胸騒ぎの、シチリアワイン。 #02 シチリアの活火山が育んだ、パワフルなワイン。

Travel 2017.06.23

クズマーノは兄のアルベルトと弟のディエゴのクズマーノ兄弟が2000年に興した、若くて、パッションに溢れるワイナリーです。シチリア島内8カ所にブドウ畑を所有し、「小さな大陸」(広さは九州の3分の2程度)と形容されるシチリアの多様性を高いレベルで示そうと挑みつづけています。われわれが今回訪ねたのは島の東部、エトナ山の山中にあるワイナリー。

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エトナ山はヨーロッパ最大級の活火山。

いまも毎日噴煙を上げ続ける活火山エトナ山(標高3,329メートル)の周辺は近年、赤・白・ロゼすべてで高品質なワインを多く生み出すワイン産地として特に注目を集めているエリアです。その秘密はミネラルに富んだ土壌と標高の高さにあります。ミネラルはワインに張りのある飲みごたえと複雑味を与えます。なかでもエトナの火山性土壌は火やマグマに喩えられるような、パワフルでユニークな個性をワインに宿らせます。

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クズマーノ兄弟。左がアルベルトさん、右がディエゴさん。

アフリカ大陸に近く、夏は炎暑に見舞われるシチリアですが、エトナ山の山懐に開かれたブドウ畑の標高は500メートル〜1,000メートルに達するところもあり、季節を問わず夜には冷え込んできます。この昼夜の寒暖差がフェノール類に富んだ良質なブドウを育むのです。ワインの世界ではここ15年ほどの間に「冷涼地のワイン」がアルコール度数もほどほどで、味わいもエレガントでおいしいということが常識となっていますが、エトナは南の島にありながら「例外的な冷涼地」と言えます。

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ワイナリー外観。エネルギーにはバイオマスを利用。あくまでもエコフレンドリー。

初夏だというのに、まだ山頂に雪を載っけているエトナ山を車窓に眺めながら、車は稜線に沿った道を登って行きました。途中、曲がりくねった脇道に逸れ、浅い谷に下りてしばらく走ると、黒い溶岩の目立つ開けた土地に、壁がピンク色をした、いかにも年季の入ったヴィラとダークグレーの無機質なモダン建築がコントラストを成して立ち並んでいるのが見えてきました。それが、クズマーノがエトナに構えるアルタ・モラ・ワイナリーでした。

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ワイナリーのレセプションホール。

われわれを案内してくれたコミュニケーション担当のマイラ・ビーニャさんによれば、エトナにワイナリーを持つことはクズマーノ兄弟とその父親フランチェスコさんにとって夢だったそうです。「ずっとエトナ周辺のリサーチを行っていましたが、2013年にエトナ山の北斜面に3つのコントラーダ(名前の付いたブドウ畑の区画)を手に入れることができたのです」。北斜面と聞くと、日当たりが十分でないのではと思われますが、エトナでは北斜面に開かれた畑に限って樹齢の古いブドウの木が残されているそうです。良質なワインができるからこそ、古木が大切に残されてきたというわけです。「アルタ・モーラ」と名付けられたプロジェクトは、まず畑のテラスの崩れた石垣を積み直すことから始められました。

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標高1000メートル付近に開かれた畑。

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エトナ伝統のアルベレッロという仕立てで育てられるブドウ。

到着したときに見たピンク色の壁のヴィラは、元々ここにあったファームハウスを改修してゲスト用にしたものでした。一方、ダークグレーのモダン建築のほうは新たに建てられたワイナリー。エネルギー効率が考慮された設計、地元の溶岩を建材として利用するなど、エコフレンドリーな造り。最新機材を揃えた醸造設備は、少しでもブドウを傷つけないようにしてクリーンなワインを造る工夫に満ちています。抽象絵画やテラコッタがさりげなくコーナーを彩るテイスティングルームでテイスティングをさせてもらいました。窓からは雪を頂いたエトナの山容が望めます。

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ファームハウスを改装したゲスト用ヴィラ。

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ゲスト・ヴィラのリビングルーム。

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土壌をむき出しにした貯蔵庫。

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抽象画がテイスティングルームの壁を飾る。

>>シチリア郷土料理と地ワインのペアリング。

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シチリア郷土料理と地ワインのペアリング。

アルタ・モーラ エトナ・ビアンコ(白)2015は、在来品種のカッリカンテ100パーセントで造られています。香りには黄桃やパイナップルのトーンがあり、暖かな日差しが目に浮かぶようです。口に含むと、張りのあるミネラル感がシンバルの音のように響きます。

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左:アルタ・モーラ エトナ・ビアンコ2015 ¥3,024(参考価格) 右:アルタ・モーラ エトナ・ロッソ2014 ¥3,024(参考価格)

アルタ・モーラ エトナ・ロッソ(赤)2014。こちらもエトナ独特の在来品種ネレッロ・マスカレーゼ100パーセントで造られています。スミレやドライフラワー、ローズマリーの香りに黒糖やカシスが交じります。少し時間が経つとねずの実のトーンが上がってきました。口の中では瑞々しさと、やはり火山性土壌独特の灼けるような、燃えるような風味が感じられます。

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ワインメーカーたちも贔屓にする名店、「カーヴ・オックス」。

マイラさんからの提案で、近くのレストランにエトナ・ビアンコを持ち込んで、食事と合わせてみることにしました。サンドロ・ディベッラさんがシェフを務めるオステリア、「カーヴ・オックス」は地元のワインメーカーたちにも愛される郷土料理の店。

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地元のチーズや加工肉の盛り合わせ。

カボリチェッダという季節の野草とサルシッチャの入ったタリアテッレと、干し鱈とケイパーのパッケリ(幅広円筒形パスタ)を注文しました。トマトやハーブとワインが絶妙に照らし合います。ケイパーの塩気やオリーブオイルの油脂分とも相性がいいようです。やはり土地のものと地ワインのペアリングに勝る食事はないと再認識するランチになりました。

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カボリチェッダとサルシッチャのタリアテッレ。焦がしたパン粉をふりかけるのがシチリア風。

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干し鱈のパッケリ。ケイパーが塩気がほどよく利いて。

texte : YASUYUKI UKITA, photos : PANDA YOSHIDA, collaboration : Assovini Sicilia

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