味されたふたりの活動はこれからも目が離せない。
ラスムス・ノスブリング/Rasmus Nossbring
https://rasmusnossbring.com/
Galleri Thomassen
https://www.gallerithomassen.se/
2024年10月6日まで展覧会を開催。
Galleri Glas
https://www.galleriglas.se/
ラスムスの作品が購入可能なストックホルムのギャラリー。
山野・アンダーソン・陽子/Yoko Andersson Yamano
http://www.yokoyamano.com/ インスタグラム
https://www.camk.jp/
作家の作品が掲載されている。
神咲子
在スウェーデンライター。コーディネート業も行うが、本業はレストラン業だった。そして50歳を過ぎてから、鉄道の電車の運転手に。スウェーデンの北部ウメオ市とスンズヴァル市を運転する日々を送る。