ニュージーランド首相、ジャシンダ・アーダーンが「国際政治史に残る言葉」とともに辞任。

Society & Business 2023.01.23

ニュージーランド首相が突然、辞意を表明し、5年間余り政権を担ってきたがもう余力がないと語った。政治コミュニケーションの専門家、フロリアン・シルニッキに話を聞く。

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辞意を表明したジャシンダ・アーダーン首相(オークランド、2020年9月)photograph: reuters/aflo

誰も予想していなかった。ニュージーランド首相、ジャシンダ・アーダーンは5年余りの在任中、高い支持を受けてきた。突然辞任を発表したのはもう余力がないからで、他に隠された理由などないと本人は言う。「わたしは人間です。できる限りのことをできる限り長くやりますが、どこかでその時が来ます。そしてわたしにその時が来たのです」と、1月19日、党首を務める労働党の会合で首相は伝えた。政治コミュニケーションの専門家であり、危機管理やコミュニケーションのコンサルティング会社、LaFrenchComのファウンダーであるフロリアン・シルニッキが解説する。

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ーーニュージーランドのジャシンダ・アーダーン首相の突然の辞意表明に誰もが驚いた。この辞任が持つ意味は?

ジャシンダ・アーダーンの「もう余力がない」という言葉にはとても重みがある。彼女の言葉の奥にあるのは普段あまりにも語られないこと、すなわち政治的なコミットメントやそれに伴う犠牲がどれだけ大変なものなのか、実のところ誰もわかっていないということだ。本人が危うい立場だから決断をしたのだろうと思う人もいるかもしれない。だがいまの彼女は強い立場にある。自国でも世界的にも高い人気を誇っている。だから辞意表明には当然、誰もが驚いた。政治家というのはあくまでも自分の地位にしがみつく人たちと一般的には思われている。ところがこれは真逆だ。ジャシンダ・アーダーンは、自分の家族やメンタル面を守り、政治を大切にすることを選んだ。健全な選択だ。それができる人は少ない。

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ーーこれは何を意味するのだろうか。

ジャシンダ・アーダーンには勇気があり、自分の考えを率直に伝えて共有することを恐れていない。彼女の言葉は、国際政治史に残るだろう。2007年のクリスティーヌ・ラガルドの言葉を思い出す。「経済相の業務がこんなに時間を食うものだとは思っていなかった」という言葉だ。政治的コミットメントの現実は厳しい。多くの犠牲をとりわけ私生活において強いられ、しかも誰からも感謝されない。ジャシンダ・アーダーン自身もそうしたことに向き合ってきた。しかも、この5年間絶えず、人間性を疑うような暴力や女性差別の攻撃にさらされ続けてきた。頑張った末に今日、もう体力も気力もないから辞めたいと告げた。

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われわれ誰もが抱える悩みを彼女は反映している。仕事との向き合い方は変わったし変わらなくてはならない。それは政治の世界も例外ではない。

フロリアン・シルニッキ

ーーあなたの知る限り、これは初めてのケース?

そう。そして間違いなく、今後のひとつの指針になるだろう。近代政治史において画期的な出来事だ。ジャシンダ・アーダーンが初で唯一のパイオニアだ。われわれ誰もが抱える悩みを彼女は反映している。仕事との向き合い方は変わったし変わらなくてはならない。それは政治の世界も例外ではない。閣僚も選挙で選ばれた議員も疲弊していることは見聞きすることからも明らかで、これでは政界がダメになるし良くないことだ。ジャシンダ・アーダーンは、これ以上自分を消耗させたくなかった。そして彼女の発言は、これまでそうする勇気がなかった人を解放するのに確実に役立つはずだ。多くの人にインスピレーションを与えた彼女は、政治的コミットメントを変革して政治をあるべき場所に戻すことができた強い女性の象徴となるだろう。

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危機を経験する女性リーダーは男性より強い

フロリアン・シルニッキ

ーー男性だったらあんな風に幕を引くことができただろうか、自分の弱さをさらけだして。

わからない。ただ、党や同胞の前で政治的にこのような態度を取るのは確かに勇気がいる。ジャシンダ・アーダーンはストレートにそれをやってのけた。これは次のことを物語っている。すなわち弱者とみなされることによって、女性政治家はそれを自分の資質や強みに変えた。一般的に、女性政治家は男性よりも厳しい闘いを経て今の地位にたどりついている。だからリーダーとして、政界でも民間でも有能なことが多い。我が社のクライアントで危機管理を担当する女性たちにも同様の傾向がある。危機を経験する女性リーダーは自分のエゴを戦略的な優先事項と考えないので、危機管理能力が男性より強い。

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ーー2022年10月、リズ・トラス首相の辞任時にはすぐに性差別的な発言が見られた。ジャシンダ・アーダーンに対しても、結局は女性は統治能力がないというような批判が起きるのだろうか。

真実を真摯に語る女性を攻撃するのは、自分をおとしめるだけだろう。逆に彼女の行動から多くの男性は学んだ方がいい。権力の絶頂にある一流の政治家が、より良い政治闘争のために道を譲ることを我々は目の当たりにしている。フランスでは、これまで一度もなかったことだ。

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ーージャシンダ・アーダーンは、この5年間、任期中に出産し、赤ちゃん連れで国連に赴いたりと、新しい女性リーダー像を打ち出してきた。彼女の賭けは成功したのだろうか。

彼女を批判する人の中には、あれが彼女の作戦だと言う人もいる。だがそんな発言は、女性には統治能力がないという性差別的な発想から出ているようにしか見えない。ジャシンダ・アーダーンは逆に、政治をより人間的なものにし、新しいコミットメントを体現している。

text: Ségolène Forgar (madame.lefigaro.fr)

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