ニューノーマル時代に寄り添う、美しい温泉宿。
こんにちは、編集まりモグです。
最新号のフィガロジャポンでは、「ニッポンの小さな旅。」を特集していますが、ほかにも素敵なアドレスがたくさんあります。
そのひとつがこちら、三重の湯の山温泉に立つ素粋居です。
今年7月に開業したばかりのこの宿は、8つの素材をテーマに、計12棟のヴィラと、3つのレストランを併設しています。新しい宿って、やっぱりワクワクします。
特に興味がわいたのが、自動運転モビリティ&顔認証の先進的なサービス。広い敷地内を優雅に走り、運転手なしで目的地まで運んでくれます。自分のヴィラの前でピタッと止まる瞬間は、わかってはいてもちょっと感動します。さらに、そこからキーなしで、入室可。事前にスマートフォンなどで自分の顔を登録しておけば、それがそのままキー代わりに。玄関前のインターフォンのようなカメラに顔を近づけると、この部屋の宿泊者だと認識してくれ、鍵が開きます。
自家用車で来るゲストは、事前にこの登録をしておけば、車に乗ったままで検温ができ、そのまま自分のヴィラの前まで行けるので、人との接触を最小限に抑えられます。これぞ新時代!を感じる最新システム。
今回私が泊まった部屋は「硝白」というガラスをテーマにした部屋。HPで事前にチェックしていたのですが、イイノナホさんの、オブジェのような照明に一目惚れしてしまい……。
間取りはリビングルームと、ミニ流し台、ベッドルーム、畳、それに洗面台とお手洗いやシャワーブース、専用露天風呂。白を基調としたミニマルな空間に、ガラスアイテムがあしらわれています。露天風呂に繋がる扉のドアノブもガラス製。各部屋に置かれる、バッハ幅 允孝さんセレクトの本もガラスにインスピレーションを得たものだそう。川内倫子さんの写真集など(作品に透明感があるから?)どれもツボでした。
シャンプー、コンディショナー、ボディソープはuka、肌触りが良すぎるパジャマはポータークラシックのもの。細部まで美意識、こだわりが感じられます。
冒頭に、8つの素材をテーマにした宿、と書きましたが、ほかにどんなテーマの部屋があるのか気になり、特別に見せていただきました。たとえばこちらは石をテーマにした「石砬(せきろう)」。地元で産出する菰野石がリビングに!
女性に人気の部屋では「紙季」といった、紙をテーマにしたところも。
そのほか、鉄、木、土、漆、漆喰に焦点を当てたヴィラがあります。中には、茶人である千 宗屋さんが監修された「土逢」というヴィラもあり、こちらはなんと畳の部屋に炉が切られた“茶座敷”も。もちろんにじり口もありました。
建物そのものが違えば、家具やオブジェ、本、ウエルカムスイーツまでテーマに合わせてあり、すべて異なります。お気に入りのヴィラをリピートするもよし、毎回違うヴィラに泊まるもよし、と楽しみ方はいろいろ。
どこを見ても美意識が感じられたのですが、話を聞いてナットク。上述の千 宗屋さん、幅 允孝さんほか、辻口博啓さんなど、日本を代表する数々のアーティストが関わっていたのです。総合プロデュースは陶芸家・造形作家の内田鋼一さん。これまでたくさんの飲食店やギャラリーの内装を手がけ、ヨーロッパなど国内外で広く活躍する内田さんが注力しただけあり、美術館にいるような美しい空間になっています。
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そんな美意識は、レストランにも息づいています。素粋居内にある3つのレストランは、グルマンも大満足させる超ハイレベルなものでした。
昼におすすめなのが、こちらのそば切り 石垣。そば打ちの神様・高橋邦弘の系譜を継ぐ、なにわ翁から独立した石垣雄介店主が始めた店です。毎日店内の石臼で挽き、打った二八そばは、喉ごしがよくふわりと鼻から香りが抜けていきます。鈴鹿山脈の水がそばをやわらかく仕上げてくれるそう。味の濃い真昆布や、香りが命のカビ付きのカツオを使ったつゆも、そばとよく合う! さらに、内田さんのうつわやこだわりの骨董が、美味なそばを彩ります。
昼&夜ともに重宝するのが、うなぎ四代目菊川。川魚の老舗卸問屋が、自社のうなぎ、炭を使って提供。ガラス越しに焼くシーンを眺めていると、うなぎの身から脂がじわじわとあふれてくるのがわかります。自身の脂で揚げるようにして焼かれるうなぎは、食べるとパリっと香ばしく、とってもジューシー。信楽焼のうつわに盛られた名物の「一本重」でとことんウナギの味を堪能できます。「作」や「田光」といった三重の日本酒と合わせるのがおすすめです。
お楽しみのディナーはHINOMORI(ヒノモリ)へ。何を隠そうこちら、パリのPAGES(パージュ)の手島竜司さんがプロデュースした熟成肉専門店なんです。
リュクスな山小屋ふうの店内に入ると、巨大な熟成庫がお出迎え。松阪牛のプロとタッグを組んで特別肥育した牛や、三重の名産であるアワビやハマグリ、伊勢エビといった食材を、熾火、炭火、藁焼きと使い分けて調理します。
たとえばハマグリは、バターミルクとフェンネルオイルと合わせて。ヨーグルトのような酸味がピュアな貝の風味と絡み合い、なんだかエキゾティックな味わい。
衝撃だったのが、A5の松阪牛を使ったジャーキー。ビーフジャーキーというと、固く、噛みしめると肉肉しい味が染み出る……そんなイメージ。ただこの自家製A5ジャーキーは、半生のようなソフトな食感で、脂の甘味がたっぷり!ピリ辛な味もいいアクセントに。これまでの既成概念を覆されるような逸品でした。
そのあとも、肝ソースで和えたアワビリゾット、プルプルのゼラチンがクセになる牛スジ煮込み、ビスクをパスタに絡めて伊勢エビの身と旨味をとことん味わうナポリタンなど、驚きの料理が展開されます。
真打登場!な牛のステーキは、まるでマグロの赤身肉を食べているような鉄分感じるおいしさ。マルドンの塩がまたよく合うのです。
熟成肉と聞くと、ナッティと表現される独特の匂いを思い浮かべるかもしれませんが、そういった香りはありません。熟成といっても胞子を付けず、肉の水分を飛ばして凝縮させているため、旨味がしっかり引き出されています。
以前、バスクのレストランで同じような味に出合ったことがあるのですが、中武シェフに尋ねたところ、なんとシェフを含め、サン・セバスティアンの3つ星レストランでの経験をお持ちだったのです! あの時の美味体験が蘇るようでした。
締めのフォーがまた、牛骨出汁が利いていておいしく、大満足でヴィラに戻りました。部屋の露天風呂から見える月がきれいで、幸せな気持ちで床に……。
やっぱり日本の旅はいいな。一流といわれるアーティストたちの競演によって、それがより色濃く感じられました。
三重県三重郡菰野町菰野4842-1
tel:059-390-0068
全12棟
HINOMORIコース:1人¥50,000~(1泊2食付き・6名1室の場合)
※そのほか、うなぎ四代目菊川コース(1名¥ 37,000~)など、ほかの夕食プランもあり。食事プランや人数により、料金は変動。
https://sosuikyo.com
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