先月イギリスの書店組合が発表した調査によると、ジェネレーションX世代の49%、ミレニアム世代の56%は日頃から本屋に親しんでいて、店頭で「おすすめ」とされている一冊を読んでみることが頻繁にあるという。確かにロンドン中心街の大型書店では若い人たちの姿を多く見かけ、書棚には新聞・雑誌の書評や店員のおすすめコメントのメモ書きとともに話題作が並んでいる。
彼らの本との親密な関係作りには「BookTok」が大きな役目を担っていると言われている。「BookTok」とはTikTok上でさまざまな本のレビューをするオンラインコミュニティのこと。2020年頃から#Booktokというハッシュタグをつけてお気に入りの本について語る数々の動画が注目を集めるようになり、昨年11月には全世界で60億の映像がアップされて合計で200億回再生されたという。そういえば数年前にインタビューした出版社の編集員も、本の売上には「BookTok」の影響が非常に強くあると話していた。
「BookTok」で何度も取り上げられたことが世界的な大ヒットに繋がった本も少なくない。アメリカ人作家セーラ・J・マーズによる『A Court of Thorns and Roses』はその代表的な一冊だ。『美女と野獣』をベースとした作品で、言い伝えを守らずに冬の森で狼を殺してしまった19歳の女狩人フェイルが妖精たちに連れ去られ、そこでさまざまな冒険に直面するさまを描くファンタジー小説だ。現在はシリーズ5冊が出版されており累計で1300万部のベストセラーとなった。ドラマ化も進められているという。
また昨年からは「TikTok Book Awards」もスタート。その年ベストとされる書籍や作家、さらには独立系本屋に賞が与えられる。今年の最優秀に選ばれた本の一冊リサ・ジェウルの『None of This is True』は、バースデーをパブで祝っていたアリックスが誕生日だけではなく年齢、さらには生まれた病院も同じジョシーと偶然出会い、彼女の暗い生い立ちや暮らしぶりを聞くうちに、アリックスもまたその闇に取り込まれていくというスリラーだ。こちらもネットフリックスがドラマ化する予定だとか。
サンデータイムズ紙のベストセラーNo1も達成した『None of This is True』。「何ひとつ本当ではない」というタイトルもなんとも不気味で気になってしまう。
ひと昔前は「若い世代は読書をしない」なんて言われていた。しかし現在では彼らの多くはSNSを使って本の情報を得て親しみ、ヒット作を生み出すきっかけを作り出している。そしてそのドラマ化によってさらに広い世代が興味を持つという源流を生み出しているのが興味深い。
在イギリスライター。憂鬱な雨も、寒くて暗い冬も、短い夏も。パンクな音楽も、エッジィなファッションも、ダークなアートも。脂っこいフィッシュ&チップスも、エレガントなアフタヌーンティーも。ただただ、いろんなイギリスが好き。