知育玩具は本当に子どもの発達に役立つのか?
Society & Business 2023.01.02
幼児がアルファベットを覚えるためのパズルや、外国語を教えるバイリンガルロボット......いわゆる知育玩具は本当に子どもの発達に役立つのか? 児童心理学者のヴァンサン・ジョリーに聞いてみた。
知育玩具は本当に子どもの発達に役立つのか? photography: Getty Images
年末年始の時期になると、お店でもカタログでもおもちゃが目立つ。そのなかに、いわゆる知育玩具と呼ばれるものがある。アルファベットを覚えるためのパズル、絶対音感を育てる木琴、450以上のクイズとラ・フォンテーヌの寓話8つを話せるバイリンガルロボット等々。
遊びながら学べるおもちゃが増えてきて、こうすれば幼児の脳が育ちますよと喧伝する。しかしミニ電子ピアノはパッケージに書かれている通り、赤ちゃんを「未来のモーツァルト」にしてくれるのだろうか? 児童心理学者のヴァンサン・ジョリーによれば事はそう単純でも確実でもない。
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--おもちゃで遊ぶ子どもの脳では何が起きている?
子どもたちは想像力をふくらませる。遊びは、現実世界の条件に縛られることなく、ひとつの世界表象を作りあげることができる特別な瞬間だ。遊びを通じて子どもは新しい感情を経験し、それに立ち向かうことができるようになる。お人形とワニのぬいぐるみで遊ぶ子供を例にとってみよう。ワニにお人形を攻撃させることで子どもは怖いストーリーに没入しながら、自分は攻撃される立場にいなくて済む。
--クリスマスになると、子どもたちに遊ぶためのおもちゃを選ぶ親もいれば、「知育玩具」を与える親もいる。知育玩具は何の役に立つ?
知育玩具とは、楽しみながら学習するための支援ツールだ。よくあるパターンとして、親が5歳未満の子どもに対して子どもの刺激になるよう、アルファベットなどの早期学習ゲームを与える。
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--子どもにこうしたゲームの刺激が必要なのだろうか。
子どもに何も与えず、部屋のなかにひとりきりで放置するのが良くないことは確かだ。ただ、おもちゃはあくまで媒体であって、それだけで足りない。子どもを刺激するために一番大切なのはモノではなく、子どもと遊びながらの相互交渉なのだから。この20年間で知育玩具の人気が高まったのは、これを使えば子どもの成績が伸びるのではないかと親が期待したからだ。売る側も玩具の教育的な効果を強調し、よく学校行事と提携したりしている。経済的に将来の見通しがなく、不安を感じる親は特に子どもの成績を伸ばしたいと願う傾向にある。自分や子どもの社会的地位が将来下がることを恐れる人もいる。
子どもを刺激するために、一番大切なのはモノではなく、子どもと遊びながらの相互交渉。
ヴァンサン・ジョリー(児童心理学者)
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--発達心理学者のアリソン・ゴプニックによれば、幼い子どもは市販の多くのおもちゃよりも賢く、おもちゃを必要としないそうだが。
私もそう思う。興味深いのは子どもたちが、想定外の使い方を思いつくことだ。ある少年は、外国語の単語を覚えるための電子玩具に飽きて、機械がしゃべっている途中にボタンを連打しはじめた。すると機械は耳障りな高速音を発するようになり、子どもはとても喜んだ。語学学習玩具が鍵盤楽器に変わったのだ。結局のところ、学習ゲームは面白いけれど、子どもを制約する可能性もある。
--もう少し詳しく説明してほしい。
こうしたゲームにはアルファベットや単語を覚えるといった明確な目標がある。一方、子どもの創造性を伸ばすのは自由な遊びだ。身の回りのモノから自然と遊びが生まれ、ペンが冒険家に、フォークがロケットに、木のブロックが軍隊やモンスターになる......。タブレットはこうした限界の典型例だろう。幼い子どもたちはごく単純な動作しかせず、刺激に反応する。ひとつのボタンを何度も熱心に押すことになる。その結果、過剰な刺激がもたらされ、フラストレーションが人為的に解消する。言いたいのは、この道具には視覚や聴覚からの刺激が強すぎて、触覚や感覚からの刺激が不足していることだ。
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「知育玩具」の謳い文句はむしろ、保護者の不安に応えるマーケティング手法。
ヴァンサン・ジョリー
--つまり知育玩具は、子どもの能力を本当に向上させるものではない......
もちろん、幼児の五感を目覚めさせ、言語や創造性、社会性の発達を促す効果があり、特にボードゲームはそうだ。しかし、「知育玩具」の謳い文句はむしろ、保護者の不安に応えるためのマーケティング手法だ。結局のところ、どんなおもちゃやゲームも、何らかの形で子どもの成長を促してくれる。そして、おもちゃを活かして楽しめるかは親と子の創造力次第なのだ。
--あなたが子どもに与えるならどんなゲームを選ぶ?
最も重要なのは、遊びながら相互交渉を促すこと。ひとりで遊ぶよりもそのほうが子どもにとって豊かな時間になる。次に、子どもがゲームを気に入ってくれることはもちろん、親も気にいるならもっと良い。子どもは一緒に遊んでもらえるし、家族の絆も深まる。ゲームで学ぶことを遊ぶことより優先してはいけない。さもないと子どもからそっぽ向かれる可能性もある。
text: Annabelle de Cazanove (madame.lefigaro.fr)