7人の赤ちゃんはなぜ殺された?容疑者ルーシー・レトビーとは。

Society & Business 2023.07.21

ロンドンの新生児室で赤ん坊7人を殺害、さらに10人の殺人未遂容疑で逮捕された看護師のルーシー・レトビー。2022年10月にマンチェスターで裁判が始まった。本人の書いた意味深長なメモが見つかったにもかかわらず、ルーシー・レトビーは容疑を否認している。

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ロンドンの北西にあるマンチェスターの法廷でのルーシー・レトビー(法廷スケッチ)。(イギリス、2023年5月2日) illustration: Abaca

いつから看護師を志したのだろう。看護師に憧れる多くの少女のひとりだったのだろうか。5月2日、英国北西部のマンチェスター裁判所で被告席のルーシー・レトビーは「自分にとっては天職でした」と素気なく答えた。だがブロンドの髪に白い肌、天使のような雰囲気のこの女性は33歳という若さで、32もの罪名に問われている。容疑はカウンテス・オブ・チェスター病院に勤務していた2015年から2016年の間、7人の新生児を殺害し、さらに10人を殺害しようとしたもの。その手口は赤ちゃんの血管に空気やインスリンを注入するというものだった。

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共通因子

ルーシー・レトビーは1990年に生まれ、イングランド西部の町ヘレフォードで育った。父親のジョンは現在76歳、母親のスーザンは62歳だ。10代の頃は何人かのきょうだいに囲まれて悩みもなく過ごしたようだ。2023年5月、初めて法廷に姿を現した被告は子ども時代の部屋の写真を見て泣きはじめ、陪審員を驚かせた。かつての暮らしを思い出したのだろうか。この子ども部屋で、彼女は看護師になる夢を育んだ。きちんと整えられた部屋の壁には「どこにいても輝く人になろう」と希望に満ちたスローガンの額が飾られていた。裁判は2022年10月に始まり、集中審理が7ヶ月続いた後の2023年5月2日、ルーシーはすべての容疑を否認し、震えるか細い声でこう述べた。「これ以上ひどい容疑はありません。吐き気がします」

ルーシー・レトビーは2011年に21歳で学校を卒業し、その後はずっとカウンテス・オブ・チェスター病院の新生児病棟で働いていた。学生時代の研修3年間もこの病院で受けている。勤務態度を評価された時期もあったが、次第に彼女は不安視されるようになった。彼女が25歳だった2015年3月から2016年7月にかけて、彼女が勤務する病棟と時間帯での新生児の死亡率が異様に高かったからだ。しかも亡くなった新生児の遺体から奇妙なシミが見つかった。まるで毒殺された痕跡のようだった。複数の医師が病院に調査を依頼すべき判断した。調査は2017年に始まり、看護師ルーシーは翌年逮捕された。「赤ちゃんが亡くなった状況にはひとつの共通因子があった。毎回、ひとりの新生児病棟看護師が関わっていたことだ。その看護師はルーシー・レトビーだった」とニック・ジョンソン検事は公判初日に述べた。

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赤ちゃんAと赤ちゃんC

ルーシー・レトビーが担当していた赤ちゃんのうち、合計で5人の男の子と2人の女の子が死亡した。10人が生き残った。スポティファイのポッドキャスト「The Trial of Lucy Letby(ルーシー・レトビーの公判)」 では法廷での弁論と証拠調べがおこなわれた8ヶ月間を43回にわたり、追っている。そこに並んだ赤ちゃんの記録にはゾッとする。ランダムに書き出してみよう。赤ちゃんC、予定日より5日早く生まれる、800グラム、健康状態良、胃への空気注入で2015年6月15日に死亡。赤ちゃんA、2015年6月9日、同じ死因で亡くなる。赤ちゃんD、6月22日に死亡。赤ちゃんE、2015年8月3日、静脈へのインスリン注射が死因。「亡くなった赤ちゃんたちの悲劇は不幸にも、ルーシー・レトビーが毎回、宿直だったことです」と、検事は公判で述べた。

それでも不運な偶然の一致ということで片づけられていた可能性もある。しかしながらいくつかの怪しい点からこの看護師が「悪意ある存在」ではないかという疑いが浮上した。まず、赤ちゃんが亡くなってから数時間のうちに赤ちゃんの家族について彼女がリサーチしていたということだ。さらに2016年になり、彼女の私物からメモが見つかった。「私は生きる価値がない。私はあれらの面倒を見るのにふさわしくないから、わざと殺した。私はひどい人間だ。私は悪だ、私がやった」 と書かれている。脈拍なく他のメモの間にはさみ込まれていたバラバラの紙には、明らかに自らを責める言葉が並んでいる。「どうしてこうなったのか? どのようなプロセスでこのような状況になったのか?」とも書かれていた。

 

 

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ミスの連続

ルーシーはメモを自分が書いたと認めた。2023年6月9日、マンチェスターの裁判所で陪審員の前に、検察官のニック・ジョンソンは「あなたは殺人者ですか、レトビーさん」と質問した。ルーシーははっきり「いいえ」と否認した。では、なぜあのようなメモがあるのだろうという疑問がその場にいた人々の頭に浮かんだ。ルーシーの弁護士、ベン・マイヤーズKCの言い分では、それは「大きな精神的苦痛」を示すものであり、2017年と2018年に被告人は極度のうつ状態に陥っていた。そしてうつの原因は2016年7月に新生児室から異動になったことだった。

「その時点で私の人生は変わりました。私はシステムから遠ざけられ、慣れない仕事をやらされ、自分がそれを望んだかのように装わなければなりませんでした」と彼女は供述している。彼女の弁護士によれば、2018年に逮捕された“トラウマ”でルーシー・レトビーは自殺願望に悩まされ、心的外傷後ストレス障害と診断されたという。「私は責任を感じていました。何らかの点で無能であったか、自分が赤ちゃんを害するような何かをしでかしたと感じていました」と、彼女は5月2日、証言台で涙を浮かべながら語ったと英「ガーディアン」紙は報じている。自分がこの職業を選んだのは「人の世話をするため」であり、人を殺すためではないとも語った。彼女は赤ちゃんの死が医師全員による「ミスの連続」の結果だと主張している。

彼女の行動の動機は依然として謎のままで、ルーシー・レトビーの裏に真の連続殺人犯が隠れているのではないかと考える人さえいる。2020年11月に起訴され、6ヶ月で終了する予定の公判は8ヶ月間続いた。現時点での被告人はまだ推定無罪の状態だが、陪審員の審議は開始されており、評決はじきに出るだろう。

text: Léa Mabilon (madame.lefigaro.fr)

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