ボローニャ「森の家」暮らし

何があっても明日は来る。毎日を大切に生きようと思う10月。

日に日に木々が色づき、秋が深まってきた。

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10月最後の週末には時計の針が1時間巻き戻され、朝が来るのが1時間遅くなった。

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ボローニャの高校の通う長女のゆまは週2日は6時20分、週2日は6時35分に家をでる。冬時間に

なる前までは朝出るときは真っ暗だったのが、

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時間が変わってからはうっすら明るく。でも冬至まであと2カ月近く、まだまだ夜が長くなるのだ。

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晴れていればまだいい。深い霧に覆われた日は、日中はともかく暗い時はヘッドライトでも見える距離が短くて運転するのも緊張する。

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2週間、霧と雨の日が続いた。この日は大雨警報が出た土曜日。来年2月のボローニャでの展示に向けて作品を一緒に作っているユリアの家をゆまと出たのは19時半。たくさん雨が降っていたけれど、警報なんて大げさな。と思っていた。

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でも通りに出たら納得。道は川になっていた。家に帰るための2本の道はどちらも水が上がって通行止め。引き返した道も通れなくなり、立ち往生する車の行列が。危うく車の中で一晩過ごすことになるところだったけれど、ダメもとで行ってみた道が幸いギリギリ通れる状態で、ボローニャに引き返した。

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ユリアの家を出て2時間後、ただいま、と帰ったら、お寿司とピッツァが待っていた。

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疲れ果てていたゆまは、道中なんでもいいから家に帰りたいーと泣き、もう食べる気力もないと言っていたけれど、普段食べない「ご馳走」に、元気を取り戻した。家が浸水したわけでもなく、車の中で寝るわけでもなく、暖かい家も食べ物も心地よい寝床も仲良しの友だちもいて、最高じゃない。ボローニャに戻る車内でコップ半分の水を、「半分しかない」と捉えるか、「半分もある」と捉えるか、という思考パターンの話をした。ひとつの物事を前に、捉え方は人それぞれ。どれも間違いではないけれど、どれかの考え方を続けて行き詰まった時、思考の枠組みを変えてみることで違った意味を見出すことで、事態を乗り越える助けになる。その人の素質にもよるけれど、ものの味方を柔軟にすることは日々のトレーニングで鍛えられる。そんな話を、ゆまはけむたそうに聞いていたけれど、そのうちわかってくれたら良いなと思う。

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翌日。いくつもの道が通行不可になっていたものの、うちへの道は帰宅者は帰れるというニュースを見て、帰路に。昨日水が上がって通れなかった道は、土砂が押し寄せて大変なことに。ボランティアの人たちが家の中に流れ込んだ土砂を汲み上げたり使い物にならなくなった家財道具などを運び出したりしていた。

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道は泥だらけ。昨夜は道の前と後ろに土砂が崩れて立ち往生した車もあったとか。

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その後何日も土砂をどけたり、泥道は滑りやすいので洗浄が行われた。

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ボローニャ旧市街の近郊でも、1階や地下に土砂が流れ込んだり、高架下に水が溜まったり、かつてないほどの浸水災害があった。

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街角にはゴミの山が。ガレージが浸水して車が廃車になった友だちも。2週間経った今も、各地で災害の爪痕が残っている。大雨被害で学校が休みになった日。四つ足の長女、ゆずが天に旅立った。

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もうすぐ15歳になるところだったゆず。身体中にガンができて随分痩せたけど、ごはんも食べてロバを走って追いかけて、普通に生活できていた。

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午後からひどい癲癇に襲われて、何も喉を通らなくなり、みんなでお祈りとお別れをして、翌朝獣医さんのところに連れて行った。将来は獣医になりたいゆまも来て、最後を看取った。ボローニャに住んでいた時は、小さかったゆまたちがリードを持っても引っ張らず子供のペースで歩いてくれて、何をされても辛抱強く相手をしていてくれた。子供の頃からずっと犬と暮らして来たパオロは、今まででいちばんお利口な子だと溺愛していた。

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ゆずのお墓は、昨年うちにきて数週間で亡くなったエミリーのとなり、うちを見渡す丘の上に。

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お別れは悲しいけれど、残るのはたくさんの愛の思い出。一緒に暮らせて本当に幸せだった。ありがとね、ゆず。ずっと大好きだよ。

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今月末っ子たえは7歳に。

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友だちとお昼ごはん(リクエストでピッツァとローストポテト)を食べて、恒例のローストマシュマロ。

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マシュマロは甘すぎて好きじゃないけど、焼くと食感が変わっておもしろい。

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なーんでもないけどこの満足顔。

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ヤギたちを追いかけてロバたちにパンをあげてトランポリンで暗くなるまで遊んだ後は、映画鑑賞。

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そのうちパジャマパーティするようになるのだろう。

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久々に雨が止んだ日、久々に森に。7ヘクタールのうちの森は斜面にあり、栗の木がたくさん生えているけれど、メインテナンスもできずほとんど行くことはない。森に行くときはいつもこの栗の木に会いに行く。

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柔らかく青々した苔の生えた木肌は、触らずにいられない。

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木の根元にはこんなキノコたちが。

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キノコが属する菌類の世界は実におもしろい。菌類は土の中の窒素やリンなどの栄養分を植物に与える一方で、自身が存在するために必要なエネルギーとして植物から光合成産物をもらっている。

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近年、こんな相互関係を成立させるために重要な、菌類が植物の根の周辺に張り巡らされたネットワークの研究が進んでいる。菌類のネットワークは器官同士の結び付きだけではなく、個体同士が菌糸から電気信号を送ることでコミュニケーションを取っていることわかった。電気信号を解析した研究グループによると、単語の総数が50以上、一語あたりの平均文字数が5.7の言語に相当し、人間の会話に似たパターンが発見されたという。

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菌糸は電気信号を通して離れたところにある自分の身体、あるいは木などのパートナーに、食べ物や怪我、病気などの情報を伝えている。ひとつの場所にかたまって生えたキノコの一部に光を当てると、光が当たっていない離れた場所のキノコも一緒に育つことも分かった。菌糸のネットワークは森中に広がり、木々は地中の菌類ネットワークを介してつながりあい、情報交換している。菌類ネットワークを利用して、人工森林を植生するなどの試みも行われている。

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自然のインテリジェンスを吸い込み、さまざまな色、形、質感、触感にインスパイアされる森で過ごす時間は、身体にたまった電磁波などをデトックスし、細胞が再生し、DNAがアップグレードされるのではないかと感じるほどパワフルで貴重な時間だ。

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電磁波デトックスは素足で大地で過ごすことでできる。たえはこんな天気でもよく素足で外にいる、グラウンディングのマスター。庭に生える食用のこのキノコ、シバフタケは、英語ではフェアリーリングマッシュルームと呼ばれる。それも、円形になって育つため。西ヨーロッパの民話では、フェアリーリングは度々魔女や悪魔が関わる危ない場所として語られてきた。夜、このリングの中に立ち入ると、妖精に連れ去られるとか。本当かどうか、試してないけれど、フェアリーリングマッシュルーム、なんて可愛い名前のキノコは、甘みがあってとても美味しい。

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森で拾った栗。

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今年は悪天候で毎年恒例の地元の栗祭りが中止になって残念。

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おやつに焼き栗。

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暖炉で栗を焼くと、あぁ秋がきたな、と思う。

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あと、夏中外にいたネコたちが夜帰ってくるようになったのも、季節が変わったしるし。

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春に大風で倒れた木の下敷きになったマルメロ。斜めのまま、たくさんの実をつけた。

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雨風で実がたくさん落ちてしまったけれど、あまりいたんでいないものを拾ってジャムに。

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マルメロは日本でも北地で栽培されるバラ科の植物で、西洋カリンとも呼ばれる。強い酸味と独特な渋みがあり、繊維質でとても硬いので、生食には向かず、ほとんど加熱調理して食べられる。ジャムは砂糖がたくさん入るのが嫌なのであまり作らないけれど、ぐつぐつ煮るのは大好き。甘い香りが漂って、幸せな気分に。

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シナモンとクローブを加えて作ったマルメロのジャムは、チーズに合わせるにもぴったり。喉の痛みを抑える効果があり、はちみつ漬けにして温かいお湯で割って飲むことも。ペクチンが豊富でゼラチンを使わなくても果汁が固まるので、果汁に砂糖を加えて煮詰めてゼリーのようにして食べるのも人気。

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立派に育った大好きなポロネギ。

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ザクロは鑑賞するのも食べるもの好き。

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ポロ葱はゆっくり火を通してバルサミコ酢をかけて仕上げ、ヒヨコマメとキクイモとタヒニのクリームの上に。

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ザクロと中東のスパイス、スマック(ゆかりのような酸味のある味)をかけて。ポロ葱とヒヨコマメクリームの甘味のある味に、いいアクセントに。

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キクイモは、3mほども高くなるキク科ヒマワリ属の多年草で、10月に小さなヒマワリに似た花が咲く。まったく手のかからない植物で、魂茎が残っていれば毎年育ってくれてうれしい。

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エルサレムアーティチョークとも呼ばれ、アーティチョークのような甘みがある味。腸内環境を整え血糖値を下げる効果があり、健康野菜と言われるキクイモは、食べる量を加減しないとお腹がゆるくなるので要注意。土の中にある方が保存がいいので、土が凍るまでは必要なときに必要な分だけ収穫するのがいい。

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やっと太陽が戻った10月最後の週。アドリア海はリミニ近くのワイナリー、オッタヴィアーニに。

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ここにあるヴィラは、リノベーション中の6月に関係者向けに内覧会があった。(※6月の記事にリンクを貼れますでしょうか。)

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4カ月ぶりに訪れたヴィラ、植物はすくすく育ち、素晴らしい庭が出来ていた。

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秋の夕陽が心地よいオープンリビング。

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今回9部屋のうち内装が終わった5つの部屋の名前とヘッドボードを設営に。

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各部屋にはブドウ畑にいる生き物の名前が。Lepreは野うさぎの部屋。

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イチヂクの木に止まったのはヤツガシラ。

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ニワトリの部屋。

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イノシシ。(子連れにしたら可愛いかもと思っているところ。)

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6月に飾り付けた畑の作品はチョウチョの部屋になった。

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設営が終わったところでヴィラの出資者のアメリカ人建築家ご一行が到着。みんな作品をとても褒めてくれてくれてほっとした。

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ヴィラに作った作品と、ユリアと一緒に作っている作品は、デザイン作品とアート作品で、まったく異なる思考から生まれるものだ。週2、3回ユリアの家でアート作品を一緒に作る過程は、デザイン作品を作る時とは違う次元の何かにアクセスしているようで、ワクワクする。

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毎日、毎週、毎月、気が高揚することもあれば、滅入ることもある。大切な人や物を無くしたり、健康問題や、複雑な状況の渦中で辛い思いをしている人たちもたくさんいる。辛い経験をするからこそ、親身になってくれる人の行為や、なんでもない日常をありがたいと感じたり、あるいは自分や他人に慈悲を向けたり優しくなれたりできるもの。そして苦しみを経験した人は、楽しいこと、ワクワクすること、心開くことがより満たされた経験になるのではないか。

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久々に雲が晴れて、太陽と青空が出た時の幸せと言ったらない。夜には満点の星にうっとり。そしてちっぽけな自分の中にも同じくらい神秘的な宇宙があり、計り知れない可能性を秘めていることに、またうっとり。私たちの中には苦しみを乗り越える力が備わっている。まずは自分のポテンシャルを信じよう。そして、自分がそうしてほしいように、人に、動物に、環境に優しくしよう。そして自分ができること、美しいもの、ワクワクするものを作り続けよう。次の時代が、自分が生きた時代より、より良い世界になるように。

小林千鶴

イタリア・ボローニャ在住の造形アーティスト。武蔵野美術大学で金属工芸を学び、2008年にイタリアへ渡る。イタリア各地のレストランやホテル、ブティック、個人宅にオーダーメイドで制作。舞台装飾やミラノサローネなどでアーティストとのコラボも行う。ボローニャ旧市街に住み、14年からボローニャ郊外にある「森の家」での暮らしもスタート。イタリア人の夫と結婚し、3人の姉妹の母。
Instagram : @chizu_kobayashi

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