原因は育児力格差、「親ガチャ」は子どもからの警告! 

Society & Business 2021.11.18

From Newsweek Japan

文/船津徹(TLC for Kids代表)

日本の若者に「親ガチャ」が広がった理由は、「お金がないから無理」「貧乏だからよい教育ができない」「自分たちに才能がないから子どもも才能がない」「地方在住で教育機会が少ないから不利」というネガティブなバイアスを「親が」子どもに刷り込んでいるからではないでしょうか。

「人生は、生まれた環境(親)によって決まる」

これをガチャガチャにたとえた「親ガチャ」という言葉を見聞きするようになりました。「親ガチャ」というキーワードが日本の若者に違和感なく浸透した理由として「家庭の経済格差」が広がっていることが指摘されています。

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photo: iStock

私は日本、アメリカ、中国で教育に関わり、多様な家庭の親子を見てきましたが、親の経済力による「教育格差」は間違いなく存在します。経済的に豊かであれば、子どもによりよい教育環境を与えられる......というのは、決して嘘ではありません。しかし豊かな家庭に生まれた子どもが全員「親ガチャ当たり!」かと言えば、当然、そんなことはありません。

裕福な家庭、親が高学歴の家庭ほど、子どもへの期待やプレッシャーも強くなり、その結果、つぶれてしまう子どもが世界にはごまんといるのです。「親ガチャ」の根底にある問題は、親の経済力格差よりも「親の育児力格差」ではないかと私は考えています。

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親の期待でつぶされる韓国の子どもたち。

1997年の通貨危機後にグローバル化が進んだ韓国では「海外留学ブーム」が起きました。裕福層を中心に子どもを英語圏へ留学させることがトレンドとなり、ピークの2006年には、全学齢期の子どもの38%が留学経験者という大変大きな数字となりました。

親が競い合って子どもに英語教育を強制した結果、アメリカのトップ大学へ進学する韓国人学生が急増しました。2013年のハーバード大学(大学院含む)の国別在籍者数を見ると韓国人は293名で、中国(722名)、カナダ(568名)に次ぐ第3位となっています。(同年の日本人在籍者数は88名)

ところが、ここに思わぬ落とし穴がありました。アメリカのトップ大学に通う韓国人学生のうち44%がドロップアウト(途中退学)してしまったのです。

物心ついた時から脇目もふらず、青春のすべてを勉強にかけてアメリカの名門大学合格を勝ち取ったのに、なぜ半数近くの学生が志半ばで途中退学することになってしまったのでしょうか?

親に言われるまま英語学習に励み、親の期待に答えるために留学し、親が希望する世界のトップ大学に合格したことで目標を失い、さらなる学習への意欲を失ってしてしまったのです。いわゆる「燃え尽き症候群」と呼ばれる現象です。

世界中から優秀な人材が集まるアメリカのトップ大学は、入学するのも難しいですが、それ以上に卒業するのが大変です。合格後にさらに激化する世界のエリートたちとの競争に心が折れ、勉強へのモチベーションが湧かず、「自分はアメリカではやっていけない」と自信喪失してしまったのです。

裕福な家庭の子どもは質の高い教育を受けることができますが、同時にハイレベルの競争に巻き込まれます。親が「教育」に気を取られて、子どもの「心育て」を置き去りにしてしまうと、いつか経験する挫折に耐えられないのです。

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たくましい心を育てることに目を向ける。

現代社会を生き抜く子どもに求められるのは「たくましい心」です。勉強ができること、いい学校に合格することも重要ですが、人生の成功を決定づけるのは精神的なたくましさです。

「たくましい心」を育てるにはお金は必要ありません。また親の学歴も、職業も、住んでいる場所も関係ありません。必要なのは「親の関わり方」だけです。子どもの「自主的なやる気」を伸ばして「自信」を大きくすればいいのです。

自信が大きければ少々の挫折に負けることはありません。「自分はできる」と信じている子は、困難に立ち向かい、新しいことにチャレンジする勇気を兼ね備えています。失敗に屈せず、努力を重ねれば、どんな道を選ぼうとも、子どもが成功する確率は飛躍的に高まるのです。

つまり親の育て方次第で、どんな子どもも成功者になれますし、どれだけ才能がある子どもでも、親が育て方を間違えれば自己肯定感が低く、やる気の小さい子どもにも育ってしまうのです。

「親ガチャ」は努力したくない子どもの言い訳ではありません。子どもの人生をコントロールしようとする親、「心育て」をおろそかにする親が(世界中で)増えていることに対する、子どもからの警告であると私は捉えています。

親が最初から「この程度だ」「人並みでいい」、あるいは、「一流校に合格しなければならない」「一流企業に就職しなければならない」という前提で子育てをしていれば、子どもの「やる気」も「自信」も育つはずなどないのです。

日本の若者に「親ガチャ」が広がった理由も、「お金がないから無理」「貧乏だからよい教育ができない」「自分たちに才能がないから子どもも才能がない」「地方在住で教育機会が少ないから不利」というネガティブなバイアスを「親が」子どもに刷り込んでいるからではないでしょうか。

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子どもの意思を尊重し、子どもに選択させる。

親の理想の押しつけやネガティブバイアスの刷り込みなど、子ども不在の教育を続けていると「自主的なやる気」が育ちません。たくましさの源泉は、子どもが「自分の意思で」ものごとに取り組んだ時に「自分の力でできた!」という成功体験にもとづいて生まれるものです。

つまり「あれをしなさい」「これをしなさい」「勉強しなさい」「宿題やりなさい」といった命令や指示を減らし、子ども自身の選択を尊重し、親が具体的な行動を強要しなければいいのです。

このようにお伝えすると「子どもが勉強をせずにゲームばかりしている!それでも放っておくのか!」という声が聞こえてきます。そのような時は「いつ宿題するのか教えてくれる」「ゲームを何時までやるのか決めてくれる」と、子ども自身に選択させてください。

子どもが「宿題はご飯の後にやる」「ゲームは4時になったらやめる」と言えば、親は「わかった。約束だよ」と伝えます。子どもは自分の意思で選択したことについては、きちんとやろうとします。親からうるさく言われて渋々勉強するのと、自分の意思で取り組むのでは、学習効果に差が出ますし、子どもの「心」の発達にまるで違う結果をもたらすのです。

子どもの意思を尊重するというのは、ほったらかしにしろということではありません。ひとりの人格者としてマナー、エチケットなど、社会的責任を伴うことも厳しく指導します。子どもが公共の場所で騒いだり、ルールに反したり、やるべきことをやらない場合は、親は毅然とした態度で子どもの行動を非難してください。ただその時も、子どもに行動を選択させることがポイントです。

子どもの頃から「自分のことは自分で決める」訓練をしていないと、自分のことがよく分からないまま大人になってしまいます。自分で考え、自分で決めて、自分で行動する経験を積ませることは、自分を知り「たくましい心」を身につけるために不可欠なプロセスなのです。

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親が習慣を変えれば、子どもも変わる。

家庭の経済環境は子どもの「やる気」とは無関係です。隣の芝生を羨むのではなく、ありのままの子どもを尊重し、いい面を伸ばす子育てを実践すれば、子どもは自信を持つことができますから、子ども視点から言えば「親ガチャ当たり」なのです。

私はこれまで世界中で5000人以上の子どもたち、そしてその親たちを見てきました。キラリと輝く子どもを育てている親は、(経済状況に関わりなく)子どものいい面を見つけて、それを伸ばすためのサポートを行い、「自主的なやる気」を大きく育てています。

子どもの「やる気」は、親の何気ない言動、行動、習慣によって大きな影響を受けます。子どもにネガティブな刷り込みをしないためには、親が自身のバイアスに打ち勝ち、情報にふりまわされないことが大切です。どのような態度を親が見せ、どんな環境を用意し、何を投げかけ、どう考えさせるか。そのような親の習慣が、子どもの「やる気」を育てるきっかけになります。

船津徹

TLC for Kids代表。明治大学経営学部卒業後、金融会社勤務を経て幼児教育の権威、七田眞氏に師事。2001年ハワイにてグローバル人材育成を行なう学習塾TLC for Kidsを開設。2015年カリフォルニア校、2017年上海校開設。これまでに4500名以上のバイリンガル育成に携わる。著書に『世界標準の子育て』(ダイヤモンド社)『世界で活躍する子の英語力の育て方』(大和書房)がある。

 

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text: Toru Funatsu

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