文・写真/神 咲子(在ストックホルムコーディネーター)
スウェーデンではお祝の時に食される2つのトルタ(ケーキ)がある。ひとつはスモーゴストルタで、もうひとつはプリンセストルタと呼ばれるものだ。
スモーゴストルタは、いわばサンドイッチで長方形やホールケーキのような丸形で塩味。フィリングやトッピングはハムやレバーペーストの肉系もあれば、サーモンやエビなどの魚介系もあり、仕上げに茹で玉子、キュウリ、ディルで飾るのが一般的だ。パンの層には基本、バター、マヨネーズ、サワークリームが塗られるが、スプレッドタイプのチーズ味のクリームなどもある。
サーモンを薔薇に見立てたモダンなスモーゴストルタ。ディルと茹で玉子、レモンのトッピングで爽やかに。現在は家庭で作られることはなく、ほとんどが店に注文してお祝いの日に出来立てを取りに行く。photo:RIEKO MISE
しっとり風味が好きなお店は事前にパンをジュースに少しだけひたす場合もある。食パンだけではなくライ麦パンを入れるのもあり。photo:RIEKO MISE
歴史をひもとくとあまり古くはなく、1940年にふたりの主婦が監修した家庭用料理本に一段だけのきれいにデコレーションされた前菜もしくはカナッペサンドイッチとして紹介されたのが始まりとされている。そこから重ねるパンの層も増え、フィリングやデコレーションがいろいろと発展していまにいたっているようだ。
こちらは、ザ・クラシック。ハムと花のデコレーションがすごい! フィリングはレバーペーストと塩漬けキュウリ。photo:YUKA YAMAMOTO
もういっぽうのプリンセストルタはプリンセスのケーキという意味で、スポンジ、生クリーム、バニラクリームの土台をマジパンですっぽりカバーする甘いケーキだ。ちなみにスウェーデンの生クリームは、砂糖を入れないので甘くない。マジパンは緑色が一般的だが、クリスマスにはピンク、卒業のお祝い時は白(卒業生は白の帽子をかぶって卒業式に出るため)などTPOに応じて変わったりもする。最近ではスポンジの中にラズベリージャムの層が入っているものも見受けられる。一説ではジャムが入っている場合はピンクのマジパンで覆われ、オペラトルタと呼ばれプリンセストルタとは別物だとも……(ジャム以外はすべて同じなのに)。
このプリンセストルタの起源は、1948年王室御用達学校の家事教育係だったジェニー・オーケルストロームが監修した『プリンセスたちの料理本』というレシピ集の中の「緑のケーキ」。当時のカール国王とインゲボリィ王妃の娘たちで王女(プリンセス)のマルガレータ、メルタ、アストリッドの3人のお気に入りだったことに由来している。こちらは、日本のイチゴのショートケーキのように、スウェーデンの国民に長く愛され続けている人気ナンバーワンのケーキでもある。
プリンセストルタ。本来は「緑のケーキ」という名前だったこともあり、マジパンは通常は緑だ。
スポンジがほとんど見えないが、外側からマジパン、生クリーム、スポンジ、バニラクリーム、スポンジという層がお決まりでクリームはかなり濃厚。こちらはラズベリージャムが入っているモダン系。
スモーゴストルタは冠婚葬祭、プリンセストルタは誕生日や就退職、卒業祝いに注文される事が多いが、どちらも色鮮やかで特にスモーゴストルタはデコレーションが華やかで喜ばれる。たまにだが、スモーゴストルタを食事として、さらにデザートとして甘いプリンセストルタが供されると、ダブルトルタでおめでたい上に満腹度この上ない。
余談だが、スウェーデンでは誕生日や就退職などのお祝いなどをする時、まわりの人ではなく本人が自分でケーキをみんなに振るまうのが慣習だ。日本の文化に慣れていた私は、最初はビックリ仰天したものだ。
photos et texte:SAKIKO JIN