アートを生涯の仕事に選んだ女性たちのリアルボイス。 アジアが世界の美術を牽引する、 そんな時代を作っていきたい

Society & Business 2023.01.11

ギャラリスト、キュレーターなどアートに関わる仕事はさまざま。一般には伝わりづらい、アート業界で働く人々はどんなきっかけで仕事を始め、どのような想いで働いているのか。世界を舞台に活躍する4人の女性の声を訊いた。


寺瀬由紀 / アート・インテリジェンス・グローバル代表

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profile
中高時代を英国で過ごし、一橋大学商学部卒業後、モルガン・スタンレーで M&A案件を担当。東京でサザビーズに転職し、2014年から香港支社へ。斬新な企画を次々と成功させ、コンテンポラリーアート部門アジア統括として市場3倍増に貢献する。21年に独立し、元同僚とアート・インテリジェンス・ グローバルを創業した。www.artintelli genceglobal.com

 

投資銀行からオークションの名門へ移り、重役に上り詰めてから独立。寺瀬由紀の決断は毎回周囲を驚かせてきた。

「実は美大進学も考えたほどアート好きで、私にとって金融業界に入ったことが想定外でした」と語る寺瀬が、最初の就職を決めたきっかけは「数字は、どの業界でのどんな商業活動でも避けられない重要な基礎言語」という先輩からの助言。

財務諸表を読み取る力はアート業界での強みになり、スパルタな環境での経験がその後の仕事への姿勢の基盤になった。

「一見華やかなアート業界でも、実際ほとんどが裏方的な仕事。それはどんな職業も同じですよね。私にとっては毎日好きなものに触れられて、こんなに楽しい仕事はありません。最初は収入が激減しましたが、がんばっていればお金はやがてついてくると、迷いはありませんでした」 

すでに市場に出回っている作品を扱うオークション会社と違い、新会社では扱うアートにも業務にも制限がない。前職の上司である共同創業者がニューヨーク、寺瀬が香港のダブル拠点。財団や個人によるコレクション構築への助言から、アジアへの参入支援など、プロジェクトベースで動き、変化が著しいアート業界のカタリストを目指す。

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インプットのために意識していることはありますか?

世界がどう変わっても、私にとって、やはりアートは自分の目で見なければならないもの。香港ではコロナ禍の政策で厳しい隔離があったものの、昨年からすでに毎回数週間のホテル隔離をしてでも海外にアートを見に出かけています。

仕事を通じて、 喜びややりがいを感じるのはどんな時?

心が震えるような作品に出合い、それがコレクターの琴線に触れる時。そんな作品を購入していただくのは、所有ではなく、いまの時代の預かり人となることで、大切に次の時代に繋いでいく活動なのです。自分がいなくなっても200年、500年経っても生き続けるアートを繋ぐ──。悠久なる人類史のいまの瞬間にいることを感じ、壮大なロマンに浸ることができるんです。

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前職のサザビーズ時代、寺瀬が担当した奈良美智の『Kni fe Behind Back』。日本人アーティストの最高落札額を記録。©Sotherby's

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アジアのスター、ジェイ・チョウがゲストキュレーションを手がけた『Jay Chou× Sotherby's』 ©Sotherby's

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仕事において夢や目標はありますか?

西洋が黒船的にアジアに参入し、アジアがそれを一方的に受け取るのではなく、急成長を見せるアジア市場からも、欧米と対等に世界の美術界のトレンドを牽引していく立場になるべきというのが、新会社の共同創業者と同意した理念です。オークション会社では、アジアでコンテンポラリーアートへの興味を持ってもらうきっかけを作ってこられたので、 今後のマーケットの発展に少しでも寄与できたらと思います。

コロナ禍で、アート業界はどう変わったと思いますか ?

ステイホームになり、人々が住環境にいままで以上に関心を持ったことや、世界的な株式市場の高騰などもあり、 アート業界は未曾有の活況にあります。バーチャルなアート体験やメタバースでの展覧会、作品だけが世界を回るポップアップ、 アーティストのSNS活用など、アートの見せ方が確実に変化する中で、ギャラリーやアーティスト、コレクターはどんなサポートが必要なのか。それも新会社が担う役割のひとつです。

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NIGO®の個人コレク ションなど、斬新な企画を次々と成功させ、新しい層がコレクターとなるきっかけを作った。©Art Intelligence Global

アート業界が抱える悩みとは ?

新しいコレクターには、投資だけを目的に、購入後にすぐ転売する人もいます。否定はしませんが、アーティストの人生が翻弄されないようにバランスを保つことが大切。 一方、アートには近道がなく、お金がいくらあっても欲しいものがすぐに手に入らないことも多いですから、コレクターは忍耐が必要です。

*「フィガロジャポン」2022年9月号より抜粋

アートを生涯の仕事に選んだ女性たちのリアルボイス。

text: Miyako Kai

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