歴代2人目のフランス女性首相の知られざる素顔とは?

Society & Business 2022.06.15

去る5月16日にマクロン大統領より首相に任命されたエリザベット・ボルヌ。彼女の輝かしい経歴はよく知られているが、私生活についてはあまり語られていない。

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エマニュエル・マクロン大統領の新内閣首相に任命されたエリザベット・ボルヌ。(マティニョン、2022年5月16日)photo : Getty Images

彼女は長い間、メトロを利用していた。トレードマークは口にくわえた電子タバコ、鋭い眼差し、後ろに流したグレーヘア。遠くからでも彼女だとすぐにわかる。

元RATP(パリのメトロやバスを運営する会社)総裁のエリザベット・ボルヌは5月16日以来、ヴァレンヌ通りのマティニョン館に執務室を構えている。マクロン大統領によって新内閣首相に任命された彼女は、1991年に初の女性首相となったエディット・クレッソン以来、30年ぶりに誕生した歴代2人目の女性首相だ。

「新首相は女性です。この上ない喜びです。とくに彼女は素晴らしい女性ですから」と、彼女が任命されてから数日後にブリジット・マクロンは興奮した口調で語った。

「とてもよい選択」とマクロン派から満場一致で絶賛されたエリザベット・ボルヌだが、首相の座に就くのに決して有利な生い立ちだったわけではない。61歳のいまもなお癒えない個人的な傷を抱えているボルヌは、5月19日に就任後初の公式訪問先であるイヴリーヌ県の都市レ・ミュローで、辛抱強くあることの大切さを説いた力強いスピーチを行った。

大統領の右腕である彼女は、高校生や勤労学生との対話の中で自分の人生についても触れ、今回の首相任命を「すべての少女たちに」捧げると述べた。「私自身がそうでしたが、困難な道のりを歩む場合や、プライベートで不快な出来事に遭遇したとき、科学や論理的なものごとには心強い側面があります。私はそれにしがみついてきました」と数学を愛する理由を語った。

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レジスタンスと強制収容所

なぜならまさにこの教科のおかげで、彼女は救われたからだ。1978年、17歳になったばかりのエリザベット・ボルヌは科学バカロレアを取得。理工系にとっての王道である技術者養成の名門校エコール・ポリテクニークに入学する。彼女は「国の被後見子」という特別な身分であったために学費支援を受けることができた。「国の被後見子」とは、両親のどちらかが戦争あるいはテロで負傷または死亡した未成年の子どもに付与される資格だ。

父親のジョゼフ・ボーンスタインは、1972年、エリザベットがまだ11歳のときに自ら命を絶った。ジョゼフはロシア出身のユダヤ人で、戦時中はレジスタンス運動に加わり、アウシュヴィッツとブーヘンヴァルトのふたつの強制収容所に捕えられた。生還したものの、父親は徐々に抑うつ状態に陥っていった。

2013年にポワトゥ=シャラント地域の知事として初めて市民に国籍を授与する際に、エリザベット・ボルヌは心を動かされた様子で自分の父親に思いを寄せた。「1950年にようやくフランス人となった無国籍の亡命者の娘である私が国籍授与を行うこと。それは統合について語ることになります」

カルヴァドス県のリヴァロで質素な薬局を営む母親に育てられたボルヌ。強制収容所生還者の娘である彼女は、なんとしても成功しようと決意する。「私に選択肢はありませんでした。そうするしかなかった。自分の個性や負けず嫌いの性格がこうして鍛え上げられた」と、情報サイト「ジュルナル・デ ・ファム」の最近のインタビューで彼女は答えている。

クラシックバレエのレッスンに通いながら、少女「バベット」は優秀な成績を収め順調に進学。エコール・ポリテクニーク時代の同級生のひとりは「彼女はとても控え目な学生でした。パーティーやイベントに参加したり、バーや卓球台で遊んでいる姿を見た覚えがない」と当時の思い出を「フィガロ・エテュディアン」に語っている。「大変な勉強家でした(…)。人生を勉強に捧げていたのだと思います」。ポリテクニーク卒業後、彼女は1987年に国立土木学校を修了する。

 

フランスの人気情報トーク番組で自分の生い立ちを語った昨年5月の動画。

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私の息子、私の闘い

共和国最高レベルの教育を受けた彼女は若干28歳で要職に登用される。1989年、彼女は設備省のイル=ドゥ=フランス地方総局のメンバーに抜てきされ、同じ頃に未来の夫に出会った。2歳年下の新米大学教員、オリヴィエ・アリクスと彼女は1989年6月30日に結婚。19年の結婚生活を経て、2008年に離婚した。

2017年、エリザベット・ボルヌはリベラシオン紙にこう語っている。「夫が大学教員兼研究者だったことは、大臣官房で日夜働いていた自分にとって願ってもない環境でした」。ふたりの間には一人息子のナタンが1995年に誕生している。

新首相は根っからの働き者と評判だが、それでも彼女が優先するのは息子だ。「ジュルナル・デ ・ファム」のインタビューで、彼女はこう語っている。「何を置いても息子が最優先です。もう大人で、自立していても」。政治という非常に閉じた世界で自分の道を切り拓いた彼女だが、つねに自分のキャリアより子どもの教育を重視してきたという。「息子の人生のサポート役から手を引く踏ん切りがつかなかったのですね」

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書物と友情

一方で、交友関係を育み、趣味を楽しむことも大切にしている。セゴレーヌ・ロワイヤルやジャック・ラングの大臣官房での勤務を経て、運輸大臣、エコロジー転換・連帯大臣を歴任し、2020年に労働大臣に任命された彼女だが、常に現実の世界に両足をしっかりつけて生きてきた。「友人たちとのつながりを維持することはとても重要です。トップクラスの指導者たちの世界に閉じこもっている場合は特に。似た者同士で群れることを防げます」と語る彼女は、まったく違う道に進んだ高校3年生の時の親友といまも強い絆で結ばれている、と付け加えた。

映画や劇場にも定期的に足を運び、スポーツも嗜むボルヌだが、何よりも好きなのは毎晩の読書の時間だという。読書は彼女にとって「精神を自由にする」手段だ。2017年、彼女はル・モンド紙に好きな作家のリストを明かしている。その中には、元ジャーナリストのソルジュ・シャランドンや、フィンランド人作家アルト・パーシリンナの名前も挙がっている。

首相となってからも習慣を変えるつもりはない。気候問題との闘いや、難航する年金改革など課題は山積みだが、次の国民議会選挙にカルヴァドス県で出馬する彼女は、眠りにつく前には必ず枕元の本を開く。もしかしたらそれは、彼女のお気に入りのソルジュ・シャランドンの小説『Une Promesse(約束)』かもしれない。

text: Léa Mabilon (madame.lefigaro.fr)

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