いまスウェーデンでは少し不思議なことに、ミニチュアアートが世間を賑わしている。
まずは匿名で活動してきたAnonyMouse(アノニマウス)。
2016年の12月にマルメ市内のBergsgatan (ベリィスガータン)道路沿いの壁にミニチュアのイタリアンビストロ「Il topolino」を展示したのをはじめに、匿名で各地にミニチュアの店や遊園地、ガソリンスタンドなどをオープン(展示)していた。「誰がやったのか?」と、バンクシーじゃないが、人々の興味を掻き立てるにはもってこい。絶えず人が訪れた。
人気は人間だけにとどまらず、犬や猫たちも。
今年の2月にアイデンティティーを明かし、マルメ市に住むスウェーデン人のカップルが正体だったと判明。人気を博したのと同時に、このミニチュアアートのプロジェクトに終始を打つことを公表した。
次に紹介するのはスウェーデン人アーティストのクリストファー・ロビン・ノルドストローム(Chirstpher Robin Nordström)による東京ビルド。
父親の影響で幼少期から鉄道などのプラモデルを作り始めたのをきっかけに、やがてオタクの域までに到達した。また、幼い時から日本へ訪れることを夢見て、実現した時に一番衝撃を受けたのが建物だったのだ。それもモダン建築ではなく、風雨に晒されて廃れた、時代の歴史を物語っているような建物に感銘を受けたという。
スウェーデンに戻り、日本の家屋に詩的でメランコリックな感情が芽生え、どうにかして再現させたいという想いが、自分が好きで得意なミニチュア建築に繋がった。彼の作品は全ていちから手作りで、パーツも出来合いのものとかは一切ない。
この精巧さ!! オタクを通り越して素晴らしすぎる。ちなみに縮小サイズは1/20
これらの影響もあるからなのか、ストックホルムにある美術館「Hallwylska Museet (ハールヴィルスカ ミュージアム)」ではミニチュアアートの展示会が開催されている。
その昔、ドールハウスなどのパーツは手作りで希少なものばかりがほとんどで、おもちゃとはいえかなり高級なものだった。産業革命とともに1900年代から大量生産できるものになり、誰でも購入可能な品に変わったりとミニチュアアートが辿ってきた歴史と変遷を学べる。創立者のハールヴィルスカ家の娘たちが実際に使っていた昔のドールハウスから新しく作ったもの、鉄道や飛行機のプラモデルなどが立ち並ぶ。2026年の1月まで開催されるので、スウェーデンを訪れる際はぜひお見逃しなく。
最後の極め付けは月面に立つスウェーデンハウスだ。
クレイジーなこのアイデアを見事実現させたのがスウェーデン人のMikael Genberg (ミカエル・イエンベリィ)だが苦節25年を要している。月面建立成功までの25年、赤いスウェーデンハウスはいろいろな試みの旅をしてきた。木の上だったり、水面下だったり。はたまた万里の長城やストックホルムにあるグローベンアレーナ(コンサートホール)の球上だったり。またスウェーデン人初の宇宙飛行士であるクリステル・フーゲルサングとともに、地球から400km離れたISS(インターナショナル スペース ステーション)にもお供をしている。
月面への1回目の試みではスペースクラフトが月に向かう途中で理由不明のクラッシュ。だが2回目の今年2025年の1月15日にこの小さい赤いスウェーデンハウスが見事月に降り立ったのだ。
月面探査者に詰め込まれたムーンハウス
アートとイマジネーション、そして宇宙探査が融合されたシンボルの一つとしての世界で初めて、そして唯一の月面に立つ家だ。
これまでに挙げたミニチュアは、細部にわたってサイズが小さいのはもちろんだが、各アーティストの夢や想いはとてつもなく大きい。それぞれの小さい世界のなかで広大に無限に広がっている。
text: Sakiko Jin

神咲子
在スウェーデンライター。コーディネート業も行うが、本業はレストラン業だった。そして50歳を過ぎてから、鉄道の電車の運転手に。スウェーデン中間部、東海岸のスンズヴァル市から西に一直線、ノルウェーとの国境のストールリーエン市を運転する日々を送る。