35歳・独身の私が、卵子凍結に踏み切るまで。

Beauty 2021.08.30

「卵子凍結」という言葉をご存知だろうか。将来の体外受精を見据えて未受精の卵子を取り出し、マイナス196度の超低温状態で凍結保存するもので、もともとは抗がん剤治療や放射線治療を受ける若年女性患者に対し、治療後の生殖を可能にするために行われてきた。

しかし近年、日本でも加齢等の要因により妊娠の可能性が低下することを危惧する女性たちの間で、卵子凍結が注目を浴びている。仕事が忙しくてすぐに妊娠できない、パートナーがいないといった状況の中、「卵子の老化」という現実を前に、妊活のひとつの選択肢として取り組む人が増え始めた。今年5月、35歳で未受精卵凍結を行ったAさんもそのひとりだ。

210826_iStock-1295639449.jpgphoto:iStock

Aさんは東京の会社に勤める独身女性。10代の頃から生理不順で、定期的に婦人科を受診していた。「多嚢胞性卵巣症候群(*注)といって、排卵障害の一種です。自力で排卵するのが難しい体質で、これといった特効薬はありませんでした」。通常、女性の体内ではおよそ月に1回ひとつの卵子が育って排卵が起こるが、Aさんは卵子が成熟しにくく、排卵は年1回程度。20代になると婦人科の先生と相談してピルを服用することに。「20代になって男性とおつきあいし始めると、生理が来ないことで妊娠しているのでは?と心配してストレスフルな日々でした。ピルを服用するようになってからは定期的に生理が来るようになったので、避妊もきちんとできるようになりました。自分の身体を管理するという点で、ピルは有益だと思いますね」
---fadeinpager---

卵子凍結することで、パートナー選びに猶予ができた。

20代の頃から婦人科に定期的に通い、自分の体が妊娠しにくい体質だということを自覚していたAさん。妊娠を望むタイミングが来たら、専門の病院に通う覚悟をしていたという。「20代で子供を授かりにくい体質だということを知ったときはショックでした。でもいま思えばずいぶん前から心の準備はできていたんです」

30代になると仕事は充実していた一方、当時つきあっていた男性とは結婚に踏み切れなかった。「30歳という年齢はひとつの区切りと考えていたので、将来の妊活を視野に入れて生理周期を整えるため、排卵誘発剤を服用することにしました」。Aさんはこれまで通っていた婦人科から、職場から通いやすい医院に変更。そこで処方されたのは保険適用の排卵誘発剤・クロミッドや漢方薬など体に負担のない範囲のものだった。「結局排卵はうまくいきませんでした。お医者さまは不妊治療の専門医ではなかったので、現実的に妊娠を望むタイミングが来るまでは、あまり強い薬は薦められないとの判断でした」

2019年の冬、Aさんはそれまでつきあっていた男性と別れることに。「この時34歳でしたが、一般的に卵子の老化が始まるといわれる35歳は目前に迫っていました。不妊治療に関する助成制度変更のニュースを耳にしたり、周りでは友人たちが出産ラッシュだったり。いろいろなことが頭をよぎって、焦りました。友人に会うたびに『誰か紹介して!』とアピールしたり、マッチングアプリでパートナーを探したりもしました」。しかし焦れば焦るほどうまくいかず、そのまま35歳の誕生日を迎えた。「以前から不妊に関して調べていたなかで、卵子凍結という手段があることを思いつきました。恋人もいないまま結婚もせず、タイムリミットにしていた35歳を過ぎてしまった。でもいま卵子を凍結すればあともう少し、40歳くらいまでは仕事をしながら相手を探せるんじゃないかと思ったんです」
---fadeinpager---

【多嚢胞性卵巣症候群(PCOS : polycystic ovary syndrome)】

若い女性の排卵障害に多くみられる疾患で、卵胞が発育するのに時間がかかり、なかなか排卵しない状態をさす。自覚症状としては(1)月経周期が35日以上である、(2)以前は月経が順調だったのに現在は不規則、(3)にきびが多い、(4)やや毛深い、(5)肥満など。治療は排卵誘発剤を使って排卵のチャンスを増やすのが一般的。内服薬ですぐに排卵できる場合もあるが、反応しない場合は注射での排卵誘発を行う。


【卵子凍結】

未受精卵子および卵巣組織の凍結は、未婚のがん患者が治療後でも子どもを産める可能性を残すことを目的に日本では1980年代に始まった。近年は加齢などにより生殖能力が衰えて妊娠できない状態になる前に、卵子や卵巣組織の凍結を行うケースも増えている。その背景には、晩婚化や職業上のキャリアを追求する女性が増えたこと、加齢による妊娠への影響が広く知られるようになったことがある。また夫の不妊治療中に子どもをつくる機会を得られない場合、少しでも若いうちに卵子を凍結保存しておこうとするケースもある。

Aさん

都内在住の35歳、会社員。新卒から勤務する会社に在席して14年目。順調にキャリアを重ねている。学生時代から何人か交際した男性はいるものの、現在まで独身。サバサバした性格と面倒見のよさで周囲からは頼りにされる存在。趣味は読書と映画鑑賞。

 

「卵子凍結を経験した35歳、独身女性のリアルレポート。」トップへ

text: Junko Kubodera

Share:
  • Twitter
  • Facebook
  • Pinterest

Business with Attitude
Figaromarche
あの人のウォッチ&ジュエリーの物語
パリシティガイド
フィガロワインクラブ
BRAND SPECIAL
Ranking
Find More Stories