韓国の若年層に広がる「痩身」信仰について。

Society & Business 2023.12.12

完璧を美徳とするK-POPの国では、誰もがスリムな身体に憧れるが、その弊害も生じている。

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コンサートで2人のダンサーに囲まれた歌手のIU(アイユー)。(香港、2016年12月16日)photography: Getty Images

例えば韓国のスパイス・ガールズとも言われるBLACKPINKのメンバーのひとり、リサは身長166センチ、ウエストは約70センチ、体重はぴったり44.7キロだ。韓流ドラマの人気女優、ペ・スジのサイズは数クリックですぐに判明する。身長168センチ、体重50キロだ。こうした個人情報が出回っていることにびっくりするかもしれないが、韓国で外見がいかに重視されているかを考えれば、それほど驚くことではない。韓国で美容整形がどれだけ普及しているかはマスコミで定期的に記事になっている。同国で最も重要な祝日、9月から10月にかけてのチュソクの連休には、多くの韓国女性が目や鼻の整形手術を受ける。成人を迎えた韓国女性にとっては通過儀礼的な感覚だ。

美容整形が流行る裏には、完璧であらねばならないという気持ちが働いている。韓国社会を研究する社会学者のシルヴィ・オクトブルは、「男女ともお手本は韓流漫画の登場人物だ。スレンダーな体格でほっそりした面立ち、無駄な贅肉はない。筋肉もついているけれどこれみよがしにシックスパックを見せびらかすのは無粋なこと。ややだらしない体型がシックとか個性的と肯定的に見られたりする欧米社会とは違う」と解説した。

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食べないことが掟破り

韓国人は痩せていれば痩せているほど素敵に感じるようだ。実のところ2017年の韓国の肥満率はOECD加盟国の中で2番目に低く、加盟国平均19.5%に対し約5%だった。それでもなお、どうすれば痩せられるかという記事が雑誌に溢れている。『K-pop, soft power et culture globale(原題訳:K POP、ソフトパワーとグローバルカルチャー)』(Presses Universitaires de France出版)はシルヴィ・オクトブルと作家のヴィンチェンツォ・チッチェリの共著だ。作家によれば、「韓国で痩せることに取りつかれているのは男性も女性も同じ、誰もがそう」らしい。「逆説的だがこれは韓国が1990年代末から超消費社会に突入したからだ。それまでの韓国には食糧制限があった。物がない社会での掟破りは飽食だ。逆に豊かな社会では食べないことが掟破りとなる」

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Kポップの影響

最近の韓国ではK-POPの影響でスリム志向が増幅されている。「K-POPダイエット」という現象すらある。韓国の人気アイドルが、YouTubeや雑誌で自分たちの食事を詳細に紹介しているのだ。スリムな体型維持や減量のためのメニューは果物と野菜、良質タンパク質が中心で油はほんのちょっぴり、そして風味づけにスパイスを多用する。ヴィンチェンツォ・チッチェリが言うように、「韓国は努力をよしとする社会」であり、「韓国の俳優や歌手はよく、今の地位を得るためにやってきたことを披露する。苦労や努力を語り、成功する秘訣を分かち合う」

韓国人がスリムなのは、伝統的な韓国料理が、栄養的にバランス良いことも関係している。「肉類が少なく、食の基本は、主にキムチと米と唐辛子だ」とシルヴィ・オクトブルは言う。ただ、栄養が足りているのか疑問な場合もある。韓国のブログでよく紹介されているように、人気歌手兼女優のIU(アイユー)の食生活は、朝食にリンゴ1個、昼食にサツマイモ1個、夕食にプロテインドリンク1杯だけだったりする。長期的に見れば、これは健康(肉体面も精神面も)にとって危険な食生活だ。

外見やスリムさを追い求めるのは女性ばかりではない。ヴィンチェンツォ・チッチェリ曰く、「男にとっても女にとってもプレッシャーとなっている。韓流ドラマの男優のずば抜けた美しさを見てほしい。誰も太っていない」

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厳しい競争社会

スリムな理想体型に憧れる風潮は厳しい競争社会で加速する。「韓国の若者たちは厳しい競争にさらされている。皆、高等教育を受け、誰もが少なくとも英語ぐらいは話せる。労働市場は飽和状態で競争原理が働いている」と社会学者のシルヴィ・オクトブルは言うと、「差をつけるために"ソフトスキル"が重要になってくる。外見やスリムな体型がモノを言う」と続けた。韓国社会で美容整形が急増しているのは、こうした理由からでもある。ヴィンチェンツォ・チッチェリも同意する。「韓流スターは皆、美容整形を受けているし、そのことを隠さない(例えばパク・ミニョン、コン・ミンジ、ファン・グァンヒ)。タブーでは全くないどころか、韓国社会の一部であり、こうした側面を否定すれば、社会から排斥されるおそれすらある」。さらにシルヴィ・オクトブルは「ブラジルと比較すると、ブラジルの女性は"婚活"市場での価値を高めるために美容整形する。ヨーロッパでは、若がえるために美容整形に頼る。韓国では就職をするためだ」と指摘した。

韓国人は世界でも有数の高学歴・有資格者なのに初就職に苦労する人が多い。25歳から29歳の若者の失業率は22%で、OECD加盟国の中で最も高い。それが美しさや痩身への執着をさらに悪化させていることは想像に難くない。まるでウロボロス、無限ループだ。

text: Ségolène Forgar (madame.lefigaro.fr)

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