子どもの唇へのキスはOK? ベッカム騒動受け、心理学者が解説。

Society & Business 2022.02.15

エスキモーキス、バタフライキス、ビズ……。親子の愛情表現にはさまざまなやり方がある。鼻、まつげ、頬、そして……唇。親子同士のキスを他愛のない家庭の習慣と捉える人もいれば、このうえなく不適切な行為と考える人たちもいる。親子間のキスについて心理学者に話を聞いた。

faut-il-embrasser-ses-enfants-sur-la-bouche-.jpeg侵犯、退行、圧迫…子どもの唇にキスをするのは必ずしも愛情表現ではない。photo : Getty Images

ことの発端はひとつのキス。1月14日、デビッド・ベッカムが「プリンセス」こと娘のハーパーとの朝の散歩の一コマをインスタグラムに投稿した。写真のベッカム親子は唇を合わせてキス。投稿の下のコメント欄では、愛情に満ちた家庭習慣として擁護する人たちと、不適切な行為と憤る反対派が真っ向から対立し、熱い論戦が繰り広げられた。

愛情を伝えるために親が子どもの唇にキスをするのはベッカム家だけではない。「夜寝るときや、朝、校門で別れる時の挨拶として、唇へのキスが文字通りひとつのコミュニケーション手段となっている家庭もあります」と、児童心理学者のフローランス・ミヨは話す。反対派が非難するように、この行為は不健全なのだろうか? それともこちらが勝手に性的な意味を付与してしまっているだけなのだろうか? キスされる子どもはどう受け止めているのだろう? 児童の心の専門家に質問した。

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ーー唇へのキスがこれほど物議を醸すのはなぜですか?

この行為が、私たちが生きる現代の世界ともはや合致していないからです。この文脈での唇へのキスは、多くの場合が不意打ちです。一方2022年を迎えて、同意に関する議論はこれまで以上に活発に行われています。

このような習慣は子どもの日常に深く根を下ろすので、子どもは疑問を持つことができません。またこれを習慣として取り入れるのは親なので、子どもが問い直すのは難しい。親は子どもから見ると、恐ろしい、威厳のある存在ですから、子どもは親のなすがままになります。唇へのキスはこうした問題をはらんでいます。

親はどこまで介入できるのか。また子どものプライバシーの境目を親の都合でどこまで変更できるのか。こういったさまざまな議論の火種なのです。

ーーこの行為がほぼ習慣化している家庭もありますが、子どもの心理に影響を及ぼすおそれはありますか?

親が自分にするキスが、親同士の間で行われるキスと同じものだと子どもが気づいた場合、子どもが感じる親子関係についてのイメージは全体的に揺らぐことになります。そもそもこうした家庭力学においては、“カップル”が間違った場所に形成されているケースが珍しくありません。両親の絆の中にあるべき中心点が、親と子どもという新たな形のカップルに移動してしまっているのです。

こうした混乱のなかで、子どもは自分の役割と、家庭での自分の位置づけを再解釈します。自分が他方の親と同じ立場にあると認識した子どもは、自分とその親が対等であると考えます。子どもは小さなリーダーとなって、自分の周囲の世界をコントロールしようとします。こうした混乱が後に、特にエディプスコンプレックスを抱く時期に問題となることもあります。異性の親に対して、欲望とアンビバレントな強い感情を抱いた子どもは、同性の親をライバル視するようになります。

私的な領域の扉である唇へのキスには、親子の一体感に関わる問題も絡んでいることを忘れてはいけません。唇へのキスは侵入行為であり、子どもたちの個の領域を侵犯しています。このように親が子どもを圧迫すると、子どものあらゆる出口を塞いでしまい、子どもが外の世界を求めたり、幼いながらも自分で自分に対する愛情を探すことを妨げてしまう。こうした意味で、キスは退行的な行為であり、そうすることで親が子どもの成長を妨げている可能性があります。

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唇へのキスは、子どもがエディプスコンプレックスを抱く時期に問題を起こす可能性がある。photo : Getty Images

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ーーでは親は子どもの唇にキスをしないべきでしょうか?

この行為がそこまで悪いものだとは言いませんが、実際のところ、子どもの唇にはキスをしないほうがいい。キスはとても強いものです。恋人たちが何時間もこの行為に熱中するのには訳があります。口はとてもエロティックな部位であり、生まれたときから、その役割を担っています。人によっては正真正銘の快楽器官でもあります。そもそも新生児にとっては、乳房を吸う快楽をはじめ、生まれて最初に経験する様々な感覚がまさに口を起点として開花します。したがって子どもにも一種の官能的興奮があってもおかしくないのです。子どもにはその感覚を言葉で表現する明晰さはまだありませんが。

赤ちゃんは2歳までは完全には自分の身体を意識していませんから、ときどきなら赤ちゃんを「食べ」たい、「貪り」たいという欲望を満たしても構わないでしょう。ただ、子どもの自立心が芽生える3歳前後にはやめるべきです。

ーーキスが家庭での習慣になっている場合、どうやってやめればいいでしょうか? 親が拒んだときに子どもに拒否されたと思われないようにするには?

子どもは模倣するものです。子どもは私たちが子どもの前ですることを真似ます。こちらが近づいたときに、もし子どもが習慣から唇を差し出したら、にっこり笑って頰を差し出しましょう。怖がることはありません。子どもは拒否されたとは思いません。子どもが親の優しさや愛情を感じ取る局面はほかにもあるからです。抱っこの仕方、泣いたときや、寂しがる子どもを慰める態度に…。

親が子どもに愛情を伝える方法は無数にあります。子どもが必要としている分だけ愛情を注いであげるのに、唇が不可欠なわけではありません。

text : Julia Mokdad (madame.lefigaro.fr)

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