ルーヴル美術館で、絵画とビュリーの香りが競演！―前編―

パリ・ルーヴル美術館にオフィシーヌ・ユニヴェルセル・ビュリーの期間限定ブティックがオープン。7月3日のパリで、こんな素晴らしい出来事が起きた。美術館内といっても地下回廊の誰もがアクセスできる場所とあって、ビュリーの顧客たちが早くも足を運んでいる。この新しいブティックにとにかく好奇心をそそられて。さらに彼女たち、彼らはボナパルト店にもマレ店でもまだ販売されていない品々にも興味津々。それはルーヴル美術館所蔵の作品にインスパイアされた８名の調香師による８種の新しい香りである。

ルーヴル美術館内にできた2020年1月6日までの期間限定ブティックは、ドラマティックな劇場のようなスペース。壁に額の痕跡、ヴェルサイユ宮殿風のひし形対角線に組まれた床、重厚なカーテン……19世紀から存在するミュージアムショップというイメージで構成されている。

美術館に入る地上階のピラミッドから、あるいはリヴォリ通り99番地のカルーゼル・デュ・ルーヴルからブティックへ行ける。いずれの場合も手荷物検査はあるが、ブティックだけを目指すなら美術館入場チケットの購入は不要。

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“ビュリー×ルーヴル”をヴィクトワールが語る。

ビュリーでラムダン・トゥアミとともにディレクターを務めるヴィクトワール・ドゥ・タイヤック・トゥアミに、このコラボレーションの背景を語ってもらおう。

「このプロジェクトはある日、 ルーヴル美術館の担当者から『ビュリーと一緒に何かができるとうれしい』と、電話がかかってきて始まったことなのよ。ルーヴル美術館というのは、私にとってはイコール、フランスであり、文化遺産そのもの。その美術館の地下の一角のスペースをビュリーのブティックにという提案、これは私たちには信じられないようなギフトだわ。電話を受けてすぐに、ラムダンの頭に“これはすごい！調香師たちにルーヴル美術館の作品を選んでもらって、香水を作ろう！”とアイデアが浮かんだの。ルーヴル美術館は現代に生きる美術館。今日のアーティストやクリエイターたちにとって、大きなインスピレーション源であることを世間に理解してほしいと彼らは思っていて、さまざまなプロジェクトが行われているの。これまでで有名なところではビヨンセとJay-Zのミュージックビデオがあるでしょ。これが発表されるや来場者数が30%アップしたそうで、ルーヴルはこのフィルムにとっても満足しているの。でも昨年の来場者は1億人以上とかで、これ以上、まだ大勢に来てほしいの??と思うけれど（笑）……そのうちの70%が観光客。フランスの人々がもう少し増えることを望んでいるのでしょうね」

オフィシーヌ・ユニヴェルセル・ビュリーのオーナーであるラムダン・トゥアミとヴィクトワール・ドゥ・タイヤック・トゥアミ夫妻。

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このコラボレーションの声がルーヴルからかかったのは昨年の11月のこと。調香師たちが仕事にとりかかったのは今年の2月だという。ラムダンとヴィクトワールは8名の調香師に声をかけた。

「8という数字に特に意味はないわ。でも、時間的に短期間で進めなければならないプロジェクトだったので、これ以上の数だったら7月3日には間に合わなかったかもしれない。8名の中にはビュリーや以前シール トゥルドン時代に一緒に仕事をした調香師も含まれています。このプロジェクトではどこか1社ではなく、フランスの大きな香水メゾンであるシムライズ、IFF、ジボダン、ロベルテの全社の調香師たちと仕事をしたいと思ったの。姉のマリー・エレーヌと親交のあるダニエラ・アンドリエともぜひとも一緒に仕事がしたかったので、参加をお願いしたのよ」

そのダニエラは「あなたたち+ビュリー+ルーヴル=ハート」という方程式で回答をし、ヴィクトワールをおもしろがらせたそうだ。もちろんほかの調香師たちも、OUIと即答だ。

「ルーヴル美術館の展示作品に香りをつける。これって彼らには夢のプロジェクトよね 。美術館からはこのプロジェクトがビュリーに白紙依頼されたので、私たちも調香師たちには白紙依頼で、自由に作品を選んでもらった。それゆえ8つの香りの中に、画家アングルの作品がふたつ含まれることになった。女性のセンシュアリティを描く画家なので……。まず調香師たちは作品を選ぶために休館日にやってきて、4時間かけてほぼ全作品を見て回ることからスタート。ドミティル・ミシャロン=ベルティエはアングルの『グランド・オダリスク』、そしてジャン=クリストフ・エローは『ミロのヴィーナス』と、このふたりはその前から作品を決めていたの。ダニエラ・アンドリエはフェルメールの『真珠の耳飾りの少女』で創香を希望したのだけど、この作品はあいにくとルーヴル・アブダビに1年間の貸し出しに出ているということで選択外。それで彼女も休館日のツアーに参加して、アングルの『ヴァルパンソンの浴女』を選びました。館内にはとにかく膨大な量の作品が展示されているので、作品選びにいささか茫然自失気味となった調香師も……。でも、誰もいない休館日にルーヴル美術館で作品鑑賞という機会に恵まれたことには、誰もが大喜びだったわ」

プロジェクトの参加した8名の調香師たち。

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8つの作品が選ばれ、8つの香りが誕生した。インスピレーション源の絵画がそれぞれ魅力的なように、香りもそれぞれ個性がありバリエーションに富んでいる。

「ビュリーのための香りの仕事では通常調香師との間に、やりとりがあります。幾つかのバリエーションを提案され、それに対して何番がいい、といったような。でも今回は“夢みた香りを創ってください”とお願いしたので、 彼らから届いた香りに私たちは一切介入せず。フォーミュラにかかる金額の話もせず。彼らからの香りをそのまま受け入れたのよ、今回は。調香師たちがどう香りをクリエイトしたかを聞くと、素晴らしい！って感嘆するわ。たとえばアリエノール・マスネ。空っぽの美術館で階段の上の『サモトラケのニケ』を見上げ、像が放つ力強いフェミニティによって香りを創りたいという気持ちをかきたてられ、そこから地中海の花や、海の香り……と、時代と場所にタイムスリップしてインスピレーションを得ていったというように。似たような香りができるという心配もなかった。たとえ同じノートを使っていても調香師による絵画の解釈を求めているので、まったく異なるものに仕上がっていて……たとえばデルフィーヌ・ルボーの『かんぬき』も、ドミティルの『グランド・オダリスク』も、ムスクだけど、ふたつの香りはまったく似ていないでしょ。『庭園での語らい』と『ミロのヴィーナス』はバラだけど、これも同様ね。オー・トリプルのための香り創りということについては、他のブランドのアルコール使用の香水のためのコンセントレート作りと彼らの仕事は何ら変わらないのよ。でも、このように自由に調香できるのは通常の彼らの仕事とは異なることね。商品化において ちょっと複雑だったのは、ブジー・パルフュメ。8種のうち4種はワックス向きではなく、燃やすことによって香りが変わってしまうの。それで4つの香りだけの販売に……」

プレス発表時のルーヴル美術館で、調香師デルフィーヌ・ルボーと語らうヴィクトワール。

さて、もしヴィクトワールが調香するとしたら、ルーヴル美術館でどの作品を選ぶのだろうか ?

「ああ、それってまったく考えてもみなかったわ。そうね、ジャック=ルイ・ダヴィッドが描いた『レカミエ夫人』かしら……。でも、私は特定のどの作品というより、ルーヴル美術館という場所そのものにも魅力を感じているの。ここは美術館になる前は王宮だったでしょ。芸術作品を収める環境として素晴らしい。そして、これほどの場所で、傑作を鑑賞できるということも素晴らしい。たとえば、リシュリュー翼の女像柱（カリアティード）の間。かつての祝宴の間であった場所は、展示されている彫刻にとっては美しい宝石箱のようだわ。このプロジェクトのおかげで、休館日に作品を見て回れたのは幸運なことだった。ビュリーは小さな組織なので常に一丸となって仕事をしているのだけど、販売や経理に係るビュリーのスタッフもこの幸運に預かることができて、このルーヴルとのプロジェクトをより誇らしく感じているのよ。それに絵画からの香りというラムダンのアイデアもブティック空間も、ルーヴルはとても気に入っていて……このコラボレーションはビュリーにとって、本当に素晴らしい贈り物よ」

かつて王宮だったルーヴル美術館の建物そのものにも、ヴィクトワールは魅力を感じている。©Sam Armstrong

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