いま続々と明かされる、ハリウッドセレブたちの「更年期」。
Society & Business 2023.03.13
ハリウッドのセレブたちにとって更年期がウェルビーイングの関心の的となっている。女性特有の健康課題である一方で、「シルバー・エコノミー」は莫大な利益が見込めるビジネスでもある。
2022年6月、更年期の女性たちのためのケアラインStripesをローンチしたナオミ・ワッツ。(ニューヨーク、2022年10月22日) photography: REX / Aflo
キングコングの怒りに立ち向かい、『ザ・リング』では復讐心に燃えた亡霊と対決し、『インポッシブル』では津波を生き抜いたナオミ・ワッツ。しかし彼女自身の告白によれば、36歳で診断された若年性更年期障害の深刻な症状に耐える心構えはまったくできていなかったという。「夜中に汗をびっしょりかいて目が覚めることもあった。肌が乾燥して、荒れやすくなった。ホルモンバランスが乱れて、自分自身の身体をコントロールできなくなかった。どうしていいかわからなくて、とても孤独だった」と彼女は振り返る。
無理もない。排卵と月経が永久に停止する閉経の平均年齢は50~55歳といわれ、更年期とその最初の兆候が現れるのは一般的に45歳前後とされている。
多くの女性たちがまだ妊娠の計画を立てる年齢で、ホルモンの大変動の初期症状を経験したナオミ・ワッツ(それでも38歳のときにサシャ、40歳でカイを出産した)は、一様に口を閉ざす担当医師たちの沈黙と身近な人たちの困惑に直面した。「私はどうやって助けを求めたらいいかわからなかった。彼らもどうやって私を助けたらいいかわからなかった」
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ナオミ・ワッツのキャンペーン
これまでに美容ブランド「Onda」を共同で立ち上げているネオベンチャー起業家でもある彼女は、「頭皮から膣まで」女性たちのさまざまな悩みをカバーするホリスティックなケアを提供する「Stripes」を創設した。「閉経に対する羞恥心や更年期に特有の不安を解消する一助となれば」と彼女は言う。
ブランドが扱うのは、ボディ用の保湿力の高いセラムやオイル、ホットフラッシュを和らげるスプレー、デリケートゾーン用潤滑ゼリーだけではない。オンラインで「メノ・ガイド」を配信し、情報提供とコミュニティ作りを目的とした雑誌「Adulted」も発行する。つまり、閉経への「移行期」にさしかかった女性たちに不足しているものすべてだ。
2022年10月に彼女が立ち上げた会社は「シルバー・エコノミー」(高齢者エコノミー)に分類される新しい事業分野のなかで最も成功した試みのひとつだ。この分野の盛況ぶりを「ニューヨーク・タイムズ」紙はさっそく「更年期というゴールドラッシュ」と評している。アメリカでは新たに閉経を迎える女性が毎年100万人に上ると言われ、前例のない規模での該当人口の増加に触発されて、成熟した女性をターゲットにした市場は急激に熟しているようだ。
コロナ禍が収束し、中年期に突入した女性たちからサポートを求める声は急増している。一方で、それに応える専門知識のある婦人科医や専門医の不足という深刻な事態に直面して、オンライン診療やウェルビーイングの助言を行うスタートアップ企業が次々と誕生し、関連シンポジウムも盛んに行われるようになった。
その先駆けとなったのはナオミ・ワッツと、X世代(1960~1980年に生まれた人たち)向けのコミュニティ・プラットフォーム「The Swell」CEOのアリサ・ヴォルクマンが運営する「Nex Pause」。入場料130ドルのシンポジウムは満員御礼で予約が取れない状態だ。
勢いに乗って、高級ブランドも続々と発表された。グウィネス・パルトローが「Goop」で提案するビタミンサプリメント「Madame Ovary」や、ドラマ「ホワイト・ロータス」のジェニファー・クーリッジもファンだという髪の老化に対応したヘアケアライン「Better Not Younger」(より若くではなく、より健康に)もそのひとつだ。
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セレブにとって魅力的な市場
メノ革命前夜の空気が漂う中、セレブたちが沈黙を破り、多くの場合ユーモアを交えながら自分の体験を語り始めた。ミシェル・オバマは2020年に自身のポッドキャストで、不意に襲うホットフラッシュについて「体内オーブンのサーモスタットが極限まで上昇する」とたとえた。更年期障害について警鐘を鳴らしたかったというジリアン・アンダーソン(ドラマ『セックス・エデュケーション』出演女優)は、発作的に涙が溢れてきたり、「朝の8時から何も手につかない」気分になる日もあるほど強い疲労感に悩まされたという。女優でテレビのスター司会者でもあるドリュー・バリモアは、自身が経験した気分のムラについて「気が変になって、何でもないことで泣いてしまう」と描写している。
一斉に自らの体験を語り始めたX世代には、一方で、「更年期ビジネス」というご馳走の分け前に、控えめながらもあずかりたいという思惑がある。
グウィネス・パルトロー(50歳)も、ドリュー・バリモア(47歳)も、キャメロン・ディアス(50歳)も、2850万ドルの資金調達を達成した遠隔医療企業「Evernow」の出資者だ。同企業のサービスは、アメリカの法律で定められた条件のもとで、更年期障害の症状緩和のために補助的ホルモン治療を希望する女性たちがSMSで診療を受けられるというもの。
テニスの世界チャンピオンであるセリーナ・ウィリアムズ(41歳)が創設した資産運用・リスク管理会社「Serena Ventures」は女優のジュディ・グリア(映画『ハロウィン』に出演)が経営する「Wile」に資金援助している。こちらは、ウェルビーイングに役立つサプリメントや、更年期や閉経に伴う症状の緩和に有効な植物をベースにしたヘアカラーを扱うブランドだ。
これはまだ始まりにすぎない。グローバル・ウェルネス・サミットのトレンド報告によると、シルバー・エコノミーはこれから2025年までに6000億ドル規模の市場に成長すると見込まれ、世界人口の12%がターゲットとなるという。この層の女性たちは、古来から続くタブーを打破し、「中年女性」という新たな身分がもたらす社会的なランクダウンを拒否する。状況に黙って耐えていた母親たちの世代とは対照的だ。
あらゆる多様性を認めるこの時代に、X世代の女性たちは自ら表に立って、年齢という多様性を最新の議題に加えたいと考えている。そして、自分らしくあるために「エイジ・ポジティブ」の模範であろうとしている。
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スクリーンで勢いを取り戻した50代の女優たち。
実際にハリウッドでは「メノ革命」ともいえる事態が進行中だ。映画産業は歴史的に、魅力的ではないという理由で40歳以上の女優を遠ざけてきたが、ここにきて、50歳以上のヒロイン、すなわち若作りせず、美しく年を重ねるアクティブな女性たちが高視聴率を稼ぐ存在であることを、具体的な数字を見て理解し始めたのだ。
2021年には、テレビドラマだけでも、「メア・オブ・イーストタウン」でぼさぼさの髪や顔のシワ、身体についた贅肉も気にせず子育てに奮闘する警部補を演じたケイト・ウィンスレット(47歳)がエミー賞主演女優賞を獲得し、「ザ・クラウン」シーズン4で不屈の鉄の女マーガレット・サッチャーを演じたジリアン・アンダーソン(54歳)がゴールデングローブ賞助演女優賞を受賞した。最近では、「セックス・アンド・ザ・シティ」の続編ドラマ「アンド・ジャスト・ライク・ザット」でサラ・ジェシカ・パーカーが演じるギャリー・ブラッドショーと50代の女友達たちが、1990年代末にデートの話で盛り上がっていた頃と同じように、性欲や閉経について率直に語り合っている。
ドラマ「コペンハーゲン」シーズン4では、やつれた表情のビアギッテ・ニュボー(シセ・バベット・クヌッセン)が、政敵だけでなく、ホットフラッシュや不眠、気分のムラに立ち向かう姿も描かれている。更年期がドラマのなかでスターゲスト並みに大きく扱われたのはヨーロッパでは史上初めてのことだった……。
昨年は映画でも50歳以上の女性たちが大躍進。『グッド・ラック・トゥー・ユー、レオ・グランデ』ではエマ・トンプソンが若い男性の腕の中で喜びを(再)発見する55歳の未亡人を演じ、フランスでも、『Les jeunes amants(若い恋人たち)』で73歳のファニー・アルダンと24歳年下のメルヴィル・プポーが共演し、年の離れた恋人たちを熱演した。
また、「ロサンゼルス・タイムズ」紙の記事を信じるなら、アメリカ人の間で、フィリピーヌ・ルロワ=ボリュー演じる「エミリー、パリへ行く」のシルヴィ・グラトーは、いまや「理想の50代」女性と見られているそうだ。仕事でも恋愛でもセックスでも最盛期を迎えた、美しく、自由な女性だと。そのことを裏付けるように、あるラジオ番組に出演した折に、彼女は「人生は50歳で終わりではない」と語っている。
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羞恥心と闘う。
こうした喜ばしい状況のなか、精神分析家のカトリーヌ・グランジャール(1)は、女性たちが閉経について語り始めた現状に喝采を送る。金儲けに利用しようとする動きを批判しながらも、この新しい市場が西欧世界にすでに定着したひとつの社会的事実を認めている点は買っている。「女性たちはいまや、閉経した後も40年以上の時間を生きます。彼女たちはこれまで閉経後の女性たちに付与されてきた”has been”というステイタスを拒絶しているのです」
しかし、グランジャールによれば、今後着手すべきは実存的な闘いだという。「羞恥心と闘うこと。自分の身体が老化するからといってストレスや不安を抱えないこと。人生を生き、愛し続ける権利を自分に与えること」。しかも一方で、悲しい現実を認めながら。『La Fabrique de la ménopause(更年期の構造)』(CNRS出版、2019年)の著者で社会学者のセシル・シャルラップは次のように言う。「閉経が生物時計の音が止む瞬間であることに変わりはありません。これを境に女性は人生において”シニア”と呼ばれる段階に正式に移行するのですから」
歴史的に見ると、女性にとって若さの同義語である生殖年齢が終わることは、誘惑の日常と社会的有効性の終焉を意味していた。フランスの俳優女優で構成される職業団体内に創設されたグループ「AAFA=50歳の女優のトンネル期間」が告発しているように、フランスの女優たちは相変わらず年齢による差別を受けているにもかかわらず、アメリカの女優と比較して、非常にラテン的な慎みから、更年期の不調や不快な症状に関して口をつぐむ傾向がある。
モニカ・ベルッチはそうではない。2015年に、更年期は「病気ではなく、自然なこと」と考えていると彼女は断言していた。この「変化」はそれほど深刻な体験ではない、と。閉経を迎えた1400万人のフランスの女性たちの大多数が経験していることもそれに近い。更年期には疲労感や性欲減退、コントロールできない体重増加といった症状が現れると予言するカッサンドラーの怒りを買うかもしれないが、日常生活に支障をきたし、治療が必要になるほどつらい症状に悩まされるケースは女性の15%にすぎない(2)。更年期ホルモン療法は2002年に発表された研究によって発ガン性の可能性があると指摘されて以来、悪者扱いされてきたが、骨粗しょう症や50歳以上の女性の最大の敵である心臓血管疾患の治療手段としても利用されており、個々の患者の状況に応じて処方されている。
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新たな可視性
閉経という言葉そのものと概念が登場したのは1821年。シャルル・ドゥ・ガルダンヌ医師が初めて使用したこの言葉の発祥地はフランスだが、いまやフランスでは婦人科医不足が深刻化しつつあり、閉経や更年期の問題について専門的な教育を受けた医師は少ない。
いまだあまりに見過ごされているこのテーマをより正確に把握するために、情報を収集し、不安を取り除き、意見交換する。これが、6年前に「Ménopause Stories」(フォロワー数13万7000人)を開設して以来「フレンチー・メノスフィア」のリーダーとして活躍するインスタグラマー、ソフィ・キューヌが新たに掲げるミッションの核心だ。
彼女の元に集まる女性同士の友情で結ばれたコミュニティメンバーは、更年期の私的な体験を共有し合い、閉経のアーキタイプを壊したいと望んでいる。「不安で身動きが取れなくなっても、適切な情報が見つかれば不安は解消します。いまはどんな問題でも何かしら回答や解決策があります」と彼女は断言する。
それにはもっともな理由がある。人それぞれ異なる閉経期を健やかに過ごすためのアドバイスやガイドは、薬の情報や薬に頼らない治療法も含め、自己啓発関連コーナーに溢れている。50歳の女性たちに可視性を提供することを目指してソフィ・ダンクールが運営するメディア「J’ai piscine avec Simone」は、「女性たちが経験する医療によるたらい回し」という問題に正面から取り組み、45歳以上のすべての女性たちを対象とした診療体制づくりを促進するグループ「#allforménopause」の一員だ。
植物ホルモンが配合された化粧品を提供する美容メーカーや、ブランドイメージ向上のためにイネス・ドゥ・ラ・フレサンジュやジェーン・フォンダといったシルバー世代のミューズを起用する企業もある。フェムテックも将来性のあるこのテーマに進出し始めたところだ。「スタートアップのなかで更年期ケアを扱っている企業は5%にすぎませんが、子宮内膜症と並んで、現在最も投資家が出資先として注目しているテーマです」とマチルド・ネムは強調する。彼女は専門家による医学的アドバイスを提供するフランス初のアプリケーション「Omena」を立ち上げた3人の20代の共同創設者のひとり。同アプリにはすでに3万5000人が利用者として登録している。
母親や祖母たちとの連帯を表明するZ世代の女性起業家たちは、すべての女性のために更年期を正常化したいと考えている。「ホルモンバランスの最後の変化期に特有の不快な症状を緩和できれば、女性の人生はより素晴らしいものになる。そうした症状さえなければ、50歳は女性の人生の最盛期と言われているのですから」とネムは言う。
更年期は新たな黄金期ということなのだろうか? 前述の精神分析家、グランジャールには、それは自明のことだ。「クライアントのなかには、月経と避妊という束縛から自由になって、プライベートでも、仕事や恋愛、セックスでも、50代のいまの方が30代の頃より充実しているという人もいます。彼女たちは押し付けに対抗し、“見た目を超えて”自分自身を認め、これまで通り活躍し続けているからです」
更年期を耐えるのではなく、支援を享受し、タブーを乗り越え、閉経期を生き生きと楽しむ「競争力の高い」女性であること。それがこのメノ革命の推進者たちのモットーだ。
(1)主著『Il n’y a pas d’âge pour jouir!』Larousse出版、2020年。
(2)2022年2月に国立教育一般共済組合と女性基金が共同で実施した調査より。
text: Christelle Laffin (madame.lefigaro.fr)