元ミスUSAの死、その後。母に送った最後のテキストが公開。

文/安部かすみ(在ニューヨークジャーナリスト、編集者)

日本では、渡辺裕之さんや上島竜兵さんなど芸能人の自死が続いた。少し前も、竹内結子さん、三浦春馬さん、神田沙也加さんといった思わず耳を疑うような実力派俳優が亡くなり、その早すぎる死が惜しまれた。

アメリカでは今年始め、元ミスUSAのチェスリー・クリストさん(享年30歳)が、ニューヨークの高層ビルから飛び降りて亡くなり、大きなニュースとして報じられた。

クリストさんは2019年にミスUSAに選ばれる前は、ロースクールを卒業して法学博士号とMBA(経営学修士)を取得するなど、才色兼備で誰もが羨む人生を送っていたはずだったが、2022年1月30日の早朝、自宅のある高層ビル前で倒れているのが発見された。

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その朝、自身のインスタグラムの投稿で「この日があなたに安らぎと平和をもたらしますように(ハートの絵文字)」というメッセージをファンに残していた。またその2週間前には、フィットネス・ウェアを着た写真を投稿するなど心身ともに健康そうな姿を見せていただけに、急死の一報は人々に衝撃を与えた。

 

 

1949年以来、アメリカでは毎年5月はメンタルヘルス啓発月間(Mental Health Awareness Month)に指定されている。クリストさんの死から4ヵ月、少しでも多くの人を救えるならと、母のエイプリル・シンプキンスさんはトーク番組に出演し、死の直前にクリストさんが送ったテキストメッセージを公開した。

クリストさんが心の病気と闘っていることは、メディアやSNSを通して伝わりにくかったが、シンプキンスさんによると、クリストさんは「20代前半からうつ病に苦しんでいた」という。無理やり笑顔を作ろうとしていることにも気づいていたそうで、「娘は(症状に蓋をしてしまう傾向がある)High-functioning depression(持続性うつ障害、高機能うつ病、微笑みうつ病、笑顔のうつ病などと訳される)と闘っていて、前も自殺を試みたことがあった」という。そして「(娘のように)うつを患っている人が常にベッドから出られないわけではない」と語った。

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クリストさんからの最後のテキストは、シンプキンスさんがエクササイズのクラスを受講中に届いていたという。(公開された一部の)概要はこのようなものだった。

「これを読む頃、自分はもういない」ことへの謝罪から始まり、親友であり続けたこと、自分の心を汲み寄り添ってくれたこと、自分を愛してくれたことに感謝を述べた。そして「お母さんのことが誰よりも大好き」とあった。

これからも一緒にいることができればよかったとしつつ「持続的な悲しみや絶望、孤独に耐えることができない」と告白。そのような感情は、家族同士の集まりや気の置けない仲間との食事会などでも常につきまとい、「ほぼ毎日泣いている」「何年もの間、自殺願望があった」と明かした。そして(心の)重みを誰とも共有したくなかったという。母親に心配をかけたくなかったため気持ちを伝えることはなかったと説明が続き「(気持ちが)変化していくことを望んだけど、期待通りにはいかなかった」と胸の内を明かした。

一般的に、アメリカの著名人やセレブは、自身のメンタルヘルス問題を、わりとオープンにする傾向がある。うつや気分の落ち込みなどを告白し、啓蒙活動をする人も多い。クリストさんも生前、深い気持ちまでは明かさなかったものの、さまざまなメディアやSNSで、メンタルヘルスの整え方や心身のセルフケアの方法を発信し啓蒙活動に勤しんでいた1人だった。

例えば昨年、テニスの大坂なおみ選手は、2018年に行われた全米オープンの記者会見がトラウマとなり、以降気分の落ち込みや憂鬱な気分が長い間続いていると告白。試合後の記者会見を辞退し、その後全仏オープン自体を棄権する騒動があった。

これについて日米では、彼女の意思を尊重し支持する意見や心配する声から、「自分勝手」「わがまま」といったバッシングまでさまざまな反響が起こった。

米『タイム』誌のカバーになっ“IT‘S O.K. TO NOT BE O.K.”(大丈夫じゃなくて大丈夫)や「辛い時には辛いと言っていい」というメッセージも、この時期、アメリカで大きな話題となった。

筆者が話を聞いたニューヨーク州心理療法士のダニエル・ファン氏によると、「メンタルイルネス(精神障害、うつ、心の病気)とは「白か黒か(うつかうつじゃないかといったレベル)の話ではない」と言う。

メンタルイルネスを引き起こす要因は遺伝的なもの、性格的なもの、育った環境、職場や家庭のストレスなど外的なものなどさまざまで、それらが複雑に絡み合う場合もあるという。また、うつのレベルも症状の軽いものから自殺をするほどの重いものまで人それぞれ。程度はその人しかわからないそうだ。そして、人は落ち込んだ気持ちや悪い状態を隠す傾向にあるが、心の病を重症化させないためには「悪化する前に早めに告白してしまうのが良い」と言う。よって大坂選手は(自殺などを起こすような)重症化する前の段階で、自分がどのような状態にあるのか、どんな気持ちなのかを包み隠さずに話した良い手本だ」と評価した。

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ほかにも有名どころでは、ジャスティン・ビーバーなども、これまでうつとの闘いやドラッグ依存を告白し、心の病をオープンにしてきた1人だ。17年に自身のツアーを自分のメンタルヘルスが原因としてキャンセルし、19年にはうつ病の治療を始めたことも伝えられた。

20年にリリースした『Lonely』という曲では、孤独で寂しい気持ちを切なく歌い、多くのファンから共感を得て、曲は大ヒットした。

「孤独を感じているなら、それについて話してみて。大きな声で言ってみて。そうしたら自由が待っていると、人々に勇気づけたい」と語ったことが伝えられている。

 

 

在ニューヨークジャーナリスト、編集者。日本の出版社で音楽誌面編集者、ガイドブック編集長を経て、2002年に活動拠点をニューヨークへ。07年より出版社に勤務し、14年に独立。雑誌やニュースサイトで、ライフスタイルや働き方、グルメ、文化、テック&スタートアップ、社会問題などの最新情報を発信。著書に『NYのクリエイティブ地区ブルックリンへ 旅のヒントBOOK』(イカロス出版)がある。

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