MISIAが語る―アフリカの子どもが描いた絵を通して心に触れること 。
Society & Business 2022.09.04
歌手MISIAに、TICAD8(第8回アフリカ開発会議)を機に開かれた、アフリカの子どもたちの絵画展『MISIA HEART FOR AFRICA』についてインタビュー。子どもたちの絵から伝わるものとは。
2018年、ケニアの首都ナイロビのマゴソスクールを訪れたMISIA。
ケニアとザンビアの子どもが描いた、249点の絵画を東京で展示
東京の玄関口、東京駅の目の前にある新丸ビルで、ユニークな展覧会が始まった。タイトルは『mudef x junior artists MISIA HEART FOR AFRICA:子ども絵画展 "わたしの大切なモノ"』。8月27・28日にチュニジアでTICAD8(第8回アフリカ開発会議、The Eighth Tokyo International Conference on African Development)が開かれることを機に、アーティストら著名人と社会貢献活動を行う一般財団法人mudef(ミューデフ)が主催し、日本の音楽界を代表する歌手、MISIAの全面協力を得て企画された本展では、ケニアとザンビアの子どもたちが描いた249点の絵を展示している。
絵を掲げるザンビアの子どもたち。
TICADは、日本政府が国連や世界銀行などと共同開催し、アフリカ諸国の政府関係者とアフリカについて協議する、3年に1度の催しだ。アフリカ各地をたびたび訪れて教育支援に携わり、TICAD5とTICAD7の名誉大使も務めたMISIAに展覧会や現地での体験について話を聞いた。
2019年のTICAD7開催時、名誉大使を務めたMISIAは「TICAD7 LIVE HEART FOR AFRICA」に出演。このチケット収益による寄付金で今回の絵画展が実施されている。
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--絵画展に参加した3つの学校のうち、ケニアのナイロビにあるマゴソスクールは、15年にわたって支援しているそうですね。
2007年に初めて行った時は、一番小さな子が7歳くらいだったので、今は20歳を過ぎているんです。頑張って小学校の先生になったり、俳優になったり、障害を持つ子どもの教育を学ぶために日本の大学に留学している子もいます。教育の力はすごいですね。自分の力で未来を切り拓いて、働いてご飯を食べていますから。日本に留学した女の子が、「学んだことだけは盗まれなかった。一生の財産になった」と言うんですよ。確かにそうだなって感じました。
描き上げた絵を手にする、ケニアのマゴソスクールに通う少女。
--2校はザンビアのメヘバ難民キャンプ内にあり、1校は難民が暮らす地区の、もう1校はザンビアに定住した元難民が暮らす地区の学校だと伺っています。こちらにも足を運ばれたのですか?
TICAD7が開催された2019年に視察しました。ザンビアは8カ国と国境を接する内陸国で比較的安定しているので、周りの国で内戦などが起きると、難民の方が逃げてきていたんです。私は、1週間前にキャンプにたどり着いたというご家族に会いました。3カ月ぐらい歩き続けて国境を越え、疲れ果てて何も財産がないような状態でいらっしゃるんですね。その難民キャンプにある小学校には難民だけではなく地元の子どもも通っていて、みんなが標語のように、「私たちは闘うためにここにいるのではありません、みんなで仲良くなるためにここで勉強しているのです」と話していました。
ザンビア政府は定住を決めた難民に土地を与えているので留まる人もいて、2世、3世の人が暮らしています。簡単ではないですが他の国の方々と一緒に生きていくのは、一つの平和な形だと思うんです。私たちが経験したことのないような困難に見舞われた人々から知識や知恵を学ぶのも、日本を豊かにすることにつながるのかなって。今回の絵画展が、そういう子どもたちに関心を持つ機会になればと思っています。
ザンビアの学校で絵を描く子どもたち。
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--子どもたちの絵をご覧になって、どんな印象を持ちましたか?
絵の傾向が微妙に違うのが面白いですね。マゴソスクールでは、絵を描くことによって心のケアを行うことに力を入れていて、講師として、自身がアートに救われたという卒業生もサポートしていると聞きました。ですから絵が多様なんですよね。大人が「どんなことを感じているの?」と尋ねてきっかけを与えると、子どもは少しずつ心を開いてくれますし、表現の仕方がわかってくるのか、いろんな絵を描いています。
--心のリハビリに、絵が役立っているのですね。
その講師は少年時代にご両親を感染症で亡くし、独りで山の中で隠れて暮らしていました。保護されてマゴソスクールに来たのですが、最初はなかなか喋らなくて。絵を描くことが大好きで、絵を描かせているうちに話すようになったそうです。アートは心を支えてくれる。だから人間にとって一番大事な、生きる力を出させるために、絵を教え始めたんじゃないかと思います。
マゴソスクールの教室の風景。
--ザンビアの子どもの絵にはどんな特徴がありますか?
絵のテーマは"わたしの大切なモノ"。難民の子どもが通う学校の絵は、人の絵が多いという印象があります。お母さん、お父さん、友達とか。定住を決めた家族の子どもは、家や車をよく描いているなと思いました。大体の場合、与えられた土地を自分たちで整地して家を建てるんですよ。やっと大切な家族を守る場所ができたことが誇らしく、嬉しいのではないでしょうか。
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ザンビアの子どもたちと絵。人物や車をのびのびと描いている。
--作品をご覧になる方々に、どんなメッセージを発信したいですか?
「子どもたちの心に触れてください」と伝えたいです。私たちを動かすものは心だと思うので。そうしてアフリカやTICADについても、ぜひ知っていただきたいです。「東京」を名前に冠した国際会議であり、「Tokyo International Conference」としてアフリカの方々に認知されているわけですから。東京で暮らしている人は必ず知っている――くらいの状況になってほしいですね。
MISIAは4点をMISIA賞に選んだ。気になる作品が多く選考は苦労したという。左からMISIA賞に輝いた、ケニア・マゴソスクールの11歳の作品『友達』、ザンビア元難民再定住地域内・学校Hの14歳の作品『お母さん』。
MISIA賞に選ばれた作品、左からザンビア元難民再定住地域内・学校Hの10歳の作品『お父さん』、ザンビア難民キャンプ地内・学校ABの5年生の作品、無題。
>>Part2: MISIAが語る―多彩なアフリカを「知る」ことから始めてみてほしい
MISIA
1998年デビュー。国民的歌手として東京2020オリンピック競技大会開会式で国歌を斉唱。社会貢献活動にも積極的でアフリカで子どもたちの教育支援等を実施。アフリカ開発会議などの国際会議の名誉大使も歴任している。2023年にデビュー25周年を迎え、2022年秋から全国ツアー「25th Anniversary MISIA THE GREAT HOPE」を開催予定。
www.misia.jp
会期:開催中~9/30
(会期中無休、開場時間は丸の内ハウスの営業時間に準じます)
新丸ビル7F 丸の内ハウス ライブラリー
東京都千代田区丸の内1-5-1
入場無料
https://mudef-africanart.com/
※会期終了後も公式ウェブサイトで作品を公開
photography: General Incorporated Foundation mudef editing: Hiroko Shintani