国産ナチュラルコスメの先駆者が語る、美しく豊かな事業のあり方。

Society & Business 2023.06.13

昨年に引き続き、今年も開催されるBWA Pitch Contest。本年は「思いを言葉に」をテーマに、ビジネスにかける女性起業家の思いを語ってもらう。

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「起業には思いの強さが必要」と語るのは、BWA Pitch Contest 2023の審査員を務めるビーバイ・イー代表の杉谷恵実さん。オーガニックコスメという新しい価値観を生み出し、そしてその取り組みを20年近く続けている杉谷さんがビジネスにかける思いとは? 話を聞いた。

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杉谷恵実(すぎたに えみ):シンシア・ガーデン代表。女性誌ライターとして美容ページ、ファッションページ編集に4年間携わる。 身体の不調を機にオーガニックの世界に出会い、体調が良くなっていくことを実感。 自身の経験から植物の世界を広めたいと、2004年株式会社ビーバイ・イーを設立。 オーガニックのあるライフスタイルを提案するスパ、ショップ、カフェからなるオーガニック複合施設「シンシア・ガーデン」をオープンした後、「ママバター」「リンレン」「ネロリラ ボタニカ」などのオーガニック&ナチュラルコスメを開発。 現在は「100年後の未来に安心、安全と美しい土地を残せるか」を自身の信念とし、製品の開発やコンサルティングなども手掛ける。 シンシア・ガーデン:www.sincere-garden.com

 

“サステイナブル”という言葉はもちろん、オーガニックコスメもまだメジャーではなかった時代から、ひた向きにナチュラルコスメの普及に努めてきた杉谷恵実さん。20代半ばで体調を崩した自分を癒やしてくれた植物療法を、同じような悩みを抱える人に広めたいという思いから2004年、「植物と共に歩むやさしい暮らし」を提案する株式会社ビーバイ・イーを起業。スパ、ショップ、カフェからなる表参道のオーガニック複合施設「シンシア・ガーデン」ほか、ドラッグストアで最初に置かれたナチュラル製品とも言われる「ママバター」「リンレン」など数々のナチュラルコスメを展開する。

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2006年、表参道にオープンしたオーガニックスパサロン「シンシア・ガーデン」。植物に囲まれた店内は、ゆったりリラックスした雰囲気に包まれている。photography: Maki Matsuda

そんな杉谷さんの起業の物語は、わずかな貯金で借りたワンルームマンションの一室からスタートした。「最初はアロマテラピーサロンから始めました。創業1年目は、サロン周辺の住宅にポスティングしていた記憶しかないです」と笑うが、「好き」という気持ち、思いの強さがあったからこそ、ひとつひとつの障壁を乗り越えられたと振り返る。

「経営の一歩と、思いの強さは一緒なんじゃないかなと思っています。私は人が作ってきた道は歩まず、新しい価値観を生み出したいと思って進んできました。当時は若かったし、私が何を言っているのか、何をしているのかよくわからないこともあっただろうけれど、強い思いで一生懸命取り組んでいたからこそ、助けてくれる人たちが現れた。思いを強く持てば、そこに思いを重ねてくれる人が絶対に現れる。そんな人たちがいままでたくさんいたからこそ、ここまで来られたのだと思います」

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作る人も、使う人も。幸せな循環を作る。

アロマセラピーサロンを開業した当初は、製品を開発する余裕はなく、フランスやイギリスなど世界各国のオーガニックコスメを使用していたという杉谷さん。07年にはシアバター100%配合のナチュラルコスメ「ママバター」を販売する一方、 “その土地でできるものが、その土地に住む人の身体に一番合っている”という漢方の考えに基づき、「日本に植生している植物でオーガニックコスメを作りたい」と考えていた。

そんな時、たまたま知り合った高知県のゆず農家との出会いが大きな転機をもたらした。

「世界でも人気の“柚子”は95%が日本産で、そのほとんどは高知県産。ゆずは果汁や果肉はジュースなどとして使えるが、そこで出た皮を廃棄するのにお金がかかってしまうため、収入が割に合わないと廃業していく農家さんが多いんです。初めてこの話を聞いた時、私がやりたいのはこれだ!と思って。香りの世界では、果皮から香りの成分が取れる。私がゆず農家さんから皮を買ったら、ゆず農家さんに収入ができるし、その原料から作る製品を使うお客さんもフレッシュな香りが楽しめてハッピー。全員が幸せな循環が作ることができる、と思ったんです」

こうして09年に生まれたのが、国産のヘアケアブランドの「凜恋(リンレン)」。1本あたり7個のゆずが使われ、そのフレッシュな香りが人気を呼び、これまで1000万本以上を売り上げるヒット商品となった。同時に、農家側も自分たちの農産物をコスメの原料として売るまでの仕組みを覚え、ほかのコスメメーカーにも売り始めた。

「私たちの会社だけでは作れる化粧品の量は決まっていますが、私たちと関わってくださった農家さんの農産物をほかの大手のコスメメーカーさんたちが使うようになってくれると、その地域が生まれ変わっていくんです」

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国産の原料にこだわったエシカルヘアケアブランド「凜恋」。ユズ&ネロリのほか、ローズ&ツバキ、ミント&レモン、カモミール&モミの全4種類を展開している。photography: Maki Matsuda

すると「この地方ではこんな原産品がある」と声をかけてくれる協力者が増えていき、いまでは北海道から沖縄まで、全国各地の農産物を原料として使うようになった。

BbyE_emisugitani.jpegいまでも全国各地に飛び回り、収穫作業に参加しながら、現地の生産者の声に耳を傾けている。photography: courtesy of BbyE

「何か課題に取り組み始めると、次の課題が見えてくる」と語る杉谷さん。いまでは原料の多くを、障がい者就労支援施設で作ってもらっているという。

「就労継続支援B型の事業所の全国の平均工賃は、いま1万円台後半。私たちの会社でも障がいのある子どもを育てている社員がいますが、月収がこんなに低いと『親が子どもを残して死ねない』と嘆くんです。それならば、時間はかかるかもしれないけれど、その子たちが自分できちんと稼げるように、賃金を上げていけるようにしたい。そうした思いで就労支援施設に原料の栽培や蒸留、石鹸づくりなどのお仕事を依頼し、いまではうちの製品の半分くらいを作ってもらっています」

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photography: courtesy of BbyE

コロナ禍を経て、エシカル商品への感度は高まっている一方で、この波がトレンドではなく、本物として定着することを目指している杉谷さんはこう語る。

「日本でオーガニック製品を選ぶ理由を尋ねたら、安心安全だから、と答える方がほとんどだと思います。でも、たとえばドイツに行って、同じ質問をしたら90%以上の方が社会貢献と答えるんです。だからオーガニック製品を使うっていうことは社会に貢献をしてることで、きっとあと10年後同じ質問を日本でしたら、同じ質問を日本でしたら、オーガニック製品を選ぶ理由は社会貢献だから、と答える人が多くなっていると思うんです。私はずっとそういうふうに思って作っています」

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自分の作ったものが、人々の心の中に生きていく。

現在、小学6年生と5年生のふたりの息子を育てながら、経営者として、全国各地を飛び回る。時に子どもと過ごす時間を十分に取れてこなかった、と思うこともあるというが、いまは成長した子どもたちが自分の仕事に関心を持ってくれるのがうれしいと語る。

「子どもたちとコンビニに行くと、そこにママバターなどの商品が並んでいることがあるんです。すると息子たちが『これ、お母さんが作ったんだよね』って言ってくれるんです。また誕生日などの節目に、全国各地の生産者さんや関係者の皆さんからお手紙やメッセージをいただくんですけど、そういうことを通して、私が何をし続けてきたのか、どれくらい本気で仕事に向き合ってきたかを感じてくれているといいな、と思っています」

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走り続けるためには、何よりも「自分をいたわる時間」が大切と語る杉谷さん。「自分の心と身体を整えることをまず第一にする、それが心身の健康を保つということだと思います」 photography: Maki Matsuda

もちろん、子どもが小さな頃は後ろ髪を引かれるような思いをしたこともあったというが、「子どもは成長するし、お母さんがキラキラして働いていれば、それをわかってくれる日が絶対来る」と杉谷さん。そしてそれは、起業にも繋がると語る。

「子どもを育てていると、子育てじゃなくて親育てをされていると気付く瞬間があるんですが、起業にも同じことが言えると思うんです。スタッフやお客様、それにクレームひとつからも日々教えられるから、ひとつとして無駄なことはない。リスクを伴う判断ももちろんあるけれど、私が人生を重ねて生み出した商品をお客様が手に取ってくださるのを見るのは、20年近く経ったいまでもいまだに心が震えます。私が仕事を引退したとしても、自分が作った製品は皆さんの中に生きていく——人生でこんな喜びはないですよね」

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全国を飛び回る一方で、いまでも表参道の店舗にスタッフとともに立つ。「店頭でお客様が商品を手に取ってくださる姿を見るのは、いまだに一番うれしい瞬間」と語る。photography: Maki Matsuda

 

 

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