女性上司からのフィードバックにはムッとする?
Society & Business 2022.02.03
文/川和田周
男女ともに女性からの批判に対してより否定的な反応を示すことが報告された。これは、リーダーシップの役割を担う女性の成功に影響を及ぼす。
管理職の女性に対する差別をなくそうとする動きはあるが……。photo: iStock
男性上司のオフィスに呼ばれたシーンを想像してほしい。ドアを締め切ると、彼は重い口を開く。男性上司はあなたの最近のパフォーマンスとコミットメントの欠如に失望しているようだ。「フィードバックを受け入れて、もっと努力していただけませんか?」もしくは「新しい仕事を探し始めますか?」
さて、あなたの上司が男性ではなく女性だった場合、あなたの反応は異なるだろうか?
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女性管理職はツライ。
昨年2月にジェーン・フレイザーがシティグループCEOに就任。米金融業界で初となる女性トップの誕生はウォール街だけでなく、世界中の女性リーダー、そして企業へ、成功に向けたメッセージが込められている。ガラスの天井にヒビが入ったのだから。
とはいえ、女性管理職への風当たりは強い。それも味方である社内から。従業員の中でも部下にフィードバックを与える地位にある女性は、部下へのフィードバックが裏目に出そうな場合には本心を抑え、代わりにあまり効果の期待できない管理戦略を採用してしまう。結果、その地位を維持することにまったく関心をなくしてしまう可能性がある。
S&P 500企業のうち女性従業員の占める割合は45%だが、役職で見ると性差は歪だ。女性は、中堅レベルのマネージャーが37%、上級レベルのリーダーが27%、CEOでは約6%にとどまっている。
学歴のせい?──いいえ、2018年に男性を学歴で追い抜いたにもかかわらず、だ。およそ10年前からリーダーシップ能力を測るテストでも女性が高得点を出し始めていた。
これまでの研究では、上級管理職の求職者に対する性差別の明確な証拠は確認されていない。方法論的な制約のため、このような研究は通常、エントリーレベルのポジションの採用に焦点を当てていることから、研究者が民間企業の業務内での相互作用を観察するのは簡単ではないし、ましてや昇進における差別を研究するのははるかに難しい。
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女性には褒められることを期待してしまう。
ミドルベリー大学の経済学者マーティン・アベル博士はこのブラックボックスにメスを入れようと挑んでいる。
アベル博士が主導する調査では、まず、領収書を書き写す転記の仕事を依頼しようと2,700人の労働者をオンラインで募集・雇用した。グループの管理者には男性と女性をランダムに割り当てた上で、どの労働者がパフォーマンスのフィードバックを受けるかをランダムに割り振った。
その結果、女性の管理者によるフィードバッグを受けた人は、男女ともに否定的な反応を示すことが分かった。被験者たちは、女性によるフィードバッグは、男性によるフィードバッグよりも、仕事に対する満足度の低下につながると報告した。また、女性の管理者から批判された場合、この先その会社で働きたいと思わなくなる、という声もあった。
さらに、この研究で労働者メンバーに割り振られた被験者は、無意識のうちに男性を「キャリア」に、女性を「家庭」に関連付ける可能性が高いことが分かったが、この傾向から女性の上司を差別するかどうかは予測できるものではない。また、女性管理者に接する機会の少なさが原因ではないとしている。
むしろこの結果から浮き上がったのは、管理スタイルに対するジェンダーの期待だと思われる。ある研究では、労働者は女性上司から賞賛を与えられることを3倍、男性上司に対して批判されることを2倍連想する傾向があることが示されている。人は自分の期待通りにならないことがあれば、否定的に反応するものだ。
この研究の成果を、古い体質の職場環境にどの程度まで落とし込み、一般化できるかはまだ未知数だ。とはいえ、ギグ・エコノミーやリモートワークなど働き方は、急速にその形を変えつつある。
ギグ・エコノミーやリモートワークの柔軟性に注目して、特に女性にメリットがあると主張する人もいる。しかし、アベル博士の研究結果は、こういった流行りで一見耳触りの良い仕事の規制監督や機会均等保護の欠如によって、ギグ・エコノミーにおける差別に関するさらなる懸念を浮き彫りにするものである。
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改善策は?
近年、管理職の女性に対する差別をなくそうとする動きが欧米企業を中心に広まっている。
特にヨーロッパでは、起業する場合、ボードメンバーに積極的に女性を含める。資金調達において、多様性が重視されるポイントでもあるからだ。ヨーロッパとアメリカのB2Bユニコーン企業の女性リーダー比率は21%。昨年夏には、イギリスが上場企業に対し「取締役の4割を女性」にするよう多様性確保を促す新たな指針案を公表した。
一方の日本は、2021年7月末時点における東証一部上場企業の女性役員数は、前年比527人増の3055人。女性役員割合は7.5%。9年間で約4.8倍に増えたものの、諸外国に比べて低い水準にとどまっている。
もっと言えば、これは上層部の話。グループリーダー、主任、課長など、取締役でない女性従業員を取り巻く環境はより甘くない。
アベル博士の研究の成果を、古い体質の職場環境にどの程度まで落とし込み、一般化できるかはまだ未知数だ。数値目標を達成して、ダイバーシティを謳い、イメージアップを狙うポーズだけでは内実は伴わない。
女性管理職への風当たりを改善するために、「フィードバックコーチ」を導入する企業もある。フィードバックをする人の身元ではなく、フィードバックの内容に注目するよう従業員に進言している。また、従業員が偏見を持つように感じたら、その事実を知らせることで、従業員の行動に影響を与える可能性があるという証拠もある。
他の研究では、ポジティブな評価や推薦状など、リーダーシップのある女性の資格、つまりは一目瞭然の高いスペックを強調することが、効果的な対策になる可能性があると示唆されている。
アベル博士曰く、「私の研究では、女性上司からのフィードバックを受けた従業員の否定的な反応は、若い人ほど低く、20代ではまったく見られません」。若手社員が年齢を重ねるごとに差別をする可能性も否めないが、世代交代が進んで、管理職の女性に対する差別がなくなるという希望的観測を抱いている。