「ひきこもり」がフランスで増加中。日本との共通点は?

Society & Business 2023.07.15

年齢は18、20、25歳、場合によってはそれ以上。自室に閉じこもって暮らしている人のことを、日本では「ひきこもり」と呼ぶ。フランスでも若者、とりわけ男性のひきこもりが増加中。憂慮すべき社会現象のひとつだ。フランス「マダム・フィガロ」のリポート。

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「Hikikomori / ひきこもり」はいまやフランスでも通用する言葉に。photography: Malte Mueller/Getty Images

「アレクシスが部屋からほとんど出てこなくなって、もう2年になります」とカトリーヌは嘆く。徐々にそうなってしまったそうだ。「小さい頃から変わった子で、ひとりぽつんとしていることが多かったですね。14、15歳の頃になると、それまでやっていた合気道やギターの習い事も、たまの外出も、徐々にやめてしまいました。16歳になると学校へ何日も行かず、自室に閉じこもるようになったのです。怒ったり泣いたり懇願したり約束させたり......あらゆることを試みました。WIFIを切ってみて、息子がゲーム中毒じゃないことに気付きました。Facebookの『Hikikomori』アカウントをフォローするようになって、悩んでいるのは自分だけじゃないことに気付いたのです」とカトリーヌは切々と訴える。

「ひきこもり」という言葉が生まれたのは1990年代の日本。日本のひきこもり数は今日、推定50万人から100万人だ。一方、フランスでは少なくとも数万人のひきこもりがいると専門家は見ている。この問題を研究する心理学者のナターシャ・ヴェリュによれば、ひきこもる人は増加する一方とのこと(注1)。ニート、すなわち働かず、学校に行かず、職業訓練も受けていない、要するに働く意思のない人たちのなかから「社会的に透明な存在である」ひきこもりを選りわけるのは正直、極めて困難だ。

2019年のフランス最新国勢調査で判明したニート数は150万人。そのうちの何割がひきこもりなのかはわからない。確かなことは、コロナ禍をきっかけに生きづらいと感じる若者が爆発的に増え、家にこもる人が急増したことだ。「ロックダウンは、すでに社会を拒絶気味だった若者にとって格好の口実となりました」と心理学者のナターシャ・ヴェリュは言う。

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ひきこもりの多くは男性

他人が怖く、自分を恥じるひきこもりとはどんな人たちなのだろう。専門家によると、その8割は男性だ。社会参加を拒否し、自室に閉じこもることで消極的な抵抗をしている。大人になるのが嫌なのだろうか。社会学者のマイア・ファンスタンの分析によればこれは「ずっと続く新手の反抗期のようなもの」とのこと。

2001年のフランス映画『タンギー』をご存じだろうか。主人公のタンギーは高学歴の男性だ。ぬくぬくといつまでも親と同居し続ける一方で充実した性生活を送り、マイペースに生きていた。果たしてひきこもりはその進化形なのだろうか。現代のひきこもりは自室でパソコンや漫画に没頭し、世間と対峙することを恐れる。

「ひきこもりの男性と真逆なのが狩猟採集社会の男性です。伝統的に男性は食べ物を求めて外へ出かけ、家に獲物や食料を持ち帰ったものでした。ひきこもりは家にじっと閉じこもって社会に順応しないことを信条としています」とマイアは言う。結果としてひきこもりは親がサポートすることになる。

アドリアンの母クレールのケースは典型的だ。息子がひきこもるようになって18カ月経つ。「最初は、私たちと夕飯を食べるときだけ部屋から出てきました。やがて私たちが寝静まるのを待って台所をうろつくようになりました。2カ月前からは部屋の前にお盆を置いています。その時にノックするのは、昼夜逆転の生活が直ればと願っているからです。出張に行く時は冷蔵庫に数日分の食べ物を入れておきます。友人からは、息子に甘すぎると言われました。でもあの子なら何日も食べずに済ませてしまうかもしれないので……」

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繊細でプレッシャーに弱い

なぜ、このように世間に背を向ける若者がいるのだろう。精神科医のマリー=ジャンヌ・ゲジュは「ひきこもりはHSP(Highly Sensitive Personの略。非常に繊細な人)や超共感力(エンパス)の持ち主に見られることがわかりました。こうした若者は自分の気持ちを表現するのが苦手で、外の世界をよそよそしく感じ、恐怖心を持っていることが多いのです」と説明する。2017年に発表された研究(注2)によると、ひきこもりの50%から80%には、全般性不安障害や抑うつ気分、あるいは稀に初期の統合失調症といった随伴症状が見られるそうだ。このようにひきこもりの背景要因がある場合と、特にそのような要因がなくひきこもる場合がある。

日本に次いでフランスでひきこもりが増えているのは、まったくの偶然とは言えないと社会学者のマイア・ファンスタンは考えている。「どちらの国でも子どもの頃から成果が求められ、学業が社会的成功に決定的な影響を及ぼします。しかも直線コースが評価され、型にはまらない人の居場所はほとんどありません」

幼い頃から高い水準を要求され、成功を目指すよう促される。心理学者のジャンヌ・シオ=ファシャンは「学校が怖い場所になっている」と嘆く。「子どもたちは将来や学業の話をするのに“キラー”なんて物騒な言葉づかいをしています。中学生で早くも進路選択をしなくてはならないなんて、ぞっとする話です。男子は女子以上にドロップアウトすることが多く(5人に1人が中退)、こうした話題に敏感に反応します。結果として一部の子は逃げ出してなにもかも諦めてしまう」

経済的に自立していないとやる気はさらに失われる。パソコンの画面に映る空想の世界に逃げこみ、ピーターパン症候群になるのも無理もない。2年前からひきこもっている29歳のトマはため息をつく。「もうすぐ30歳になってしまう、と思うと胃が痛くなる。高校の頃だった。いじめられて進路選びも失敗して……恥ずかしくて外出が嫌になった。高校に行くのも気が重かった。病院で洗濯のアルバイトを始めたけれど続かなかった。実家で生活しているのが恥ずかしい。しかもひきこもっている。外に出なくなると、出るのが怖くなる。状況が改善する希望はまったくない」

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現実から目をそむける

たしかにひきこもりの多くは不安にさいなまれていたり、非常に繊細な人だったり、変わった子と言われていたりする。だが現実や社会から意識的に逃避しているだけの人もなかにはいるのではないだろうか。精神科医のマリー=ジャンヌ・ゲジュは「最近、病理という言葉の他に選択という言葉を耳にするようになりました。ひきこもりが社会の狂気に対する無言の反論であるかのようです」と言う。

家の外に出て世界を旅しているのに自分の殻にとじこもったままの人もいる。心理学者のナターシャ・ヴェリュによれば、「日本では“外こもり”という言葉もできました。ひきこもりとは逆に、家から出て時には旅もしながら、社会との接触を一切避けている」人のことらしい。エレーヌの息子もそうだった。「数カ月間、ひきこもっていた息子がある日、行き先も何も言わずに姿を消しました。それからの18カ月間、私たち親にとっては地獄の日々でした。息子は追跡されないようにSIMカードさえ取り替えていたのです。1年半後、息子は泣きながら帰ってきました。無一文でした。誰とも喋らずにあちこちの民泊を泊まり歩いていたそうです。いま、息子は将来に向けて人生を立て直そうとしています。時間がかかるでしょう」

ひきこもりでも、外こもりでも、何もせずに暮らしていることに変わりない。精神科医のセルジュ・ティスロンは次のように説明する。「家族に頼まれて買い物に行くことがあっても、社会的なかかわりは一切持ちません。実のところ現実とのつながりが失われているのです。本人は自分がこの世界に適応しなきゃと思っていない。世界が自分に適応すればいいと思っているのです」

新しいIT技術がバーチャル世界の発展をもたらしたせいで、ひきこもりが生まれたわけではない。そのことはどの精神科医も認めている。だが結果としてひきこもりがしやすい環境になったことも事実だ。ドラマの配信もゲームもなく、そもそもインターネットで情報を得られなかったら、ひきこもりをずっと続けられるだろうか。と言うのも、これが最も理解しがたい点かもしれないが、ひきこもりは長期間にわたることがあるからだ。

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悪循環を断ち切るには

しかも恥ずかしかったり相談先がわからなかったりで、専門家に相談しないことが多い。そして時間が経てば経つほど問題はこじれ、悪循環が始まる。外出するのが怖いから外に出ない、そしてさらに不安になる。「精神科医の意見は、閉じこもる期間が6カ月過ぎたら何か手を打たなくてはならないという点で一致しています。中国や韓国では3カ月とも言われています」と精神科医のマリー=ジャンヌ・ゲジュ。ひきこもっている人を診察に連れて行くのは容易ではなく、時間が経つほど難しくなる。マリー=ジャンヌ・ゲジュがグザヴィエ・ブナルと始めたAFHIKI、すなわちフランス語圏におけるひきこもり調査研究協会(注3)の呼びかけで一部の心理療法士は訪問診療を始めた。

マリー=ジャンヌ・ゲジュは診察の大切さを次のように語る。「親も専門家に相談することが大事です。子どものことを真剣に心配していることを示せますし、そもそも親も分離不安を共有しているからです。親自身がとても苦しんでいる以上、これは大変重要なことです。親は事態に対して無力で、社会的な支援やアドバイスが不足しています」

7、8回、家を訪問しても子どもが部屋のドアを開けてくれない場合は、本人の同意なしに数カ月間、入院させることも視野に入れるべきだという。それがきっかけで本人の生活パターンが変わり、少し経てば自分の将来について考えられるようになるかもしれない。

「強制入院させられて当初激怒しても、外の世界との接触を取り戻せたと感謝してくれる若者もいます」と精神科医のマリー=ジャンヌ・ゲジュは言う。フランスのような精神医療体制がない日本では、50代のひきこもりもいる。フランスではまだそのような状況になっていないが、「日本では社会問題になっています」と心理学者のナターシャ・ヴェリュ。「親が亡くなったらどうするのでしょう。孤独死の恐れさえあります」

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子ども時代を存分に味わう

本人が他人とのつながりを持てるようになるには温かく見守り、見返りを求めない無償の関係を築かなくてはならない。子どもを守り、学業ばかりに注目するのではなく、気持ちに寄り添う必要がある。

まずは子どもに達成不可能な理想を示すよりも、もう少し期待値を下げてはどうだろう。心理学者のナターシャ・ヴェリュは「子どもたちに“夢を叶えて”と言うのは、本人にとってとんでもない命令だということに私たちは気付いていません」と嘆く。「私の患者の少年は、目指していた大学に入れなくてひきこもってしまいました……社会的に“抹殺”されてしまったのです」

親も教育関係者も、自分たちの「試行錯誤」を見守ってほしい。繊細な21世紀の隠者たちはそう訴えているのかもしれない。「ひきこもりの時間は、高速道路に乗る前の最後の給油所なのかもしれません。飛び立つ前に、子ども時代を存分時味わっているのではないでしょうか」と心理学者のナターシャ・ヴェリュは彼らの心情を思いやった。

(注1) 「Hikikomori, une expérience de confinement(原題訳:ひきこもりというとじこもり体験)」Natacha Vellut, Claude Martin, Cristina Figueiredo, Maïa Fansten著、Presses EHESP刊、190ページ、25ユーロ。
(注2) 「Characteristics of socially withdrawn youth in France(原題訳:フランスにおける社会的引きこもりの若者の特徴)」、Nicolas Chauliac編、Journal of Social Psychiatry, no.4、vol.63, June 2017.
(注3) www.afhiki.org
ひきこもり問題について他の親や本人と交流するにはヒキコモリ・フランス(www.hikikomori-france.fr )やヒキコモリ・ヨーロッパのフェイスブックアカウントへ。一般医から専門医の紹介を受けることも可能。

執筆者について
ソフィー・カルカンはフランスの小説家。小説「Juste à côté de moi(原題訳:私の隣で)」(Charleston, 2022年)でひきこもりの問題に取り組んでいる。また、フェミニスト的視点から書かれた児童書『J'aimerais te parler d'elle(原題訳:彼女のことを話したい)』『Tout ce que j'aimerais dire aux filles(原題訳:少女たちに伝えたいこと)』(共にAlbin Michel jeunesse)、漫画『Simone de Beauvoir une jeune fille qui dérange(シモーヌ・ド・ボーヴォワール、反抗する少女)』(Marabulles)を出版。最新作は「Alice 15 ans, résistante vous ne m'empêcherez jamais de rêver(原題訳:レジスタンスのアリス、15歳。私が夢見ることをあなた方は決して止められない)」(Albin Michel)。

text: Sophie Carquain (madame.lefigaro.fr)

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