パラリンピック開催で変わる?心のバリアフリー。

Society & Business 2021.07.29

From Newsweek Japan

文/楠田悦子

バス車両の低床化やサービス介助士資格を持った駅員の急増などハード面でのバリアフリー化が進む一方で、ベビーカーや車いすユーザーの公共交通利用を不快に感じる人は依然として多い。

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バス車内にベビーカーのスペースが設けられるなど、改善は進んでいるが……。(写真はイメージ) photo: iStock

東京パラリンピックが間もなく開催されるが、モビリティの観点から期待するのは、海外のパラリンピック選手が日本に訪れることによって「心のバリアフリー」が育つことだ。

新型コロナウイルスの流行により、少子化は一段と加速したという。障害者、高齢者、さらにはビジネスマンも心身の不調を訴え、外出する体力・気力が落ちたという話もあちこちで耳にする。改めて人間にとって外に出て活動する重要性を知った。

コロナ収束後は健康維持のためにも積極的に出掛けたいところだが、欧米と比べてベビーカーや車いす利用者の外出難易度が高いという点が気になっている。

国や公共交通事業者はさまざまな努力をしているが「嫌な思いをする」という人がまだまだ多い。ベビーカー・車いす論争が起きるのはなぜなのか。

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日本の公共交通に見る不寛容。

障害者やベビーカーでの外出事情は国によって異なる。

宇都宮大学の大森宣暁教授の資料「ベビーカーでの公共交通利用に対する意識の国際比較」によると、東京のベビーカー対する意識の特徴として、ベビーカーを折りたたまずに乗車する人を不快・迷惑と感じる人の割合が高く、周囲の乗客による助けが少ないことが挙げられるという。

欧州ではベビーカーを折りたたまずに電車やバスに乗り込むことができ、「手伝いましょうか」と躊躇することなく手を差し伸べる周囲の乗客やその和やかな光景をよく目にする。これはベビーカーのみならず車いすに関しても同様だ。

駅構内や車内を観察していると原因が見えてくる。日本の首都圏における公共交通車内の利用者密度の高さ、高齢者や障害者に対する理解が薄い時代に作られたインフラや車両、子育て層や障害者への理解の低さが問題にあるように感じる。

コロナ禍にもかかわらず通勤・帰宅時間は混み合い、できるだけ他の人に当たらないように身体を縮こめて利用する。こうした利用者の我慢の上に首都圏の公共交通網は民間経営は成立している。少しでも多くの人に乗ってもらいたい、寿司詰め状態でもなんとか始業時間に間に合うべく乗り込もうとするため、スペースをとる車いすや泣く子どもを乗せたベビーカーは嫌がられるのだ。
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女性の社会進出や男性の育児参加の遅れもあり、通勤時間帯の公共交通に子供を連れてくることに対して違和感を抱く人も多いようだ。また子育て経験者の女性にも、自分たちの我慢してきた経験から、折りたたまずにベビーカーを乗り入れる若い子育て層に対して感情的になる人もいるという。一方で、譲られても「大丈夫です」と遠慮している場面も何度か目にしたことがあるが、周囲の好意や助けを受け取るのが下手なような気もする。

障害者についての感じ方も国によって異なる。内閣府が2007年に行った「障害者の社会参加推進等に関する国際調査」によると、ドイツやアメリカでの障害者に対する意識は、障害のある人を前にしても9割近い人が「あまり・まったく意識せず(気軽に)接する」と回答している。一方日本では6割の人が「意識する」としている。
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また2017年に行われた内閣府の「障害者に関する世論調査」(日本人対象)で、「障害のある人が困っている時に、手助けをしたことがありますか」という問いに対して「ある」と答えた人が61.8%、「ない」が38.2%という結果になった。「ない」の理由としては「見かける機会がない」が78.5%、「どのように接したらよいかわからなかったから」が12.0%だった。日常生活の中で障害のある人とない人の距離が遠く、触れ合う機会が少ないことが窺える。

日本と欧米のこうした差は、障害者と健常者を意識的に区別する社会かどうかと言い換えることができるだろう。

区別する社会としない社会では、障害者の外出に寄り添う公共交通のスロープ、エレベーター、改札、車両といったハード面から、外出サポートの仕方や制度などの心理的なソフト面で異なってくる。たとえばアメリカでは、鉄道やバスは車いすユーザーがひとりで乗降できることが前提で施設や車両が設計されていて、鉄道の駅員やバスの乗務員がわざわざ手伝う必要がない。障害者と健常者を分ける意識がほとんどないため、障害者も堂々としていて、周囲も気兼ねなく声を掛ける。技術や予算の問題ではなく、障害者の外出に対する考え方が異なるからだ。車いす利用者がひとりで乗り降りできる鉄道やバスは当然、ベビーカーや大きな荷物を持った人にとっても利用しやすい。

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理解は進みつつある。

日本は何もしていないのかというとそうではない。劇的に改善が進んでいるところもある。例えばエレベーターの設置が進められ、バスの車両は低床化が一般的になり、ホームドアが増え、介助について教育を受けたサービス介助士資格を持つ駅員も急増している。

羽田空港旅客ターミナルは、イギリスの航空サービスリサーチ会社スカイトラックス社が実施した2020年国際空港評価において、高齢者や障害者など移動に補助を必要とする利用者へのサポートが優れているとして2年連続1位を獲得している。

ベビーカーに関しては、「公共交通機関等におけるベビーカー利用に関する協議会」が設置された2013年ごろを境に、鉄道やバス事業者や乗客の意識が徐々に変わってきていると感じる。ベビーカーに対する理解を求めるポスターが掲載され、ベビーカーマークが作られたり、バス車内にもベビーカーのスペースを確保したり、ベビーカーユーザーが移動しやすいようにアプリも作られている。

これだけ多方面で交通事業者や国が改善に努めていても、残念ながらベビーカーや車いすで嫌な思いをしている人がまだまだ多い。

少し古いデータになるが、オンラインベビーシッターアプリを通して女性支援事業を行うキッズラインが2017年に実施したベビーカー利用実態調査によると、「ベビーカー利用時に嫌な思いをしたことがある人」は56.8%と半数以上という結果に。嫌な思いをした場所で最も多かったのが「電車内」で割合は59.3%。車内で舌打ちされるなど邪魔者扱いされたり、ベビーカーを蹴られることもあるという。2021年に入っても筆者の周りでは「ベビーカーを使っていて嫌な思いをした」という声をたくさん聞く。また国交省の調査によると、ベビーカーマークの認知度は「2020年までに50%」を掲げていたが、48.5%にとどまっている。

車いすに関しては、2021年4月に車いすの女性がJRに乗車を拒否されたとするブログを公開したところ、ネットで炎上し、テレビで取り上げられるなど社会問題化した。
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パラリンピックに期待すること。

公共交通のインフラ整備の問題も大きいが、調査の声にもあるように、そもそも根底にある障害者や子育て層の外出に対する日本社会の理解や寛容度の低さを直視する必要があるのではないか。そうしたアップデートされないソフト面がインフラ問題に影響しているように思えてならない。

パラリンピック期間には、障害を持ちながらもアクティブに社会参加する世界中の選手たちが、各々の障害に合わせた機器を駆使して東京を移動することになる。

残念なのは感染症対策のため、そうした選手たちを街中で見られないということだ。それでもパラリンピックの自国開催が障害の有無や年齢にかかわらず、お互いの人権や尊厳を大切にする意識を高め、支え合う社会に少しでも近づくきっかけになることを切に願う。

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