「偽分娩」という言葉に苦しむ、フランス女性たちの告白。

Society & Business 2023.04.07

生涯で「見えない」妊娠を経験する女性は10人に1人。しかし、心に深い傷を残すこの悲劇には、沈黙のベールが何十年も前から垂れ下がり、まるで存在しないかのように扱われてきた。いま、女性たちが体験を語り始めている。フランス「マダム・フィガロ」がリポート。

23-01-27-miscarriage-01 .jpg流産をめぐるタブーがいまも女性たちに重くのしかかる。photography : Getty Images

「はっきり言いましょう。私は妊娠8週目でした。このことに偽りなどありません。“fausse couche(フランス語で”流産”の意。直訳は”偽分娩”)”という言葉が私は嫌いです。(…)偽分娩ではなく、中断された妊娠という実情どおりの呼び方をしましょう。子どもを迎えるという計画がスパッと中断される。時には周産期喪失と同じ苦しみをひとりで抱え込まなければならない。流産は沈黙の悲劇です。闇の中で体験する苦しみです」

この文章を書いたサンドラ・ロレンゾも、10人に1人の女性に起きるという流産の経験者だ。妊娠は2回目だった。それまでそういう話はまず聞いたことがなかった。エコー検査を5回受けた。結果が出るまでの堪え難い時間。そして、あの恐ろしい診断が下った。「妊娠は終了しました」と医師は彼女に告げた。それ以外には何の説明もなかった。

「何もかもうまく行きますから、心配しないでください。(…)いつもより量の多い生理のようなものです」。その後のことについて、彼女はいくつも質問をしたが、医師はただそう答えただけだった。ジャーナリストは著書『ありふれた流産』(1)でこのときのトラウマ的な出来事について語っている。

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以前の世代の女性たちは語らなかったが、いまは多くの女性が流産の経験について発言している。サンドラの前にも、やはりジャーナリストのセリーヌ・カルマンが2021年6月にインスタグラムで自分が経験したつらい出来事について告白していた。

彼女は「終わってしまった」と直感したものの、事実を確かめるために救急外来を受診した。そこで彼女は「非人間的な」対応を受けた。産科医の若い女性は挨拶もそこそこに、診察前に「40歳でまだ妊娠する」のは立派と彼女に言った。「それから彼女はインターンの方を向いて、終わってるわと言ったの。でも私には何の言葉もなかった。私がいまどういう気持ちでいるか、そんなことはどうでもいいと言わんばかりに」と、ポッドキャスト「Encore une histoire(物語をまたひとつ)」の配信者でもある彼女は語る。

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「流産に偽りなどない。不幸にも、これは間違いなく現実なのだ」

流産をした女性たちに対する関心がこれほど低いのはなぜだろうか? 彼女たちに圧倒的に情報が不足しているのはなぜなのか? そして、こうしたタブーがなぜ、何十年も前から存続しているのか?

「偽出産という(フランス語の)用語自体にすでに問題があります。これは女性にとって聞き捨てならない言葉。流産に偽りなどありません。不幸にも、これは間違いなく現実なのです」。流産や周産期喪失を経験した女性たちに寄り添う活動を行っている市民団体「Agapa」の副代表で聞き役を務めるクリスティーヌ・クロテールはそう話す。

流産を経験した女性たちのなかには、妊娠初期の3カ月には「普通にある」、「よくある」現象だと医師から言われた人もいる。「そうした言葉を聞くと、彼女たちは孤立している気持ちになり、自分の苦しみを理解してもらえないと感じます。彼女たちにとって、決してありふれた出来事などではありません。彼女たちは悲劇としてこの事実を生きているのです」とクロテールは付け加える。

この悲劇は数世紀の間、女性たちに多大な影響を及ぼしてきた。「19世紀まで流産は、女性たちの意識のなかの大きな位置を占めていました。流産や早産の場合、子どもは洗礼を受けることができませんから。また、妊娠の中断は常に母親のせいだとされたのです」。そう解説するのは性差と母性を専門とする歴史学者のエマニュエル・ベルティオーだ。

こうして責任を一身に負っていた女性たちは、妊娠が順調に経過しない場合を考えて、妊娠がわかってもすぐに報告せず伏せておくようになった。「その頃と違っていまはかなり早くから妊娠を知ることができます。昔は少なくとも2~3周期目にならなければ判定できませんでした」と、ピカルディ・ジュール・ヴェルヌ大学で教鞭を執るベルティオーは指摘する。「この3カ月の沈黙期間は相当につらいものです。医師は医療を施すためにいるのであって、妊婦を励ますためにいるわけではありませんし」

「女性の苦しみを考慮しようとしない風潮によって、女性たちは口を閉ざさざるを得なくなっている」と『沈黙の3カ月』の著者であるジュディット・アキアンは言う。「それに加えて、起きたことに対して女性にも責任の一端があるかのように、罪悪感を抱かせる発言をする人もいます。ゆえに女性たちはますます流産を個人的な出来事として扱うようになり、その結果タブーを存続させているのです」

妊娠に関するテーマ全般に言えることだが、流産は女性自身と彼女たちのパートナーのプライベートや私生活に関わる事柄だ。「これは愉快なテーマではありません。私自身も話しながら居心地の悪い思いをしています」。前述のロレンゾはブログ「Parlons maman」のインタビューでそう打ち明けている(3)。「子宮を通して、死と、女性の私生活に関わってくる話です。それから産院側には、未来の母親たちを怖がらせるようなことはあってはならないという暗黙の了解もあります。それゆえに、医療関係者の間でさえ、知っているのに話題にしない。この覆いを取り払うべきです。自分の身に起きた場合に備えて、女性たちに情報を提供するべきです」

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「私たちの悲しみが嘘のように見えるのは、この喪失を生きるための道が存在していないから」

流産を経験した多くの女性が望むのは、彼女たちに寄り添い、その質問に答えられるように、医療従事者に適切な教育が行われること。「医師が大変な仕事をしていることに異論を唱えるつもりはありません。ただ、患者に対してより人間的な対応をしてほしい、私たちの身体がその後どうなるのかをきちんと説明してほしい」とカルマンは言う。

出血はどのくらい続くのか? いつ通常の性生活を再開し、また妊娠できるようになるのか? 流産を経験したほぼすべての女性たちが、何事もなかったかのようにすぐに仕事に復帰していることも忘れてはならない。現在のところ、彼女たちには精神的サポートを受ける機会もなければ、療養のための欠勤が認められるわけでもない。情報を集めることも、必要があると感じた場合にしかるべき要求をすることも、女性たち自身に任されているのが現状だ。

「何もかも自分でするしかない。援助を求めるのも、サポートを探すのも、予約を取るのもすべて自分。私たちの悲しみが嘘のように見えるのは、この喪失を生きるための道が存在していないから。私の妊娠は、早期に中断してしまったあらゆる妊娠と同じように、どこにも存在していない」とロレンゾは著書の中で書いている。

昨年からフランス市民の間でタブーを取り払おうという動きが徐々に広がりを見せている。多くの女性たちが体験を語り始め、この問題を取り上げるポッドキャストも現れている。母性の「迂回路」を通ることになった女性たち、すなわち妊娠・出産で苦しみを経験した母親たちの体験談を配信する「Luna Podcast」でも、流産と周産期喪失に焦点を当てている。

市民団体「Agapa」はカップルへの支援に努めると同時に、医療関係者に対しても、女性たちの苦しみを受け止め、適切な情報を提供するために、患者の話に耳を傾け、相手を理解することの重要性を研修を通して伝えている。「前進はしていますが、このことが社会全体の問題、公衆衛生の問題となるためには、さらに先へ進まなければなりません。大統領選挙候補者全員がこの問題を取り上げるべきです」とアキアンは話す。

昨年11月初頭、ポーラ・フォルテザ議員が、妊娠初期3カ月と流産への保険適用と、関連する医療制度の改善を求めて、17項目に及ぶ法案を国民議会に提出した。その中には、妊娠初期からの保険適用(現行法では公的医療保険によって100%カバーされるのは妊娠3ヶ月目以降)、妊娠初期3カ月間のリモートワークの実施、流産後に自動的に療養のための欠勤が認められる新制度の導入などが含まれていたが、すべて却下された。

今年3月1日、フランスのエリザベット・ボルヌ首相は、流産した女性が有給の病気休暇を取得できるようになると発表している。

(1)Sandra Lorenzo著『Une fausse couche comme les autres』First出版刊
(2)Judith Aquien著『Trois mois sous silence』Payot出版刊
(3)Parlons Maman:妊娠から子育てまで、広い意味での出産と育児をテーマにしたブログ。https://parlonsmaman.fr

text: Marion Joseph (madame.lefigaro.fr)

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