最先端リゾート「イル・ボッロ」の秘密【前編】 サルヴァトーレ・フェラガモが手がける、新世代のエコラグジュアリー施設。

Travel 2019.10.15

イタリアのトスカーナ州にあるエコヴィレッジ、イル・ボッロ(Il Borro)を訪れた、自然派作家の四角大輔氏。ニュージーランド在住で、本人もサステイナブルな自給自足ライフを営む四角氏が、イル・ボッロを通じて、創設者であるサルヴァトーレ・フェラガモ氏の理念や活動を紹介する。そこには新しい時代に欠かすことのできない、真のラグジュアリーが見えてくる。


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「祖父はアーティストで、父はビジネスマンでした。さあ、僕はどうでしょうか」――これは、フェラガモ3代目、サルヴァトーレ・フェラガモ氏の言葉だ。そう、彼こそが、創業者の祖父サルヴァトーレ・フェラガモの名前を引き継ぐ、正統な継承者。

「でも少なくともここは、あなたにとっての芸術作品ですね。しかも、完璧と言っていいほどの」

彼が経営するホテルのビストロで食事をしながらインタビューしていた時、思わずそう返答してしまった。その彼の目線の先の森の中には、古城がひっそりと、でも確かな存在感をもって佇んでいた。

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彼がクリエイトするのは職人芸的な靴や服ではない。800年以上の歴史を持つイタリアの辺境にある”小さな村”である。

「自信作だよ」と、食事の最後にサルヴァトーレが注文してくれた、緻密な味のするスイーツをいただきながら彼と語り合っているうち、ふと1カ月前の彼との会話が頭に浮かんできた。

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昨今、SDGs(持続可能な開発目標)やサステイナブルという言葉を、各所で耳にするようになった。筆者が暮らすニュージーランド、毎年視察している環境先進国ドイツや北欧を筆頭とするヨーロッパだけでなく、日本のファッション業界もついに、「環境への配慮」へ大きく舵を切り始めている。

彼に初めて会ったのは、そんな時代の風を感じるようになった2019年7月の東京。

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筆者がオーガナイズした、代官山でのオーガニックワイン&フードのイベントに来てくれた彼に、話を聞く機会があった。食へのこだわり、クリエイティブの可能性、環境へのアクション、生活美意識など、興味が惹かれる話が次々と飛び出した。なによりも、情熱的だけど穏やかな人柄が魅力的だった。

その時彼は、「我が故郷でもあるトスカーナ州に、僕がこだわり抜いて作ったエコヴィレッジ、イル・ボッロがあるので、ぜひ来てほしい」と誘ってくれた。これが、今回の記事が生まれたきっかけである。

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そこには、西暦1200年に建てられた古城をリノベした5ツ星ホテル、有機栽培のワイナリーとオリーブ畑、オーガニック自家農園の収穫物によるレストラン、そしてローカルアーティストによるギャラリーがあるという。

毎年、1カ月以上にわたって行っている、世界のエシカルな現場を視察するオーガニックジャーニーがちょうど翌月に迫っていたし、今年は南ヨーロッパをじっくり回ることを決めてあったので、これは運命だとも思った。

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調べてみると、そのヴィレッジはイタリア北部のフィレンツェから約70㎞、車で1時間半ほどのところにあった。そして、そこを訪れたのは、2019年8月。ちょうどパリが45℃という異常な熱波に襲われ、「観測史上、地球が最も暑い月」を記録した直後のことだった。そしていままさに、初めて世界が団結し、気候変動解決に取り組むかどうかの分かれ道にいると言えるだろう。

この時代においての”本当の意味での豊かさ=21世紀的なラグジュアリー”を体現するこの村を、2回にわたって紹介する。

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イル・ボッロへのドライブは快適のひとこと。途中から一面の自然風景が視界を支配するようになり、村が近づくにつれオリーブの林とワインのブドウ畑が果てまで広がるようになる。

やがて大きな門に迎えられ、そこを入った瞬間、ふわっと木々と緑の静寂に包まれた。

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イル・ボッロは、トスカーナ州のキャンティ・クラシコ地区近くにある。いまから27年ほど前、丘の上に立つ中世の古城と、村とその周囲の土地、合わせて700ヘクタール(東京ドーム約150個分の面積)を買い取ったのは、現在フェラガモグループのトップを務める、2代目にあたるフェルッチォ・フェラガモ氏であった。

「当時は、ほとんどの建物が雨漏りして使えないなど、誰も見向きもしない見捨てられた村だった」。フェルッチォの子であるサルヴァトーレは、熱を持ってそう語る。彼こそが、この廃棄されつつあった歴史的遺産を、モダンなエコリゾート施設に蘇らせた立役者なのである。

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写真は、築800年近い歴史ある古城ホテルの一室。2012年に、「ルレ・エ・シャトー認定」の5ツ星を獲得しているだけあって、インテリアのセンスも使い勝手においてもまったく隙がない。

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上の写真も、ホテル室内。中世と現代が見事に調和されたハイブリッド空間で、あまりの静かさに、中世の街を丸ごと貸し切りしているような気持ちになった。

「食料も電力も自給自足」をテーマとしているこの村の生産能力は圧巻だ。

究極の有機栽培とも呼ばれるバイオダイナミック農法も取り入れるワイナリーや、オーガニック栽培のオリーブ畑、施設内のふたつのレストランの食卓へ野菜や果物を直送する有機農法による菜園、果樹園、ハーブ園が広大な敷地を埋め尽くす。

これらワイン、オリーブオイル、野菜や果物に加え、蜂蜜、卵、ビールまでも自家生産している。ここで自給できないものはすべて地元産で、魚介類は顔が見える漁師さんから直接仕入れているという徹底ぶり。

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水道水は地下水をくみ上げた美味なミネラルウォーターで、それを使った優雅なインフィニティプールやスパ、テニスコートや教会、この村ならではのギャラリーやブティックショップもある。

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そして、これらすべての施設の電力を、太陽光パネルで100%まかなっているのだ。しかも、そのグリーン電力は使い切れないため、電力会社に売っているほどだという。

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「さらに、ここに滞在してくれることで、君の旅のカーボンオフセットも実現するんだ」。サルヴァトーレはうれしそうに、ウインクしながら教えてくれた。

つまり、ここに何日か滞在している間に、往復のフライトで排出した温室効果ガスのうち、同量かそれ以上の二酸化炭素を、この広い敷地内にある樹々や植物が吸収してくれる計算になるという。

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世界65カ国を旅し、各地のエコホテルやリトリートに滞在してきた経験から、環境負荷が最小限に抑えられたうえで、美食大国の食通を唸らせる食事とワイン、さらに高いデザイン性と洗練さを実現している、このこれほど大規模な施設は、世界中を探してもそう出合えないのではないか。

さまざまなトレンドがあったとは言え、20世紀のファッション界は、ラグジュアリーという言葉が、常に主流にあったと言えるだろう。21世紀となった現代では、”次なるラグジュアリー”が求められるようになった。

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世界を見ると、次世代のトレンドセッターたちはもはや、「ただ華やか、ただ豪華、ただ高級」というだけのファッションに興味を失ってきていることがよくわかる。彼らは、環境への配慮がなされないモノやサービスは、いくらオシャレだとしても不要だと考えているからだ。

地球温暖化による急速な気候変動や異常気象に、日常的にさらされるようになったいま、その考え方や消費行動はもはや「きれいごと」「意識が高い系の人限定」ではなく、ぼくら人類がこの星に暮らし続けるために「あたりまえ」のことだと言ってもいいのではないだろうか。

イル・ボッロ滞在を通して感じた、「真のラグジュアリー=本当の意味での豊かさ」について、引き続き書きつづってみたい。(次号へ)

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四角大輔

レコード会社プロデューサーとして10度のミリオンヒットを創出後、行き過ぎた大量消費社会と距離を置くべく、2010年より森に囲まれた湖の畔でサステイナブルな自給自足ライフを営む。
場所に縛られない働き方を構築し、世界中のエシカルな現場を視察するオーガニックジャーニーを続け、これまでに60ヶ国以上を訪れる。 
「the Organic」副代表、国際環境NGO「Greenpeace」オーシャンアンバサダーなどを務める。
『人生やらなくていいリスト』(講談社+α文庫 刊)、『LOVELY GREEN NEW ZEALAND 未来の国を旅するガイドブック』(地球の歩き方 BOOKS刊)など著書多数。

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