英国史上3人目の女性首相、リズ・トラスってどんな人?
Society & Business 2022.09.08
難攻不落のマーガレット・サッチャーから30年余年、テリーザ・メイから3年……、47歳のリズ・トラスが英国史上3人目の女性首相に選ばれた。
ダウニング街10番地入りしたリズ・トラス新首相。(イギリス、2022年9月7日)photography: Reuters / Aflo
9月6日、リズ・トラスはエリザベス女王に迎えられ、正式に英国首相に任命された。経済・社会危機の真っ只中にある英国で、新政府を率いる47歳のトラスは、英国史上3人目の女性首相となった。
度重なるスキャンダルによって7月上旬にボリス・ジョンソンが辞任したことを受けた保守党内投票で、元外相のリズ・トラスは前財務相のリシ・スーナクに57%対43%の得票率で勝利した。
インフレ率は10%超、秋には光熱費の大幅な値上げが予想され、ストライキが蔓延する……そんな危機的状況の中で、リズ・トラスは、ダウニング街入りした。最後まで「BoJo」に忠実で、勝利演説では前首相への感謝を述べて同氏への拍手を呼んだトラス。保守党内の支持は獲得したが、9月5日に発表されたYouGovの世論調査では、生活費危機への対応で彼女を信頼すると答えた英国人はわずか5分の1以下(19%)だった。
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新たなサッチャー
リズ・トラスは、9月6日、ダウニング街10番地の住人になった。テリーザ・メイから3年、不屈のマーガレット・サッチャーから30年余り。二人の女性政治家と同じく保守党に属するリズ・トラスは、メイに負けず劣らずの粘り強さを持つと評される。
危機に瀕した国の指導者に任命されたテリーザ・メイは、ブレグジットが決着するまで、それまでの慎重さを捨て、強い決意を持って自分を武装し、困難な状況に立ち向かわなければならなかった。
リズ・トラスが好んで言及する「鉄の女」、サッチャーともよく比較される。二人はともに自由貿易の擁護者。インフレが蔓延し、賃金に関する労働争議が英国に影響を与えているにもかかわらず、トラスは選挙運動の期間中、「補助金を配るのではなく、減税を」と公約を掲げた。
ファッションの面でも二人の類似点はたびたび指摘されている。特に7月の討論会では、トラスが1979年にマーガレット・サッチャーがテレビ番組で着用したものとよく似たラバリエールカラーの白いシャツを選び、「(サッチャーを)まねている」と揶揄された。この比較は彼女の気に入らなかったようで、前任者の誰も、こんな些細な事柄に頓着されなかった、と指摘している。
Could Liz Truss be the last neoliberal? She literally cosplayed as Margaret Thatcher -- a former member of the Oxford Hayek Society doing her idol as pantomime. The death rattle of a dying order reproduces the 1980s, but this time as farce pic.twitter.com/z1XztOeMCF
— Dan Hancox (@danhancox) September 5, 2022
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左派の家庭に生まれる
1975年7月26日、オックスフォードに生まれたメアリー・エリザベス・トラス(通称リズ・トラス)は、彼女いわく「非常に左派的」な家庭で育った。父親は大学の数学教授、看護師で教師だった母親は、核軍縮キャンペーン(CND)に参加していた。Franceinfoの報道によると、娘が保守党員だと知った時、両親は「おののいた」という。学校でも、「保守派なんてひとりも周りにいなかった」と、トラスは数年前に振り返っている。「私の先生はみんな、労働党の支持者でした」
君主制に反対?
1993年、リズ・トラスは名門オックスフォード大学に入学。政治学、哲学、経済学を学ぶ。と同時に、彼女は、学内の自由民主党サークルの代表を務め、イギリスの君主制廃止を訴えていた。BBCによると、1994年、ブライトンで開かれた自由民主党の大会で、彼女は「私たちは、すべての人にチャンスがあると信じています。生まれながらの支配者など信じません」と語ったという。後にトラスは、この発言について「間違いだった」と語っている。今年8月の党員集会では、「私が少しばかり怪しい過去を持っていることを、みなさんご存知かもしれません」と、語った。「誰でも間違いを犯すし、10代の頃には無謀なことをするもの。セックスや、ドラッグや、ロックンロールにはまる人がいるように、私は自由民主党に入っていました。ごめんなさい」
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“デスティニーズ・チャイルド・フェミニスト”
首相に就任した3人目の女性であるリズ・トラスは、2019年、BBC Politicsのイベントで、自らを「デスティニーズ・チャイルド・フェミニスト」と表現している。「私は、彼女たち(女性たち)は自立すべきであり、障害を乗り越えるよう励まされるべきであり、目標を達成できるようサポートされるべきだと思っています。しかし、労働党は女性を特別な援助や待遇が必要な被害者として描いているのです」
“I would describe myself as a Destiny’s Child feminist” says International Trade Secretary Liz Truss, “I believe that women should be independent”
— BBC Politics (@BBCPolitics) October 2, 2019
“The Labour Party likes to paint women as victims”https://t.co/T3hdYpMJ9W #politicslive pic.twitter.com/KUclkRSaN2
しかし、リズ・トラスはフェミニスト団体の信頼を得られてはいない。彼女は2019年、北アイルランドでの中絶の非犯罪化に賛成票を投じたものの、米国でロー対ウェイド判決が覆された後は、中絶の問題に対し沈黙を守っているからだ。
さらに彼女の閣僚時代に英国政府が性と生殖に関する健康と権利(リプロダクティブ・ヘルス/ライツ)を後退させたとして、自陣営からも批判を受けている。リズ・トラスの英国首相就任が女性にとって良い結果をもたらすかという調査を発表したデジタルメディア「Refinery29」は、複数の国家が署名した公式声明の中から、英国政府が最近、「女性や少女の性と生殖に関する健康と権利、身体の自律性を制限したり、有害な慣習を許したりするあらゆる法律を撤廃する」というコミットメントを削除したと伝えている。
保守党のキャロライン・ノークス議員は7月、「性と生殖に関する健康の項目を、なぜいまさら、何の相談も議論もなく削除したか、その理由は不透明だ」と警告した。また、ノークス議員は、リズ・トラスが、中絶反対を公言することで知られる代議士のフィオナ・ブルースに、宗教の自由を保護するイベント「ForB Forum」の首相特使を務めるよう依頼したことも懸念している。同イベントには、女性やLGBTI+の権利に反対する著名人も複数参加している。
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エコロジストたちの懸念
エコロジストたちにとっても、リズ・トラスのプロフィールは気になるところだ。その理由は、国を揺るがしているエネルギー危機に対して曖昧な態度を見せてきたこと。ガーディアン紙は、彼女が政策を「最初の週の間に発表」すると約束した、とだけ報じている。
シェールガスと北海の新油田の開発を支持する新首相は、再生可能エネルギーへの補助金も引き下げたいと考えており、環境保護団体を悩ませている。今後の展開に注目したい。
text : Ségolène Forgar (madame.lefigaro.fr)