ゴールドやシルバーなど、近年は華やかなクリスマスデコレーションが数多く見受けられるが、イギリスの伝統的な装飾はたくさんの枝木を使った緑あふれるものだ。
クリスマスのインテリアに欠かせない緑といえば、まずはなんと言ってもクリスマスツリーだろう。でもイギリスでのツリーの歴史は意外と浅く、ジョージ3世王の妻でドイツ出身だったシャーロット王妃が祖国の風習にならって1800年にウィンザー城に飾ったものが最初だったと言われている。その後シャーロット王妃と同郷のヴィクトリア女王の夫アルバート公が1840年にドイツから取り寄せたモミの木を王室内に設えた様子が雑誌などで紹介されて、一般に広まっていったそうだ。
クリスマスの準備は年々早くなり、11月末になるとツリーを売る光景を目にするようになる。それと同時に毎年のように交わされるのは環境に優しいのは生木か模造品かというディベートだ。短期間だけ飾って破棄する生木よりも何度も使える模造品の方がエコロジカルだ、いや、最終的に土に還るまで気の遠くなるような年月を要するプラスチックよりも国内のツリーファームで育てられた生木の方が使用後に燃料などに加工できるから良いなど、さまざまな意見が交わされる。それらの声を踏まえて、消費者は自分なりの判断をして購入して室内を飾る。
悪霊を退けて生命を祝福する象徴と信じられていたセイヨウヒイラギやツタを使った飾り付けはずっと昔から続くもので、各地の教会には中世後期からこれらの常緑樹をクリスマスシーズンに購入していた記録が残っているという。個人の家でも好まれて飾られていたそうだ。
その名も『ザ・ホリー・アンド・アイビー』という古いイギリスのクリスマスキャロルもある。
セイヨウヤドリギもこの時期には室内に持ち込まれる枝木の一つ。神聖で幸運を呼ぶとされていて、この下ではキスすることが許される。これは北欧の風習に基づいているそうだが、イギリスでも広く知られていて、わざわざ人が多く通る廊下などに飾られていることもよく見かける。
モミの木をはじめとする木々を飾った室内は緑のフレッシュな香りで満たされる。イギリスではほかのヨーロッパの多くの国々同様に、公現祭の1月6日までクリスマスの飾り付けをそのままに過ごす。
緑の木々ではないけれども、家族や友人たちから送られたクリスマスカードを家のあちこちに飾るのも一般的だ(最近はカードのやり取りは減っているようだけれども)。
あふれんばかりの緑も家中を彩る数々のカードもイエス・キリストの誕生へのお祝いとともに、暗くて寒い季節をなんとか乗り切るための知恵なのだろうとも思う。
在イギリスライター。憂鬱な雨も、寒くて暗い冬も、短い夏も。パンクな音楽も、エッジィなファッションも、ダークなアートも。脂っこいフィッシュ&チップスも、エレガントなアフタヌーンティーも。ただただ、いろんなイギリスが好き。