日常のストレスを軽くする、土の鞄に魅せられて。

Society & Business 2022.09.14

都会の狭いベランダでも簡単に取り組めるスタイリッシュなバッグ型コンポスト「LFCコンポスト」。日本で話題になっているこのコンポストが、いまパリジャンたちの関心を集めているという。立役者は30歳の時に一念発起してフランスに渡った川波朋子さん。異国の地で起業することを選んだ、彼女のキャリアの転換点は?

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パリ在住でEU圏内でLFCコンポストの製造・販売に取り組む川波朋子さん。photography : LFC France

パリの暮らしが垣間見える
コンポスト入門ワークショップfrom Paris開催!


話題のLFCコンポストの入門講座を、パリからお届けするフィガロマルシェの特別講座を開催します。講師は、LFCフランスの川波朋子さん。この機会に、一緒にコンポストのある暮らしを体験してみませんか?

●日程:9月24日(土)15:00〜(約90分間の予定)
●講師:川波朋子(LFCフランス)
●料金:¥6,500-(税込)
※料金には、視聴チケット、フランスを感じる野菜の種がついたフィガロマルシェ特別仕様のLFCコンポストが含まれます。
※視聴チケットの販売のみも行っています。
●応募締切:9月23日(金)23:59

詳細・お申し込みはこちら

■憧れの国で知った、世界の不公平。

1986年、大阪府出身。大学は京都の美大に進学し、そこで出会った芸術や映画を通してフランスの文化に魅せられる。在学中にパリに交換留学を希望していたが、時はリーマンショックの就職難。両親からは「留学なんて浮かれたことを言ってないで、現実を見て就職しなさい」と大反対に遭う。“もやもや”を抱えつつも就職することを選んだ川波さんは、その後外食産業や広告会社でマーケティングやブランディングのキャリアを積んだ。

転機が訪れたのは30歳の時、今後のキャリアを考えることが増え、「私がやりたいのは、このまま管理職になることではない」と気付く。周囲の友人にも背中を押され、反対する両親をプレゼン資料を準備して説得し、2016年9月にフランスに渡る。

渡仏後はパリの大学で語学を学びながら、帽子のアトリエでインターンする生活を1年半ほど続けた。アトリエのオーナーは、川波さんと同じくフランスに渡った日本人女性デザイナー、KIRIKO SATO。彼女が現地の素材を使い、自分の感性で帽子を作り出す姿を間近で見ているうちに、自身もいつか自分の感覚と価値基準で仕事をしたいという気持ちが強くなっていった。

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渡仏後は語学学校に通いながら、パリの帽子アトリエKIRIKO SATOでインターンを経験した。photography : Courtesy of KIRIKO SATO

ちょうどその頃、現在のパートナーであるアルジェリア系フランス人男性と出会う。彼を通して、彼のアルジェリアの友人や親族と出会ううちに、川波さんはフランスの対岸にあるアルジェリアで、女性たちが置かれている不公平な状況を知ることになる。「アルジェリアでは、いくら優秀で能力があっても、就職となると女性より男性が優遇される現状があると知りました。そして、素晴らしいものづくりの才能や技術があるのに、キャリアを拓けない人もいる。地中海を挟むだけで、こんなにもフランスと違うのか、と衝撃を受けました」

それならば、アルジェリアの女性たちが直面している矛盾に対して、自分が価値を創り出すことによって何かアプローチができないかと、2018年、アルジェリアの女性職人たちがつくった雑貨や陶工を欧州に輸入販売する「TOÏRO(といろ)」を起業。翌年にはボーダレス・ジャパンに参画し、アルジェリアとフランスを行き来しながら現地の職人やアトリエとのネットワークを築き、事業の展開を目指していた。

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■コロナ禍で感じた「悪循環」。

そんな矢先、新型コロナウイルスの猛威が世界を襲う。フランスでも2020年3月から、自宅から1km圏内に移動を制限される厳しいロックダウンが始まった。

アルジェリアとフランスを行き来していた川波さんの生活も一転、ベランダも庭もない、パリの狭いアパルトマンにパートナーとともに閉じ込められた。仕事も進められず、外との関わりがまったく遮断された状況で、うまくリフレッシュもできず、家庭内にはピリピリした空気が漂っていた。「外に出られないので自炊が増える。そうすると、パートナーからも自分からもどんどんと生ごみが出る……。生きていることで悪循環を生み出しているように感じて、自己肯定感がどんどん下がっていったんです」

そんな時、ボーダレスジャパンの同期であるたいら由以子が創業したLFCコンポストのマーケティングの仕事を遠隔で手伝うことに。たいらの事業は知っていたが、“基材”と呼ばれる土が入ったバッグ型のコンポストを自身でも実際に使ってみたところ、土に触れることで心が癒やされ、ストレスのひとつだった生ごみがどんどん減っていった。

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野菜だけでなく、油や肉類も入れられるのがLFCコンポストの特長の一つ。photography : LFC France

「もちろん環境のためという目的はありますが、それだけでなく、コンポストを取り入れると “ごみを出している”という罪悪感を少し軽くしてくれる作用があると思います。日常の暮らしに取り入れるだけでも、気持ちがちょっと安定する。パリも日本と同じで、都市部はベランダや庭のないところが多い。世界が同じような苦境に立たされているいま、このコンポストはフランスでも受け入れられるのではないかと思い立ちました」

新型コロナの影響でアルジェリアへの行き来はもちろん、個人間の配送事業の停止を求められ、当初思い描いていた事業を中断せざるを得なかった川波さんは、LFCコンポストをフランスで製造・販売することを決意。フランスの環境に合わせるために日本版のコンポストを改良し、2021年1月、欧州でのLFCコンポストの事業をスタートさせた。

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■日本発、フランス産のコンポストを。

LFCフランスが販売するコンポストの見た目は、日本のものとほぼ変わらない。しかし、資材はすべてフランスで手に入れた物を使い、製造を担当するのもフランスに住む人々。コンセプトは日本発だが、もの自体は、メイド・イン・フランスだ。

【関連記事】フランスの台所を豊かにする、日本発のコンポスト。

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フランスで販売されているLFCコンポスト。日本より緯度が高く、湿度が低いフランスの気候に合わせて、バッグには日本版より2mmほど分厚い生地を使っているという。photography : LFC France

「もしコンポストを日本から輸入するとなると、トレーサビリティの観点ではまったくエコロジーではなくなってしまう。ならば、自分がTOÏROでやろうとしていた女性の雇用を生み出すということを視野に入れながら、日本発のコンセプトであるLFCコンポストを、フランスで生産をしようということになったんです」

バッグに使うフェルトは、インターン時代にお世話になった取引先や友人、知人のつてをたどって確保した。縫製を手がけるのは、パリ郊外にある職業訓練学校で学ぶ女性や移民、障がいがある人たちだ。もともと思い描いていた事業から多少の方向転換はあったものの、「いままで繋がってきた人たちに助けられている」と振り返る。

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■フランスのエコ事情の追い風

バッグ型のLFCコンポストの評判は、口コミでフランスだけでなくEU圏内にも広まり、現在はスイス、イギリス、アイルランドなどで着々とユーザーを増やしている。コンポストの取り組みを次世代にも知ってほしいと、この夏休みには日仏の小学生向けの合同プログラムを初めて開催した。

「いま、私にも1歳になる息子がいるんですが、小さな子どもたちが、親の姿を通して、コンポストをして生ごみを捨てないのが当たり前だと思う、そんな環境をつくっていきたいと思っています。そのためにも地域と協力しながら、今後は子どもに向けた普及活動にも力を入れていきたいです」

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もともとはLFCコンポストとセットで、アルジェリアの陶芸作家による植木鉢などの雑貨を販売したいと考えていたという川波さん。アルジェリアの事業は中断しているが、これまでの経験を踏まえ、今後も暮らしと社会を豊かにするライフスタイルの提案を目指している。photography : Courtesy of Tomoko Kawanami

異国の地で起業して苦労も少なくないが、「日本人じゃないところでひとりでやっているからこそ、助けてもらえることも多々あります。いまはあえてフランスと同化する必要もないんだな、と違いやコンプレックスを武器に、いろんな人とコミュニケーションをとっています」と笑顔で語る川波さん。時代の変化と社会の課題を感じ取りながら、しなやかに美しく働き、次世代の暮らしを豊かにするための種を蒔いている。

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photography : Courtesy of Tomoko Kawanami

川波朋子(かわなみ・ともこ)
京都市芸術大学美術学部卒業後、マーケティング、広告領域の仕事を経て2016年渡仏。パリで帽子ブランドの工房で働いた後、2019年ボーダレス・ジャパンに参画。2020年、 ローカルフードサイクリングフランスを設立。TOÏRO代表。
LFC France : 
https://lfc-compost.fr/
LFCコンポスト:
https://lfc-compost.jp/

text : Toshiko Fujimoto

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