カップルは何でも話せる「親友」でなければいけない?

Society & Business 2022.01.03

何でも打ち明けられる、ウマが合う、運命共同体……。パートナーがいちばんの親友という人たちがいる。固い絆で結ばれた長続きするカップルはみんなそうなのだろうか? 何でも晒け出していいの? 何でも話していいの?

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友情は、カップルの関係にとって、アドバンテージ、それとも? photo: Getty Images

パートナーを親友、と表現することが一般化している。息の合った仲良しカップルもいるし、最近ではオマール・シーやミシェル・オバマなど、#BFFでパートナーを親友と呼ぶセレブも。それはカップルが円満な証拠、と見る人もいるだろう。しかし恋人は必ず親友であるべきなのだろうか? 友情はカップルの関係にとって切り札? それとも重荷? 哲学者のマリー・ロベール(1)と精神分析家のフローランス・ロートレドゥ(2)の回答を紹介する。

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――パートナーに対して、ウマが合う、運命共同体だと感じられることは、ふたりの関係において究極の目標でしょうか?

フローランス・ロートレドゥ 必ずしもそうとは言えません。友人の方が息が合うこともありますが、だからといってその友人をパートナーに選ぶわけではないでしょう。恋愛関係に何を求めるかによるのです。友情と同じような、心地よい一体感を期待することもあれば、逆に、互いに未知の領域が出会い、折り合いをつけるという、エロティックな緊張感が強く作用する関係を期待することもあります。また両方が混ざり合ったものを選ぶ場合もあります。

マリー・ロベール 「ウマが合う」という言葉は何を意味しているでしょうか? プラトン哲学によれば、愛とはエロティックな情熱に当たる“エロス”と、友愛の絆に当たる“フィリア”、この分かち難いふたつの概念によって特徴づけられます。フィリアはカップルにとって不可欠ですが、実際の友情と違って、この愛着感情のベースになるのはふたつの人格の類似性ではなく、互いを魂の伴侶と考える補完性です。すべてがぴったり合わなければいけません。相手のまなざしによって心が豊かになり、そこから運命共同体の関係が生まれます。相手の話に耳を傾け、互いの差異を認めたうえで対話し、互いに高め合って合意点を見つけ、共通の価値観を構築できてはじめて、あらゆる関係が目指す究極の目標に到達できるのです。

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――集合的イメージにおいては、この「親友」というラベルはカップルの絆の固さ、すなわち、関係の安定性を証明するものと考えられています……。

マリー・ロベール 一般的に友愛の絆はすぐには芽生えません。まずは一目惚れやある種のショックから始まり、肉体的な次元での満足を求め合う。関係が安定して構築期に入り、日常が始まると、友愛の絆が大切になり、長続きする関係を視野に入れられるようになります。「親友」という表現の背後に読み取れるのは、無条件の情緒的安心感を求める気持ち。つまり苦しいときもうまく行っているときも、何があろうと身近にいてくれる人ということになるでしょう。あらゆるものが消費され使い尽くされる脆弱な社会に直面している私たちに、この親友というラベルは、ふたりで互いに支え合えば嵐を乗り越えられるということを思い出させてくれるのです。

フローランス・ロートレドゥ 付き合い始めたばかりのカップルが親友という表現をめったに使わないのも見過ごせない点です。最初は欲望によって結ばれたとしても、ふたつの視点の出会いやぶつかり合い、数年間交際することを通して、長続きする関係のための基盤が出来上がっていくのです。カップルはこうして、主に性的直感が支配する最初の2~3年から、コミュニケーションや交換を大事にする期間に移行します。それでも相手が去ってしまうとか、ほかの人に惹かれるかもしれないという不安が残る。友情には裏切りは存在しません。パートナーを「親友」と呼ぶことで、愛情関係は神聖化されます。この表現が使われるのは、いわば自分で自分を安心させるためなのです。

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――2014年に全米経済研究所が発表した調査で、配偶者を親友と考えている男性は、そうでない人に比べて、人生に非常に満足していると答える確率が2倍だという結果が報告されています。研究者たちは、男性は女性に比べて友人が少ない傾向があるという説を持ち出して、このことを説明しようとしています。「配偶者=友人」という考え方はカップルそれぞれの交友関係の数によるのでしょうか?

マリー・ロベール 数は関係ないと思いますが、交友関係の質は影響を及ぼすかもしれません。私たちは不安を誘発しやすい社会に生きています。こうした状況のなか、私たちは安らぎを感じる交流につながるものを求めます。ただ家族や友人との間に安心できる関係が築かれていない場合、必然的にパートナーとの間にそれを求めるようになります。男性の方がその傾向が強いのは、歴史的、社会的な多くの理由から、女性は女性同士の間で気持ちを通わせ、励まし合い、無条件の深い絆を育む習慣があるためです。そのことは大衆文化にも現れています。いま女性同士の友情がかつてなく話題になっています。

フローランス・ロートレドゥ 交際の初期にカップルがふたりの世界に閉じこもる現象がよく見られるのは、相手と家族を作りたいという欲求のためかもしれません。男性の場合、母親の胎内で最初に愛情に浸されて以来、母という人物像との間に緊密な関係があります。ですから、なかにはパートナーを親友という高い地位に昇格させて、この図式をパートナーとの間に再現し、あらためて自己十全感を得ようとする男性もいます。とはいえ、パンデミックやロックダウンがこうした関係に及ぼした影響も見過ごせません。多くのカップルにとって、社会的交流の機会のない閉じられた空間で相手と正面から向き合ったことは、自分たちの関係を客観視するきっかけとなりました。コロナ禍がいち段落すると、かなりの数のカップルが自分たちの恋愛に改めて集中するよりも、逆に交友関係を広げたいと望んだのです。

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――「よき友」という地位はカップルにとって危険なものではないですか? 性的欲望に影響を及ぼすことはありますか?

フローランス・ロートレドゥ もちろんあります。相手が風景と同じくらい魅力的でも、友人同士の間柄のようにいつもそばにいる身近な相手になってしまうと、驚きを感じなくなり、互いに自分自身の世界を持てなくなると、相手に対する欲望も薄れてしまいます。出会い系アプリやサイトもこのような友情と愛情の中間の出会いを促進させました。これらのサービスは「類は友を呼ぶ」という原則に基づいていますから。このコンセプトによって日常レベルでそれなりに相性の合う人と知り合えたとしても、最終的には、他者との出会いのマジックやそこから醸し出される魅惑には欠けています。

マリー・ロベール 文学的伝統や、アルベール・コーエンの『選ばれた女』のような小説のおかげで、恋愛には障害がつきものとか、距離や神秘性から欲望が生まれるという考えが広まりました。このモデルは、いまや時代遅れになったと思います。なぜならそこには限界があるからです。エロスの力だけに頼るカップルは対話をすることが難しく、関係が進展するにつれて遭遇する複雑な状況を乗り超えるのに苦労します。友愛の絆から相手への信頼が生まれ、相手が近くにいることで、オープンに話をすることができるようになるのです。これはカップルが長続きするための秘訣です。

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――しかし本当に、パートナーに何でも見せ、なんでも言っていいのでしょうか?

マリー・ロベール 必ずしもその必要はありません。恋愛でも友情でも、「何もかも言う」という透明性を私は信用しません。「秘密の花園」に隠されているものは人によって違いますが、パートナーが見せたいものも、隠したいものもどちらも同じように尊重するのが原則です。

フローランス・ロートレドゥ 友情は不滅で、どんな障害も乗り越えられるかもしれませんが、愛の絆は外見や態度、言葉などの点で気を緩めると壊れてしまうこともあります。友人と話すときよりパートナーと話すときのほうが気をつかうものです。なぜなら愛情には必ず相手をいたわる気持ちが働きますから。言えることと言えないことをどうやって見分けるかについては……。恋愛関係を守り、美しい関係を維持するには、与えるものと表現することの間に、適度な配分を見つける必要があります。自分だけに属する物事もあります。そういう事柄はカップルの間で話題にする前に、まず自分の心とよく相談するべきです。

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――パートナーのことを親友と思えないのは、いい相手ではないということでしょうか?

マリー・ロベール それについて気にする必要があるかどうかはわかりません。恋愛関係にはこうでなければという決まりはないと思います。ただ、これは長いタームで考えるべき問題です。友情の力なしに、つまりセックス以外に繋がりを感じない関係で、カップルが持続するとは想像し難いのです。友情がないなら、ほかにどんな絆が構築できるのか? 一考に値する問題です。

フローランス・ロートレドゥ 私たちはみな、親友でもあり恋人でもある理想の人を探し求めます。これは正当な探求であり、ときには実を結ぶこともあります。実生活では、冷静になって、ふたりの関係が具体的に何をもたらしてくれるのかを考えてみるといいでしょう。自分はこの人と一緒にいて不幸より幸せを感じているか、自問してみることです。人によっては、情緒的な安心感が鍵となることもありますし、充実感が大事な人、愛着が鍵となる場合もあります。一方で、親友を探す前に、まず自分のなかに親友を見つけることが大切だと私は確信しています。自分自身を尊重し、自分を丁寧に扱いましょう。想定外のプロジェクトに着手する勇気を持てば、ポジティブな経験をする機会が増えます。そのうちにパートナーとの間に思いがけない親近感が芽生えるかもしれませんし、適切な新しい関係に向かうかもしれません。

(1)Marie Robert著『Les chemins du possible』Flammarion出版刊
(2)Florence Lautrédou著『L’Amour, le vai』Odile Jacob出版刊

text: Tiphaine Honnet (madame.lefigaro.fr)

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