外国人スタッフとのチームワークで、多様性を認め合える社会を目指す。【BWAアワード2025受賞者:金天憓】

Society & Business 2025.11.19

「こうあるべき」にとらわれず、自分の感性や思いを大切にしながら働くことを通して社会にインパクトを与える次世代のロールモデルたちに光を当てるフィガロジャポンBusiness with Attitude(BWA)Award
5回目となる今年のテーマは、「楽しみながら舵を取る女性たち」。

困難な状況でも、仲間とともに航路を進み、新しい可能性や豊かさを見つけ出すストーリーを紹介します。


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金天憓
【成吉思汗だるま総務部長】

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札幌を拠点に展開するジンギスカン専門店「成吉思汗だるま」の4代目。東京の大学院に進学し、23歳で司法書士試験に合格。卒業後は地元・札幌で1年間司法書士事務所に勤務したが、家業に大きな未来を感じ、事業に専念することを決意。https://sapporo-jingisukan.info/

北海道札幌市のすすきのに6店舗を構える人気のジンギスカン専門店「成吉思汗だるま」(以下だるま)。2024年に創業70周年を迎え、同年には初の東京進出を果たした。4代目にあたる金天憓は、総務部長として全店舗のマネジメントを任されている。

父親の転勤にともない、高校生の時に札幌を離れ東京で暮らしていた金は、大学教授の勧めもあって司法書士を目指す。大学卒業の翌年に受験し、見事一発合格を果たした。当時は家業を継ぐつもりはなかったという。

「試験勉強をしていた時にパンデミックになり、気分転換を兼ねて店を手伝ったんです。大勢の外国人スタッフと仕事をするうちにやりがいを感じ、札幌に新店舗を出すと決まった時には、迷わず店長に手を挙げました」

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北海道のソウルフード、ジンギスカン。だるまはタレを後付けするスタイル。「代々続く秘伝のタレが、人気の秘訣です」

コロナ禍を経て、多くの飲食店は深刻な人手不足に悩んでいた。状況はだるまも同じで、金が店を手伝い始めた時にはアジア圏を中心とした外国人のスタッフが多く働いていた。

「問題は山積みでした。言葉の壁や文化の違いから、喧嘩もしょっちゅう。統率が取れていなかった。ところが世代の近い私が入ったことで親近感を覚えてくれたのか、ちょっとアドバイスするとどんどん伸びることがわかりました。そこからは、どんな人でも受け入れて丁寧に教えることにしました。私は日本で生まれて日本で育ちましたが、在日コリアンです。外国人に対する偏見は肌で感じてきました。店で起こっている問題は、日本社会の問題でもあると思ったんです」

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だるまで昔から働く日本人の女性スタッフたちも、外国人とともに働くようになって和やかな雰囲気になったという。

「外国人の子たちが一生懸命仕事を覚えて、どんどん日本語がうまくなる。なかには故郷に仕送りをしている子もいる。そんな彼らに対して、彼女たちはまるで我が子のように接しています。本気で怒ることもある。ここではみんなが家族のようです」

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日本で働く外国人スタッフのためのマニュアルをまとめた「だるまメソッド」を使って、月に一度ミーティングを行う。日本特有のルールや文化など、外国人が理解しにくいポイントをわかりやすくまとめ、スタッフが困った時に見る映像も制作している。

外国人のスタッフに対して金が伝えてきた内容は「だるまメソッド」と名付けられ、だるま全店舗で実践されている。挨拶の仕方から接客に必要な日本語のリスト、防災訓練まで、外国人が日本で働きながら暮らすための基本的なマニュアルがまとめられている。このメソッドに則って、新しく入った外国人に対しては、日本語のできるスタッフが指導する。初めは洗い場を担当するが、周囲のスタッフは積極的にコミュニケーションを取るように声がけを欠かさない。

「特に最初の3カ月が重要です。洗い場で働いていると耳から日本語を覚えるようになるので、次のステップではホールに出て少しずつ注文を取ってもらいます。ホールに出られたら時給も上がるので、みんなそれを目指して頑張ります。当然、日本人も外国人も待遇は同じ。正社員になって活躍する外国人もいますし、離職率は低いです」

言葉や仕事を覚えることも大事だが、金がそれ以上に大事にしているのがチームワーク。

「いかにチームのことを考えて仕事ができるか。それによって店の運営も向上するし、何よりみんなの居心地が良くなります。先週の会議で、ある店舗の外国人リーダーがこう言いました。『私はいままで自分の考えるやり方がいちばんだと思って働いてきた。でもルールを守ることでみんなが働きやすくなるんだということを、この店で学びました』と」

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東京・御徒町店で働くベトナム人のトゥアン店長。明るい笑顔とチームワークの良さが店を活気づけている。

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社員で結成したサッカーチーム。ネパールやミャンマー、ベトナム、タイとさまざまな国籍のメンバーが参加し、親睦を深めている。

だるまの門を叩いたものの仲間となじめない、という悩みを抱えるスタッフは、外国人だけでなく、日本人にも少なくない。

「メンタル面に課題を感じていたり、コミュニケーションが不得意な人もいたりします。でも私たちはいちばん弱い人をみんなで助けられるチームを目指しているんです。どんなに仕事ができても、何かのきっかけで弱者になる可能性は誰にでもある。私は店のチームを、リングを繋いだチェーンにたとえます。
チェーンの強さはいちばん弱いリングによって決まるのだから、そこを強くすることによって全体が強固になる。そういう組織にしたいのです」

だるまの創業以来の理念は、北海道の食の遺産であるジンギスカンのおいしさを多くの人に伝えることだが、金は今後、飲食業界を支える労働者のための教育とマネジメントに力を入れたいという。

「飲食業界において外国人労働者と関わることは、日本が直面している社会問題そのもの。同業者からどうやって外国人を教育しているのかと尋ねられることも多くなりました。だるまメソッドを広く活用できる仕組みも考えています。それによって、日本が多様性を認め合える社会になればうれしいです」

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Judges' Comments

工藤七子(一般財団法人 社会変革推進財団(SIIF)常務理事)
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人手不足極まる日本では、外国人の方との共生は不可避。現場で試行錯誤しながら徹底的に向き合ってきた姿が素晴らしい。ぜひ多くの方に金さんの取り組みを知ってほしいし、外国人へのネガティブな反応が話題になっているいまだからこそ、推薦したい。

浜田敬子(ジャーナリスト)
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参院選後、にわかに高まりつつある「外国人排斥」的な動きに対して、多様な国籍の人たちが安心して働ける職場づくりの実践は意義深い。本当の意味での共生とはどういうことなのか、それを体現してくれていると感じた。

マリウス葉
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移民をめぐる議論が先鋭化するいま、金さんの現場から生まれた「だるまメソッド」は、背景も言語も異なる人が力を発揮できる"統合の設計図"。全国レベルでの活用が進み、人手不足の解消に資する有効な解のひとつとして各業界の現場で機能していくことを強く願う。

BWA Award 2025の受賞者一覧を見る

*「フィガロジャポン」2026年1月号より抜粋

photography: Aya Kawachi text: Junko Kubodera

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