ドイツといえばビール!のイメージだけれど、実はドイツ全体で酒類の消費量は下降線の一途を辿っている。それに対して増えているのが、アルコールフリー。ビールの製造量だけでも、ここ10年間で倍以上へと成長している。しかし、現在の市場では、ワインやビールを脱アルコールした製品が大半なのだ。

「アルコールフリーの世界はもっと豊かなもの!」と言うのはジェニファー・キースリングさん。彼女は、厳選のアルコールフリードリンクを揃えるショップ「マインドフル・ドリンキング・クラブ」のオーナーだ。ジェニファーさんは、ワインやビールに代わる飲み物として『プロキシ』を広めるべく、尽力している。
「プロキシとは英語で"代理"や"代わり"を指す言葉です。ワインやビール、スピリッツを製造し、そこからさらにアルコールを抜く加工処理をしたものは、ワインっぽい、とかビールに限りなく似ている......が売り文句の、アルコールの味や香りを追求するイミテーション。でもプロキシは模倣ではなく、ワインやビールやスピリッツと同じ機会に同じように楽しむことができる、でもアルコールが入っていない飲み物のことなんですよ。」
いろいろ話すより、まずは試してください!と、店内の真ん中にあるテイスティング用のテーブルにあった瓶が次々と開いていく。

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これからの季節、ピクニックやお花見にもいいかも?とお勧めされたのが、鮮やかな真紅の発泡プロキシ。デンマークのブリュワリー「Far & Søn」のハイビスカス。一口飲むと、花のようなフルーティーな香り、チェリーのような甘酸っぱさが口いっぱいに広がった。ハイビスカスがベースで、全くフルーツが入っていないと聞いて、驚いてしまう。

南チロルにあるアルコールフリービールを展開するブリュワリー「Freedl」が開発した紅茶とハーブティーをベースにした発泡プロキシは、香りが何層にも重なって複雑な味わい。ワインのよう・・と比べるのは野暮かもしれないが、なんとも深い味わい。

ぶどうを使ったワイン以外の新たな可能性を知るなら、未熟なブドウの実を絞った酸味のあるジュース「ヴェルジュ」がお勧めだ。西ドイツのワイナリー「Weingut Gustavshof」で若い世代が挑戦する新感覚のアルコールフリー。モスカート種のブドウだけで作るヴェルジュは華やかな香りと優しい酸味が爽やかで、ソーダ割りやエルダーフラワーシロップを加えて、食中酒のように料理とともに楽しめる。

スウェーデンのブリュワリー「Gnista」が展開するスピリッツは、苦味や辛味(!)も幅広く、色々なカクテルのレシピも添えられているので、色々なドリンクを実験してみたくなる。シングルオリジンのジュースやコンブチャ、リンゴ酢をベースにしたシュラブ......ジェニファーさんの言葉通り、アルコールフリー、プロキシの世界の幅広さ、奥深さに感嘆。楽しく杯を重ねてしまうが、全く酔いが回らないのも嬉しいところだ。

「まだ始まったばかりですが、世界中でどんどん面白いプロキシが開発されてきています。楽しみにしてくださいね!」とジェニファーさんがにっこり笑った。
Instagram: https://www.instagram.com/mindfuldrinkingclub/
photography: Gianni Plescia

河内秀子
ライター。2000年からベルリン在住。ベルリン芸術大学在学中に、雑誌ペンなど日本のメディアでライター活動を始める。好物はフォークが刺さったケーキ、旧東ドイツ、マンガ、猫。ドイツでも日本でも「そとのひと」。 twitter:@berlinbau