結婚しているのに他の人にときめいてしまったら?

Society & Business 2023.09.02

ふと出会った相手が気になって仕方がない。この切ない気持ちは、夫婦関係を見つめ直すべきサインなのだろうか。自分の気持ちはどこにあるのだろう。どうしたらいいのかわからない。フランス人専門家による、答えを出すためのヒント。

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相手がいるのに別な人にひかれる心理とは?illustration: Samuil_Levich / Getty Images

「唇にまだ熱い感触が残っている……他人からは、なんてバカなことをしているのと呆れられるかもしれない。でもカッと熱くなって、気持ちが舞いあがった」と語る35歳のステファニーは、仕事仲間のロマンと交わした熱いキスを思いだすと今もドキドキする。すぐに振り切ってその場を立ち去らなかったら、その先にどういう展開があっただろう。もしかしたら夫アントワーヌとの15年間の結婚生活が破綻したかもしれない。子どもがふたりもいるのに。ロマンとは波長が合ったと言うべきだろうか。出会ってすぐにお互いに好感を持った。ロマンが思わせぶりな態度をとるようになってもう何ヶ月にもなる。ステファニーが彼に対して毅然とした態度を取れないのは、夫から自分はもう求められていない、放置されていると感じているからだ。夫は1年半前に燃え尽き症候群と診断され、以来ずっと療養中、心ここにあらずの状態だ。家族のことも、もうじき予定されている引っ越しのことも、妻の誕生日も無関心なまま。一方、ステファニーは若くして子供を授かり、起業して成功を収め、遊ぶ余裕のないまま重い責任を負ってずっと生きてきた。だからだろうか、ロマンと出会って、「すぐに惹かれてしまった」のは。

放出されるホルモン

どうすればいいのだろう。この恋と向き合って夫婦関係にケリをつけるべきなのだろうか。それとも軽い火遊びに留めておくべきなのだろうか。これまで築きあげてきたものを壊す覚悟で身を委ねるべき?自分の気持ちにフタをしてやり過ごすべき?感情が交錯し、どうすべきかわからない。ただ言えることは、安定した関係を誰かと長年築いていても、他の人にときめくことはあるし、それは当たり前のことなのだ。「誰しも人生の中で出会う人間は一定数いる。そして統計学的に地球上で自分が好感を抱く相手はひとりだけではない」と、心理学者で『Indépendance Émotionnelle(原題訳:感情の自立)』(Guy Trédaniel 出版G)の著者であるアメリア・ロベは言う。

しかし、自然な現象だから仕方がない、で片付く問題ではない。出会いに伴い、自分の中でホルモンが放出される。覚醒、興奮、興奮のホルモンであるノルアドレナリンやアドレナリン。欲望、快楽、中毒、報酬、依存、意欲のホルモンであるドーパミン。視覚刺激や想像力を高め、性欲を活性化し、テストステロンやエストロゲンの生成を促すホルモンのキスペプチン。これらのホルモンによって心拍数が上がり、瞳孔が開き、想像力が膨らんでいく。そこに生まれるのは情熱、官能、執着、そして依存。

現実という限界

「欲望と快楽に身を委ねたとき、それを恋愛感情と簡単に錯覚してしまいがちだ」と心理学者のアメリア・ロベは指摘する。単なる欲望である「ときめき」を愛と混同すること。それがまさに問題なのだ。欲望と愛は別なものなのだから。精神分析医で、『Les Chansons d'Amour guérissent le Cœur du Monde(原題訳:愛の歌が世界のハートを癒す)』(Robert Laffont出版社)の著者であるジョセフ・アゴスティーニは、「この2つを区別することは難しいが、欲望が代替可能であり、多くの肉体を対象とすることができる一方で、愛というものは人生においてひと握りの人しか対象にできない」と説明する。「そして人間の悲劇は、自らを欲望と愛を一致させられる特別な存在と考えはじめたことだ。愛のない欲望は認めがたいかもしれないが、ときめく心理はまさにそれなのだ」とも。ステファニーがロマンとの関係をそれ以上発展させなかったのも、これが単なるときめきだと感じたからだった。「キスの後、しばらく考えていました」とステファニー。「でもこれまで自分が築き上げてきたもの、夫婦関係や家庭生活をこんなことで危機にさらしたくないと思いました」

「倦怠期の夫婦で性欲も減退した。そうなると、小説のボヴァリー夫人のように、恋人がいれば退屈しないだろうと思いこむ可能性が誰にだってある」と心理学者のアメリア・ロベは言うと続けた。「でも、性的誘惑に負けてそれが恋愛と思い、離婚に走る前によく考えたほうがいい。このときめきは、ひとときしか続かないかもしれない。やがては相手の本当の姿という現実に直面することになる」と。そう、現実という限界がやがては訪れる。では愛は?「愛によるパートナー選びは永続的なもので日常に根ざしている。この相手とならば日々のトラブルや困難も乗り切ることができる。それは魂の結びつきであり、そこにも欲望はあるが、まったく異なる無期限の欲だ」とジョセフ・アゴスティーニは違いを説明した。

別れるきっかけ

もちろん、ときめきが愛に変わることもある。サンドリーヌは、長年のパートナー、トマと出席した知人のパーティーで独身のジュールに出会った。すぐに好感を持った。自分の友達に紹介するという口実で彼とまた会い、あまりに波長が合うので怖くなった。「自分と話が合いすぎて好きになってしまいそうでした。彼は自信に満ちていて、順調な人生を歩んでいました。私はパートナーのことも仕事のことも行き詰まっていて、どうしたらいいのかわからない状態でした。そんなときに彼と知り合って動揺しました」とサンドリーヌは当時を振り返る。

つきあっている相手とうまくいっていない場合に他に目が向くことで亀裂が決定的になることがある。「パートナーの間で性欲のエネルギーがなくなっていると、ちょっとしたきっかけで崩壊する。そして誰かにときめいたから、というのがきっかけになることも多い」とジョセフ・アゴスティーニは言う。ときめきが引き金となって現在の関係が白日の下に晒される。自分のなかで芽生えた気持ちに気づいたサンドリーヌはジュールと会うことをすっぱりやめ、それ以上の発展はなかった。サンドリーヌはパートナーのトマにジュールの話はしなかった。「数ヶ月後、トマから、ある人を好きになってしまったから別れたいと言われました。私ができなかった決断をトマの方でしたのです。ジュールとはあれきりでしたが、後になって、彼がすべての発端だったのではないかと気づきました」とサンドリーヌは振りかえった。

道徳感と折り合いをつける

ときめきが単なる願望にとどまっているとき、そのことを現在のパートナーに話すべきなのだろうか。冒頭で紹介したステファニーの答えは決まっている。夫には話さない。「それ以上発展させないと自分で決めたけれど、仮に逆の決断をしても、それは自分の問題。彼から女として見られることが楽しいからで、これと夫婦関係とは無関係。夫を愛しているし、子どもいるし、これからもこれまでと何も変わらない」と言う。だが果たして次にそうなったときに本当に黙っていられるものだろうか。「それは自分の道徳観とどう折り合いをつけるかだろう」と精神分析医のジョセフ・アゴスティーニは言う。

ジョゼフ・アゴスティーニによれば、相手に言う、言わないは夫婦関係の成熟度にもかかわってくる問題だそうだ。「長年一緒にいて、他に目移りするというのは結局、前向きに人生や欲望をとらえていることを意味する。たとえその欲望が伝統的なスキームから外れているものであっても。こうした思いを自分のパートナーと分かちあおうとすること、うしろめたい気持ちから自分を解放すること、相手を騙そうとせず、きちんと話すこと。成熟した夫婦関係がなければできないことだろう」

text : Caroline Hamelle (madame.lefigaro.fr)

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