【BWA AWARD 2023】新たな選択肢を創り出す、 女性たちの物語。 高齢者も障がい者も取り組める、バリアフリーな農業のかたち。

Society & Business 2023.11.20

「美しく豊かな働き方」を実践する次世代の女性ロールモデルを讃えるフィガロジャポンBusiness with A ttitude(BWA)Award。3回目となる本年のテーマは「新しい選択肢を創り出す女性たち」。既存の選択肢にとらわれず、新たな価値観を切り拓き、これからの働き方をより豊かにしてくれる5人の取り組みを紹介します。


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小林涼子
【 AGRIKO代表 】

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小林涼子(こばやし りょうこ);1989年、東京都生まれ。子役としてキャリアをスタート。映画、テレビドラマへの出演、J-WAVEナビゲーター、メディアへの寄稿など幅広く活動しており、現在はテレビドラマ「18歳、新妻、不倫します。」(ABCテレビ/テレビ朝日系)に出演中。2014年から家族とともに農業に携わるようになり、21年AGRIKOを設立。農林水産省の農福連携技術支援者を取得し、現在は世田谷区新町と品川区東五反田で農福連携の循環型農園、アグリコファームを展開している。www.agriko.net

白金にあるそのビルの屋上には、水耕栽培の小さなカップと水槽がいくつも並んでいた。カップに植えられているのは、カラシミズナやマリーゴールドなど、葉物野菜やエディブルフラワーの数々。水槽で育てているのはホンモロコとイズミダイ(ティラピア)。

「水耕栽培と養殖のシステムを組み合わせたアクアポニックス栽培は、植物と魚、バクテリアが作り出す生態系を利用することで環境への負荷をできる限り抑えた、循環型の生産システムです」と話すのは、ファームを案内してくれたAGRIKO(アグリコ)代表取締役の小林涼子。農業人口の減少および高齢化、気候変動といった問題に直面している農業分野に参入したアグリコが目指すのは、「おいしいものを食べ続けられる未来づくり」。桜新町や白金に構えた屋上農園で、農作物の生産から商品開発、販売までの6次産業化に取り組んでいる。

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9月に開園したばかりのアグリコ ファーム 白金。無農薬・無化学肥料栽培に抗生物質不使用の養殖を組み合わせたアクアポニックスのシステムは、家族の協力を得て試行錯誤したもの。「リサーチからデザイン、公的書類の書き方まで、家族総出でアグリコの事業に協力してくれています」

長く俳優として活躍してきた小林。農の原風景は、家族とともに稲作の手伝いを行った新潟の稲田にある。数年間、自宅のある東京から父の友人が営む棚田へ定期的に通い、農作業に携わった。自分たちの手で食べ物を生み出す充足感や、農作業を通じて多くの仲間と繋がる喜びといった経験を積み重ね、農業がいかにクリエイティブな仕事であるかを実感したと言う。

「一方で、多くの農家が労働力不足に陥っていて、耕作放棄地が増えて荒地となっていく様を目の当たりにしました。食の根幹を成す農業ですが、持続可能な産業であるとは思えず、未来の食料供給システムに強い危機感を抱くようになったのです」

その後、家族が体調を崩した経験から「都市に暮らしていても、障がいがあっても、年老いても、農業を諦めずに続けられる選択肢を作り出す」という強い意志をもって、"農業のバリアフリー"を掲げるアグリコを立ち上げた。2021年のことだ。

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長く通っていた新潟で、いまはアスパラガスの栽培や稲作に取り組む。田植機も乗りこなせるようになった。

「活動の拠点に選んだのは一大消費地である東京です。俳優という仕事を諦めず、自分が生まれ育った街で農業を始めるという新しい選択肢を見せることに、私が新規就農する意義があると思ったから。規模も生産量も新潟のような土地にはかないませんが、東京だからできる農業のやり方があるはずです」

「東京だからできること」としてスタートしたのが"ビル産ビル消"だ。屋上農園で収穫した農作物や魚は、ビル内にある飲食店で、その食材に最も適した調理法で調理されている。地産地消のメッセージを発するひと皿は、消費者がフードマイレージの問題に目を向けるきっかけになっているようだ。

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アグリコ ファーム 白金の野菜は、同じビル内にあるレストラン、gicca(ジッカ) 池田山にて提供。「AGRIKOファームのジェノベーゼ ハーブとマリーゴールド添え」¥1,800。料理は時季によって替わる。

また、障がい者や福祉事業者とともに農業をコーディネートできる農福連携技術支援者認定を取得。働く意欲がある障がい者と人手不足の農業のそれぞれのニーズをマッチングすることで、継続可能な農福連携サービスのあり方を模索している。

「現在、私たちの農園では7人の障がい者が活躍しています。ビオラのように繊細な植物の世話が得意な人、商品ラベルの絵を描くことが得意な人、それぞれが個性を発揮しながら、生き生きと作業に取り組んでくれています。彼らの仕事に対する熱量が、次の挑戦に向かう私のモチベーションとなっています」

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アグリコで働くスタッフは9割以上が女性。家事や育児で培った知識が生きている。

アグリコが新たに取り組もうとしているのが、食を支える農業や自然との関わりを知ってもらう食農教育だ。夏休みには農作業や水槽の水質検査を体験してもらうイベントを実施し、好評を得た。次世代を担う子どもたちに食べ物が生まれる背景を知ってもらうことは、フードロスの削減に繋がり、やがては持続可能な農業や食料システムの実現に貢献するだろう。そんな希望を抱き、この取り組みをさらに広げていこうと考えている。

農業を持続可能な産業とするために必要なことは? と尋ねると、小林は「生産者たちのストーリーを伝えること」と即答。

「ご飯一膳を食べるのに要する時間は10分ほどかもしれません。けれども、生産者はそのお米のために一年を費やしていることを、たくさんの人に知ってほしい。食卓に食べ物が並ぶ様を当たり前と思わず、誰かの苦労のうえに成り立っていることに思いを馳せてほしい。食べ物本来の価値を認めてもらえれば、農業は未来ある産業に変わっていくはずです」

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屋上農園で育てているマリーゴールドの花。gicca 池田山の料理にも使用。

アダムはエデンの園を耕すために土から作り出された。とすれば、人間の本質は土とともにあるのだろう。だからだろうか、俳優も農業も諦めない小林の毎日は、せわしなくも充実している。夢も目標も挑戦したいことも、まだまだ山積み。けれども気負うことはない。だって、食の現場へと導いてくれた両親の教えは、「頑張るより楽しむ」なのだから。

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Judges' Comments

小山薫堂(放送作家/脚本家)
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第一次産業の担い手不足・高齢化・障がい者雇用という大きな課題に対し、障がいのある方ならではの強みを生かした作業や、主婦というライフキャリアを積まれた方々のマルチタスクの才能に着目するなど、柔軟な発想で労働市場の需要と供給を繋げている点が素晴らしい。

山川 咲(CRAZY WEDDING創業者・クリエイティブディレクター)
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自ら起業し、自分の強みをアクションに変えていく姿勢に尊敬と共感を持ちました。その勇気やパワーがすごい。私が徳島の神山まるごと高専で起業する生き方を提案していることもあり、ブランドを創るに留まらず、自分でそれを推進していくしなやかな姿が印象的。

阿座上陽平(ゼブラアンドカンパニー共同創業者)
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今回のアワードでは「諦めない選択肢を作り出した人」を選出することで、やるかやらないかという二元論で終わらせない新しいモデルを見せたいと思っていました。まさに小林さんはそのような新しい起業家だと思います。

BWA Award 2023の受賞者一覧を見る

photography: Sakai De Jun text: Ryoko Kuraishi

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