パリオリンピックの選手村、「美食の国」で提供される驚きの料理とは?

Society & Business 2024.07.25

パリ五輪の選手村では、世界最大級のレストランがオープンする。なにしろシェフ200人が毎日4万食を用意することになるのだ。しかもスポーツ栄養学を考慮しながらフレンチガストロノミーも味わえるとは、いったいどんな料理が出てくるのだろう。

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パリ五輪の選手村では巨大なレストランがまもなくオープンする。photography : Getty Images

フランスは美食の国だが、オリンピックやパラリンピックには残念ながら美食という競技種目がない。だがパリ五輪で14,500人の選手たちに提供される食事メニューはオリンピック史に残るものとなるかもしれない。なにしろ栄養面での配慮に加え、地元の美味しい料理を提供しようという意気込みが詰まったメニューなのだ。メインレストランはパリ近郊のサン・ドニにある映画スタジオ、「シテ・デュ・シネマ」の建物内に設けられ、3,500人が同時に食事ができる世界最大級の食堂となる。日々4万食を提供する想定でメインディッシュは約40種類(3分の1はベジタリアンメニュー)、日替わりメニューは120種類、レシピ数は合計500種類にもなる。食材はレストランの周囲250km以内ですべて調達する予定だ。しかも200人のシェフに加えてフランス料理界の有名シェフ3名も参加している。なんとも美味しい話だ。

ミシュラン1つ星のアクラメ・ベナラルは、キヌアの食感を活かしたミューズリー「ムスリノア」のレシピを提供した。女性シェフのアマンディーヌ・シェニョは、アーティチョーククリームを敷いてポーチドエッグのクロワッサンを置き、羊乳トムチーズとトリュフを削りかけたレシピを用意している。3つ星シェフで元プロバスケットボール選手のアレクサンドル・マジアが準備したのはスパイス風味のメルルーサをタピオカ入り野菜スープに浮かべたレシピだ。こうした星つきシェフの料理を選手たちは食べることになる。アレクサンドル・マジア曰く、「オリンピック委員会からの提示条件は厳しく、挑戦しがいがありました。地産地消、フランスがノウハウを誇る美食、そしてアスリートへの栄養的配慮を兼ね備えたメニューは実現可能であることを示す絶好の機会でした」

どんな栄養的配慮が必要かはアスリートの体型やスケジュール(トレーニング時期か競技中か休息期間か)、そして本人の嗜好によって異なる。「食事は、各人の自然なバイオリズムに沿うべきです。またカロリーや量といった、不安やストレスを生むマイナス要素よりも優先されるべきなのは、楽しい、質がいい、タイミングがいいといった概念です」と言うのは、スポーツ栄養学専門の栄養士であり、自らウルトラトレイル・ランナーでもあるセリア・カルルスカンだ。選手たちの食生活は具体的にどのようなものなのだろう。

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朝食にはタンパク質

「朝は王様のように、昼はプリンスのように、夜は貧乏人のように食べる」という格言がフランスに昔からある。スポーツ選手の食生活はこの格言通りではないが、質の観点からは確かに朝食がもっとも重要であり、日々の栄養の土台となる。起床したら大切な栄養素はただひとつ、タンパク質だ。タンパク質こそが神経伝達物質のドーパミンの生成を促進し、やる気と活力をもたらし、生産性を上げてくれる。おすすめメニューは、卵、ハム、牛肉やチーズ。フレッシュチーズやヨーグルトにアーモンドやクルミ、ピーナッツバター、チアシードを混ぜたものもいい。ジャムパンなどの炭水化物は必要だろうか?オレンジジュースは?

「不要です」と栄養士のセリア・カルルスカンはにべもない。なぜなら、糖質はインスリンの分泌を引き起こして疲労感をもたらすうえに食欲を刺激し、食事直後に空腹感を覚えかねないからだ。ただしマラソンなどの持久系スポーツの選手の場合は事情が異なる。競技前3日間は炭水化物の量を増やし、長期間動く際の主燃料となるグリコーゲンの貯蔵量を最適化する必要があるからだ。精密機械のようなスポーツ選手の身体微調整に欠かせない朝食だが、緊張とストレスが高まる決勝の朝には何も食べられない選手もいるだろう。そんな時はリラックス効果のあるハーブ(レモンバーム、サンザシ、パッションフラワー)ティーを飲んだり、アーモンドを数粒かじったり、「幸せホルモン」と呼ばれるセロトニンの材料となるトリプトファンを豊富に含むダークチョコレートを食べるといい。食欲のない時の強い味方は液体だ。たとえば植物性プロテインシェイク(ひよこ豆)に低糖質の果物(イチゴ、ラズベリー、キウイなど)を組み合わせたメニューが考えられる。

午前中にトレーニングした場合、トレーニング終了後30分以内に軽食を取る。タンパク質を摂取することで筋肉を修復して筋肉痛を和らげると同時に、炭水化物でグリコーゲンを補給する。「このタイミングで摂取することにより、最大の効果が得られるのです」と栄養士のセリア・カルルスカンは言う。ヘルシーだが味気ない工業製品よりも手作りを好むアスリートには、抗酸化作用が高い赤い実のフルーツ、バナナ、ライスミルク、植物性プロテインをブレンドしたミルクシェイク風飲料を用意しよう。保存が効かない分、アスリートは食欲がなくてもシャワーから出たらすぐに飲まざるを得ない。そこが手作りの良いところでもある。

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酸性は敵

さてランチにはデンプン質少々とたっぷりの野菜を摂る。2回目のトレーニング終了後の場合はタンパク質の補給も必要だ。これらの成分のブースト効果でもう一度身体を目覚めさせる。「昼食はバランスよく摂りましょう。タンパク質の量は慎重に計算すべきです。タンパク質の摂りすぎは炎症を引き起こす可能性があるため、酸性を中和してくれる野菜が重要となります」と栄養士のセリア・カルルスカン。さらにクルミ油やキャノーラ油のような "良い "油をプラスすると、風味が増すだけでなく、心臓疾患予防や細胞膜の流動性を高める効果がある。

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夕食を楽しむ

誰だって夕食は楽しみなもの。スーパーヒーローも夕飯には多少ハメをはずしたくなるかもしれない。たとえサツマイモや白身魚や鶏胸肉しか出ないとわかっていても。野菜はたっぷりが基本ながら、胃腸の調子を崩す可能性があるキャベツやニンニク、玉ねぎなどは競技前夜に避けた方がいい。夕食ぐらいは好きなものを食べたいとジャンクフードにかぶりつく誘惑に駆られた場合、一番被害が少ないのは「ホームメイド」、つまり手作り料理だ。

たとえば「ハンバーガーにサラダ、消化に良いピザ、精製された砂糖を使わない一流シェフのお菓子」を勧めるのは、スポーツコーチで『30 Minutes de sport par jour pour tous(万人のための1日30分運動)』(Hugo Sport社)の著者であるヴァンサン・パリジだ。栄養士のセリア・カルルスカンは、多少暴食しても「それがセロトニンの生成を最適化し、睡眠を妨げないような適切なタイミングと食材である限り、パフォーマンス向上に貢献します。過去には夕食時に何も食べないアスリートもたくさんいましたが、良くありません。2人に1人は夜10時になってお腹が空き、冷蔵庫を開けて食べてしまうからです」と指摘した。翌朝のスタートに影響が出るようでは本末転倒だ。

text : Le maux Mathieu (madame.lefigaro.fr)

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