American Express 在日外国人女性たちがいきいきと活躍する、神戸の食堂バル。
Society & Business 2023.11.15
PROMOTION
街のショップを支援して地域を活性化することを目的に、アメリカン・エキスプレスが世界中で展開するSHOP SMALLプログラム。この取り組みの一環として、2022年から日本で新たに始まったのが、多様な街のショップオーナーのより自分らしい挑戦を応援する「RISE with SHOP SMALL」。「DE&I」をテーマにした今年の支援プログラムには、全国から多数の応募があり、そのなかから8人のショップオーナーが選出された。そのうちのひとつ、レストラン経営を通して、多様な女性の生き方を支援している「神戸アジアン食堂バルSALA」の取り組みを紹介します。
アメリカン・エキスプレス
RISE with SHOP SMALL
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さまざまな国の母たちが腕をふるう、神戸の食堂。
神戸の観光名所「南京町」のにぎやかな大通りから路地へ入った静かな通りに、「神戸アジアン食堂バル SALA」はたたずんでいる。周囲に溶け込みながらも、窓ガラス越しにさまざまなアジアの国の小物たちがきらめき、ふと立ち止まりのぞき込んでしまう。そして、一歩店内に踏み入れば、そこはもうずっと前から知っていたような不思議な懐かしさが漂う"食堂"だ。
アジア各国の雑貨に彩られたにぎやかな店内。
SALAは、代表の奥 尚子さんが、日本で暮らす海外女性の雇用を目的に始めた店だ。コンセプトは「Empowerment Of All People」。国籍や性別、年齢、立場、環境なども超えて、みんなが互いの価値観を認め合い、自分自身の価値も認められる社会を目指す----SALAがそのための場やきっかけになりたい、と奥さんは考えている。
働くスタッフの出身地は、タイ、台湾、モルドバとさまざま。これまでにはインドネシアやフィリピン、ネパール、中国などから来日した人もいて、実に国際色豊か。学生を含めた日本人もいる。
「店名のSALAは、タイ語で"休憩所"、タガログ語では"リビングルーム"という意味です。お客様やスタッフ、私たちに関わってくださる方みんながホッとできる場所でありますように、という願いを込めています」(奥 尚子さん、以下同)
2016年に神戸アジアン食堂バルSALAを開業した代表の奥 尚子さん。現在もスタッフと一緒に店頭に立つ。
ここでは定番のメニューに加え、スタッフが作るそれぞれの母国のメニューが日替わりで登場する。取材当日の日替わりメニューは、タイのプーパッポンカリー。カニの代わりにエビを使った具だくさんのカレーは、スパイスが香りながらもやさしい味わいだ。タイの家庭料理は、このように家族の身体をいたわり元気付けるおいしさなのだろう。ランチ時は近隣で働く女性客が、夜はグループ客や各国からの留学生も集まり、お腹を満たしてゆく。
蒸し鶏、揚げ鶏、そしてタイのオリジナルソース「ラープ」がかかった揚げ鶏の3種から2種が選べる「カオマンガイの2種盛り」(¥1,000)。ラープも手作りで、定番メニューでも一番人気だという。
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"見えない孤独"のなかで生きる女性たちの力になりたい。
SALAがオープンするきっかけは、奥さんの大学時代にあった。当時新設された社会起業学科に進学し、ホームレスや引きこもり、高齢者らを取り巻く社会問題に関する講義を浴びるように受けた。しかし、次第に違和感を募らせていく。
「講義では知識として得ることはたくさんありました。でもその頃、私が社会で困っている当事者たちと出会うことはほとんどなく、彼らを取り巻く社会問題について実感が湧かなかった。そこで先生に『当事者の話を聞きたい。どこに行けば会えますか』と聞き、いろいろな人や団体を訪ねるなかで出合ったのが、大阪でアジア出身の女性の生活相談を受けているNGO団体でした」
そこで、さまざまな女性に出会う。夫の転勤にともない来日するも、言葉や文化がわからず、知り合いもいないために自宅に引きこもる女性、日本人男性と結婚し、子どもも日本社会で育っていくなか、言葉や文化の壁があり、家族のなかで自分だけが取り残され、孤独を抱える女性......。
「彼女たちが困っている理由の多くは、母国でなら当たり前のようにできていたことが、日本に来た途端にたちまち難しくなってしまうというものでした。文字を読んだり書いたり、友だちに会ったり、困りごとを人に相談するといったこと"普通のこと"が突然できなくなり、本来活発な人でも元気をなくしてしまうんです」
見えない孤独のなかで生きる在日外国人女性たちの苦しみや悲しみに触れて、"こんな社会は嫌だ"という強烈な思いが湧きあがったという奥さん。自分に何かできないか、現状を少しでも変えるヒントはないかと考え、彼女たちに母国の料理を作ってもらい、大学のイベントの屋台で提供してみようと思い付く。
「日本に住んでいたら、母国の料理をご主人や子どもにふるまわないし、自分のために作ることもない。ところが屋台で販売すると、予想を超えて大人気に。お客さんが料理を買って食べて、おいしいと喜んでくれる様子を目の前で見た彼女たちは、大きな自信をつけました。私たち学生も、いろんな人の力を借りて奮闘したイベントが成功して、その場の全員がハッピーになったんです。"支援する側とされる側"ではなく、みんなが自分の力を出し切って互いに助け合い、目標を達成できたことが心からうれしかった」
取材した日、キッチンに立っていたのはタイ出身のセンさんとモルドバ出身のナタリアさん。ふたりとも、SALAのベテランスタッフだという。
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興味がない人の心をもつかむ店づくりを。
大学在学中4年間この屋台を続け、4年生になると、定休日のカフェを借り、店舗での提供も経験した。卒業する時には、自分たちの店を持ちたいと物件を探し始めた。しかしその頃から、「在日外国人のお母さんたちが気の毒だ」「学生ががんばっている」という支援だけでは、本来自分が目指している問題解決には繋がらないのではないか、と感じ始めたという。
「当時は、私たちの活動を知らない人や興味がない人に対して提供できる魅力がはっきりしていなかった。客観的な視点での集客が必要だったんです。当時は私の父も "ボランティアで商売をしてはいけない"と反対していて、その言葉はずっと頭の隅にありました」
そこで大学卒業後は、出版社の企画営業職に就職。3年半働き、飲食店の経営やPRの知識を身に付けた。退職後、1年の準備期間を経て、2016年7月に念願の「SALA」を開店。反対していた父も、今度はビジネスパートナーとして味方になってくれた。
もともと大手百貨店に長年勤務していた尚子さんの父・智雄さん。現在は尚子さんのビジネスパートナーとして店の経理を担当。スタッフからも「パパさん」の愛称で親しまれている。
念願の店舗をオープンした後も、決して経営状態は芳しくなかった。それでも自信をつけていきいきと働くスタッフのために店を閉めるわけにはいかないと奮闘する奥さんの情熱に触れ、SALAの活動を知り、応援してくれる人はどんどん増えていった。なかにはメディアを通してSALAの存在を知り、北海道から来店してくれた女性もいたという。
しかし、店に活気があふれていた2019年の年末、新型コロナウイルス感染症が世界的に流行。再び厳しい経営を強いられた。
コロナ禍には、店の前に屋台を出し、テイクアウトメニューを提供。「スタッフのためにひらがなで書いた手紙を渡してくださるお客様もいて、とてもありがたかった。いまも冷蔵庫に貼り、みんなで読んで励まされています」と奥さん。photography: Courtesy of SALA
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互いに認め合い、力を与える場所を守っていく。
奥さんにとって、コロナ禍での経営は、苦労もあったが多くの学びがあった。テイクアウトや冷凍で全国に配送するなど、レストランとしてもさまざまな方法で料理を届けられる可能性があること。さらに、コロナ禍以降もフードデリバリーはニーズがあること----これは、22席しかないSALAのような小さな店も、席数以上の集客ができる可能性があるということだ。
2021年3月、奥さんは店からも近い旧居留地のオフィスビルの地下に、セントラルキッチン「SALA cloud」をオープンした。テイクアウトやデリバリー商品の調理・販売・発送はもちろん、店舗で提供するメニューの材料のストックや仕込みなども行うバックキッチンだ。
「SALAは異なる国のメニューを提供するので、調味料も複数種用意しないといけないなど、一般的な飲食店に比べて非効率な部分が多いです。また、子育て中のお母さんも多いので、働く時間も限られてくる。だからこそ、バックキッチンに材料をストックしたり、仕込みをできる時間にやってもらったりして、業務を効率化し、スタッフみんなが安心して働ける場所を守り続けたいと考えています」
ただし、人材や運営システムの課題も多く、まだフル稼働しているとは言い難い。そんななか、以前SALAでスタッフとして働いていた友人の繋がりで今回のRISE with SHOP SMALLの募集を知り、すぐに応募。その結果、「多様性に配慮したオープンな店作りに挑戦するショップオーナー」としてアメックスから500万円相当の支援を受けられるA賞を受賞した。
この支援をもとに、バックキッチンに必要な設備の導入など、生産能力を高めるための初期投資を計画している。また、Uber Eatsなどのオンライン受注の仕組みを整え、言葉の壁があるスタッフでも対応しやすい環境づくりを目指すという奥さん。
ゆくゆくは、神戸で急増しているというアジア人留学生も含めて、新しい雇用を増やしていきたい考えだ。そうすることで、自国の文化や自分に自信を持って暮らせる人が増えていき、SALAが掲げる「Empowerment Of All People」に繋がるはずだ。
フィリピン人アーティスト、セシルによって描かれた「Empowerment Of All People」という店のコンセプトを表現した壁画。
「誰もが互いに認め合い、エンパワーする(力を与える)場所を作り、守っていく。そして、ほかの人が同様のチャレンジをしたいと思った時に参考にしてもらえるモデルになって、その方たちを後押しできる存在になれればうれしいです。どうすればそれが実現できるか、まずは私が考え続けてかたちを作り、発信していきたいと思っています」
国や立場を超え、多くの人々の心に灯りをともしてきた奥さん。みんなの笑顔を守り続けるために奮闘する彼女のビジネスを、アメリカン・エキスプレスRISE with SHOP SMALLが支援する。
奥 尚子(おく なおこ)
兵庫県生まれ。大学の社会起業学科に在学中、社会問題を学ぶなかで、日本に住むアジア出身の女性たちが直面している問題を知る。支援のため、女性たちが作る母国料理を屋台で販売する活動を開始。大学卒業後は実店舗への展開を目指し、ノウハウを学ぶために出版社で企画営業職を経験。2016年7月、「神戸アジアン食堂バルSALA」を開店。さらに雇用を増やして支援の幅を広げるため、2021年3月にセントラルキッチン「SALA cloud」をオープン。
神戸アジアン食堂バルSALA https://kobe-sala.asia/
https://www.americanexpress.com/jp/campaigns/shop-small/merchant.html
photography: Ami Harita text: Junko Kakimoto