フランスで憲法に「中絶の自由」を明記する計画が進行中。

Society & Business 2023.03.13

フランスマクロン大統領は3月8日、「人工妊娠中絶を選ぶ自由」を憲法に明記したいとの考えを明らかにした。その背景には、昨夏、米連邦最高裁がこれまでの判断を覆し、妊娠中絶の権利を認めないという歴史的な決定を下したことがある。

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画像はイメージ。photography:istock

女性の権利にとって重要な一歩が刻まれた。国際女性デーの3月8日に、マクロン大統領は「人工妊娠中絶を選ぶ自由」を憲法に明記したいと表明した。中絶の合法化のために尽力した故ジゼル・ハリミに敬意を表しつつ、大統領は「数ヶ月のうちに」政府法案を提出することを約束した。

これに先立つ2月1日、右派が多数派のフランス元老院(上院に相当する組織)において、中絶を選ぶ「女性の自由」を憲法に明記する改正案への賛成票が166対152で反対票を上回った。左派の主張するような「権利」という考え方は採用されなかったものの、フランスの国会は中絶を憲法に明記することを肯定した。しばらく前からフランスでこの件が議論されるようになった背景には昨夏、米連邦最高裁が人工妊娠中絶の権利を認めた過去の判決を破棄する歴史的な判断を下したことがある。時系列でこれまでの経緯をふりかえってみよう。

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2022年夏:米国で中絶の権利が否定される

自分の体のことは自分で決める自由を女性たちが手に入れても安心はできない。アメリカの女性たちは昨夏、そのことを痛感した。2022年6月24日、米連邦最高裁は1973年に人工妊娠中絶を憲法で保障された権利とみなした「ロー対ウェイド」判決を覆した。保守的な州では、中絶を禁止したり制限したりすることができるようになり、アメリカのフェミニストや女性たちを失望させた。

ヨーロッパでも、中絶の権利が後退している国がある。そもそもマルタでは昔から中絶を禁止している。ポーランドは2021年、胎児が奇形であっても中絶ができなくなり、中絶は事実上違法となった。ハンガリーも権利制限に傾いており、9月から中絶を希望する女性は胎児の心音を聞くことが義務づけられた。

フランスでは、このような事態になる前に先手を打って憲法に中絶の権利を明記しようとする動きが出てきた。

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2022年10月7日:中絶の権利を憲法に明記する改正案が野党から国会に提出される。

このような情勢をふまえて、左翼第1党「服従しないフランス」(LFI)のマティルド・パノー議員ら数名の議員は10月7日、中絶の権利を死刑廃止同様、人権と基本的自由として憲法に明記することを盛りこんだLFI議員発議改正案を提出した。この改正案の狙いは中絶の権利が基本権であり、法に定める必要性があることを認めさせると同時に、撤回ができない原則を憲法に記載することで将来的な侵害を防ぐことにある。

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2022年10月19日:元老院(上院)で緑の党などによる改正案が否決される

同じく10月、元老院(上院)は緑の党に所属するメラニー・ヴォーゲル議員がいち早く提出し、元老院(上院)における8つの政党のうち共和党(LR)を除く7つの政党の所属議員が署名していた、中絶を憲法に明記する別な改正案が、「賛成」139票、「反対」172票で否決された。元老院法務委員会は、中絶を憲法上の権利として明記することはフランスの事情にそぐわないとの意見を表明した。

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2022年11月24日:国民議会(下院に相当する組織)においてLFI議員発議改正案が採択される

11月24日、国民議会(下院)はLFI議員発議改正案を一部修正したうえで、賛成337票、反対32票、欠席18票で採択した。この法案には、新人民連合環境・社会党(NUPES)、大統領を支持する諸政党、そして極右政党の国民連合さえも含む、ほとんどの議員が賛同した。ただし5時間近くにわたって、激論が交わされた末の採択だった。

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2023年2月1日:元老院(上院)は中絶を憲法に盛りこむことに賛同する

白熱した議論の末、2月1日に元老院(上院)でLFI議員発議改正案を採択した。ただし採択されたのは、原案を基に共和党(LR)のフィリップ・バ議員が提案した修正案で、法律によって定められるべき法律事項を規定した憲法第34条に「妊娠を終了させる女性の自由が行使される条件は法律によって定められる」の文言を追加するというものだった。この修正案では当初案のように中絶を「権利」とはしていない。

社会党は直ちにこれが「女性の権利のための大きな前進」であると歓迎し、エコロジー政党は「歴史的勝利」を称えた。しかしながら完全な勝利とは言えず、左派は「責任ある」行動を取ったことを自負しながらも、文言の変更を嘆いた。いずれにせよ、元老院(上院)がこの法案を否決したら法案がほうむり去られる運命にあったことも確かだ。

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2023年3月8日:マクロン大統領が憲法に中絶について明記する意向を表明

マクロン大統領は3月8日、「数ヶ月のうちに」中絶を憲法に明記したいと発表した。この発表は、フェミニストとして人工妊娠中絶の合法化のために激しくたたかった弁護士、故ジゼル・ハリミの追悼式でおこなわれた。「女性が人工妊娠中絶をする自由を(基本法に)明記したい。(中絶の自由を)阻んだり取り消したりすることのできない不可逆性を確保するために」と、パリ裁判所庁舎の会場から宣言した。

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これからのスケジュールは?

元老院(上院)で採択された改正案は文言が修正されたため、国民議会(下院)で再審議された後、再び元老院(上院)で審議される。議員発議の場合、国会で採択された後、国民投票となるが、政府法案の場合は国民投票が不要となる。3月8日にマクロン大統領が発表したのは、まさにこの政府法案を出すということだ。「この場合、(現在合意がとれているテーマについての議論を起こしかねない点で政治的に微妙な)国民投票を経由せず、議会すなわち国民議会(下院)と元老院(上院)で5分の3以上の賛成票を得えればよい」とフランスのルモンド紙のライブレポートは伝えている。今後の展開を待ちたい。

text: Ségolène Forgar (madame.lefigaro.fr)

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