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ボローニャ「森の家」暮らし

桜とサン・ルカ。心の風景を想う3月。

 春いちばんにこの花(ワイルドプラム)が咲き始めると、思い出すのは桜の花咲く日本の風景。

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実家から小田急線で1時間強で都内に通った通学、通勤路。長い道中桜の季節はずっと窓の外を 眺めていた。たった10日ほど、あちこち薄桃色に染まるのを見逃したくなかった。イタリアに渡るまで近所だった代々木公園は通勤時、朝晩自転車で通り抜け、花見をする人たちのエネルギーごと肺いっぱい吸い込み、友達と歩いた目黒川は川に散る桜の花びらが流れていくのをいつまでも 見ていた。

桜が咲く頃といえば卒業や新学期、というのは世界的に稀で、別れと出会いの季節をともにしてきた桜を見てセンチメンタルになるのは、日本人ならではの感覚といえる。ところでイタリアの大学はほとんど国公立で、いわゆる卒業式がない。学部ごとに卒業できる日が年数回あり、各自が選んだその日に向かって卒業準備を進めていく。そのため、卒業のタイミングは学生次第で、同じ学年の学生が一堂に集まって行う卒業セレモニーというものはない。ちなみに入学式というものも存在しない。娘のゆまが公立小学校に入った時本当に何もなくてちょっとびっくりした。

卒業に必要なことはというと、すべての教科の単位を取得することと、卒論を執筆すること。この条件を満たしたら、最終試験を受けられる日を選んで卒業に臨む。この卒業試験は、卒論をもとにした口頭試問で、誰でも聞きに行ける一般公開イベントになっている。イタリアの大学の大多数となる国立大学の試験は、法律によってすべての人に公開されているのだ。

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大学卒業試験は家族にとっても一大事。遠方からはるばるやって来る親戚や友達もたくさん。通常、その日に卒論を発表し、その場で教授陣から得点と合格の有無が伝えられ、合格するとその場で卒業。

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先日参加させてもらったボローニャ大学工学部コンピューターサイエンス科のアンジェロくんの卒論発表会。高得点で晴れて学士号取得(Laurea=ラウレア)。この後博士号取得(Dottorato= ドットラート)に向けて、まだまだ学問の道は長い。

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卒論(。。。難しくてさっぱり!)は製本して発表。おめでとう! ちなみに卒業証書は卒業と同時にもらえるのではなく、1年以上経ってから。さすがイタリア。

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月桂樹の冠は知恵を身に付けた人のシンボルのようなもの。学士号取得者、ラウレアートとは、月桂樹を頭に抱く人という意味。学科ごとにリボンの色が決まっていて、エンジニア科と建築科は黒だそう。
そのまま家族や友人たちとぞろぞろお祝いに繰り出す。

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校舎の外で、公園で、道端で。どこでも乾杯。

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エンジニア科の卒業生たちはみんなフォーマルだったけど、どうしちゃったのかしらと目を見張るような仮装をした学生を見かけることもある。スプマンテのボトルを手にいい感じに出来上がった友達と行列で街を練り歩いているので、月桂樹の冠をかぶった人の御一行を見たら「アウグーリ(おめでとう)!」とねぎらってあげよう。1杯ふるまってくれるかもしれない。

さて、大学都市のボローニャ。この町ならではの、「卒業するまでするべからず」というものがい くつかある。

●ボローニャのシンボル、2本の塔の片方、アジネッリの塔に登ってはいけない。

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●ボローニャのおへそ、マッジョーレ広場を斜めに突っ切ってはいけない。

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●エンジニア科の学生はエンジニア科の校舎入口にあるフレーズをすべて読んではいけない。

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卒業する前にこれらをすると卒業から遠のくというのだ。 試験の前はサン・ルカ聖母聖堂に巡礼に行って願掛けだ。
旧市街から少し離れたグァルディア(守護者の意味)の丘の上にある聖ルカのマリア聖堂、通称サン・ルカ。

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遠方から帰宅途中の高速道路、電車、飛行機からもサン・ルカの丸いクーポラが見えると、あぁ帰ってきた!と安堵の息を漏らすのは、ボロネーゼならずともボローニャで暮らしたことのある人みんなが覚える感覚だ。旧市街とサン・ルカを繋ぐのは、4km弱続く柱の回廊、ポルティコ。

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世界一長いポルティコは、ボローニャ中にあるポルティコと合わせて2020年ユネスコ世界遺産候補になった (ボローニャのポルティコについては2019年11月のブログ記事をご参照まで。)
旧市街のサラゴッツァ門を出たところから始まるサン・ルカへの道は、丘のふもとのメロンチェッロ門までは平坦。

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ここからが登り道。

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毎日、巡礼者のほか朝晩ここをジョギングしたり、おしゃべりしながらウォーキングする人たちで賑わう。特に雨の日は、濡れずに散歩できるので犬連れも多くなる。

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ドーム状のアーケードを支える柱は全部で666本。この数字、実は悪魔を意味するもの。

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丘のふもとからジグザグと曲がりくねったポルティコは蛇状の悪魔で、それを上からマリア(聖堂)が踏みつけているという構成だ。

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ポルティコの向こうに十字架が見えたらあと少し。

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階段を登りきったらこの景色。気付けば教会北ウィングにいるという粋な仕掛け。 ボローニャ市街を見下ろす教会、反対側はのどかな景色が広がる。

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1433年の春、何ヵ月も雨がやまず作物への被害が深刻になり、祭壇に祀られているエヴァンジェリスタ(福音記者)、ルカが描いた聖母子の絵を旧市街の教会へ移すこととなった。

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絵を運ぶ行列が町に入った途端、奇跡的に雨はやんだという。それから毎年1度、5月に祭壇の絵は旧市街にある聖ピエトロ聖堂に下ろす行事が行われるようになった。ちなみに絵を移動する日は必ず雨が降る、というのもちょっとしたミラクルだ。

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サン・ルカに巡礼もしくはジョギングした際に訪れたいのは、ふもとのメロンチェッロ門にあるバール、ビッリ。

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100年以上前からあったバールを1953年におじいさんのマリオが買い取って以来、いまでも家族経営のホンモノのヴィンテージのバール。夫のパオロがこの近くの大理石屋に出入りしていたときはたびたび、アペリティーボにも来たものだ。

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1833年のレシピで作られるナターレのトラディショナルなケーキ、パンスペツィエルには、60年代に作ったおじいさんの顔入りパッケージがいまでも使われている。

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カーニバルのこの時期には季節の揚げ菓子、スフラッポレを。

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サン・ルカを望む丘の上、サン・ペッレグリーノ公園に来ていた家族に合流。

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パリッパリでほんのりオレンジの香りのするスフラッポレは食べ始めたら止まらない危険なお菓子。

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向こうに見えるのは、春霞のサン・ルカ。あそこまで歩いて行ったんだよーママは。 上のふたりの娘は連れて行けるけど2歳のたえはまだ歩いて行くには大変なので、もうちょっと大きくなったらみんなで歩きたい。毎日歩いて通えば願いが叶うそうで、友人は身体の弱い家族の健康を願って毎日登っていた。そんな話をしたら、みうは「わたしもいく! 魔法が使えるように なりたい!」だって。
ボロネーゼみんなに愛されているサン・ルカ。これをモチーフにした作品依頼も多い。

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旧市街のとあるお宅へお届けしたサン・ルカとポルティコの風景。
家主はアメリカ在住のボロネーゼで、年数回帰ってきた時にここに泊まるそう。

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「サン・ルカが見える」物件は不動産の売り出しポイントでもある。 それだけみんなにとって特別な風景なのだ。

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この丘の桜の花のつぼみもふっくらしてきていた(これはワイルドプラム)
桜とサン・ルカがある風景は、私の心に刻まれた大切なふたつの故郷の風景だ。

小林千鶴

イタリア・ボローニャ在住の造形アーティスト。武蔵野美術大学で金属工芸を学び、2008年にイタリアへ渡る。イタリア各地のレストランやホテル、ブティック、個人宅にオーダーメイドで制作。舞台装飾やミラノサローネなどでアーティストとのコラボも行う。ボローニャ旧市街に住み、14年からボローニャ郊外にある「森の家」での暮らしもスタート。イタリア人の夫と結婚し、3人の姉妹の母。

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