仏ジャーナリストが掘り下げる近親姦の実態とは?

Society & Business 2021.09.17

ジャーナリストのシャルロット・ピュドロウスキは、ポッドキャスト「あるいは、ある夜」で、タブー中のタブーである近親姦を覆う沈黙の仕組みについて掘り下げている。フランス国内の優れたルポルタージュを表彰するシャファンジョン賞に続き、先ごろ、CBニュース2021年ベストポッドキャスト賞も受賞した。

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ジャーナリストのシャルロット・ピュドロウスキは、ポッドキャストの新シリーズ「あるいは、ある夜」で、近親姦を覆う沈黙の仕組みについて掘り下げている。photo : Getty Images

フランスでは平均してクラスで2~3人の子どもが近親姦の被害に遭っている(1)という。加害者の98%は祖父、父、兄弟。他者の身体を弄ぶことを喜びとする家父長主義的な男性たちだ。

「タブーの中でも、これほど頻繁に犯されているものはほかにありません」とジャーナリストのシャルロット・ピュドロウスキは言う。この毒がプライベートの領域や家族の中にいかに広く浸透しているかについては、30年以上も前から統計が明らかにしている。

スタジオ・ルイ・メディアの共同創設者でもあるジャーナリストのピュドロウスキは、6つのエピソードからなるドキュメンタリー・ポッドキャスト『あるいは、ある夜』(やはり近親姦被害者だったバルバラの楽曲「黒い鷲」から取られている)で、被害者だけでなく社会全体を覆う沈黙の濃さについて考察。9月6日、CBニュースにより、2021年ベストポッドキャスト賞に選ばれた。

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説明の糸口を求めて、シャルロット・ピュドロウスキは当事者に会うために各地を巡る。

最初に会いに行ったのは自分の母親だった。彼女の母は2012年のある夜、レストランで、実の父親が娘である自分を「性の対象にしようと」したとほのめかしたが、すぐに話題を変えてしまった。

そのときは明かされた事実に羞恥心を感じたが、数年経って彼女の中で疑問が湧く。なぜ母は、身近な存在である娘に、26歳になるまで話さなかったのか。なぜ10歳の頃から娘を虐待した相手のもとを、子どもたちを連れて年に数回訪ね、関係を維持しようと努めたのか?

「男になるということはまず女たちを黙らせることだという神話を、西欧文化は何千年も前からつくり上げてきました」と彼女は説明する。たとえば「愛するがゆえの鞭」、「沈黙は同意のしるし」……。ことわざや寓話を解析し、事情に通じた精神科医や人権活動家、弁護士、人類学者のインタビューを通して、ピュドロウスキは、社会がいかにして少女たちに男性の支配に服従するように仕向け、少年たちにこの支配関係を再生産するように促しているかを解き明かしていく。

「映画でよく描かれるような、兄弟姉妹間の近親愛は存在しません。そこにあるのは常に支配のメカニズムなのです」と彼女は強調する。

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幼年期、フェミニズムの次なる最前線

綿密な取材に裏打ちされたピュドロウスキのルポルタージュは、沈黙の掟がもたらす被害の大きさを告発することにも主眼が置かれている。これは被害者の身近な人々にも関わる問題だ。意識的にせよ、無意識にせよ、家族が目をつぶることによって、何世代にもわたる児童虐待の連鎖が助長され、被害者がいっそう固く口を閉ざす状況が生まれる。そして、被害者がようやく話す気持ちになったとき、今度は被害者を保護するはずの司法制度が彼らから目を背ける。

ドキュメンタリーのなかで強調されているように、ウトロ事件(冤罪で有名になってしまった2000年代の児童虐待事件をめぐる訴訟)以来、犯罪認知件数においても、未成年者の法的支援においても、司法機能は後退している。場合によっては、被害者や証人の発言を司法機関が疑うことさえあり、とりわけ母親には子どもを操作しているとしてマスキュリストたちの非難の矛先が向かう。

「法や制度の機能を見直し、法廷や性教育の授業で、母親や子どもたちが子どもを強姦した父親について発言することに耳を傾ければ、社会構造と家父長はひっくり返ります」とピュドロウスキは断言する。「公道でのハラスメントや、MeToo運動、スポーツ界の性的スキャンダル、最近では女優アデル・エネルや作家ヴァネッサ・スプランゴラが未成年時に受けた性的虐待を告発して話題になりました。未成年の問題はフェミニズムの次なる最前線となるでしょう」

議論を継続し、被害者が声を上げやすい環境を作るために、ルイ・メディアはこのシリーズの書籍化を決定。9月29日にグラセ出版から刊行される予定だ。

(1)データは人類学者Dorothé Dussy著『Le Berceau des dominations』(Éditions de la Discussion刊、2013年)より引用。
(2)2015年3月に公開された市民団体”トラウマ記憶と被害者学”が実施した調査「Impact des violences sexuelles à l’âge adulte(性暴力が成人後に及ぼす影響)」より。

 

text : Tiphaine Honnet (madame.lefigaro.fr)

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