Editor's Blog

2023年、「私を通り過ぎていった泡」たち......極私的、シャンパーニュ、英国スパークリングワインのふりかえり!

酒好きが高じて今年、ワインエキスパートの資格を取った編集YKです。男性誌「Pen」にいた頃からワインは好きだったものの、どちらかといえばウィスキーやジン、ラムにアブサンといった方向に手を伸ばしていました。振り返れば、それらのお酒はほとんどが食後酒で、どちらかといえば夜深い時間にグラスに向き合い、じっくりチビチビと味わうような度数の高い酒。(とはいえその頃は舐めるように飲んだほうがいい酒をがぶ飲みしていたので、失敗も多々......。)

それに対してワインは主に「食卓の酒」で、ブドウ品種の地域性や食事との相性、ヴィンテージや注いだグラスの形状、グラスに入ってからの時間などによってさまざまな表情を見せてくれる酒です。編集者になる前は飲食店勤務で、ソムリエに憧れたこともあった自分にとって、2023年は新しい入り口に立った年でもありました。

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2023年に一緒にワインエキスパート試験を戦い抜いた友人と集まった、クリスマスの時の写真。「最近は『家にどんなワインあったかな』で夕飯の方向性が決まるよね」と、飲食店で働く友人と盛り上がりました。ビーフシチュー(中央手前)は元肉屋勤務の編集YK謹製。

先頃、編集部で2023年から始めたワインの試飲連載の年末スペシャルとして「スパークリングワイン特集」を行いました。6本を試飲した余韻の中で、今年味わってきた=「私を通り過ぎていったワイン」たちの素晴らしい記憶が、グラスの中のとめどない泡のように浮かんできて......。今回は、連載では紹介できなかった美しきシャンパーニュ、スパークリングワインをご紹介します。

>>【読者プレゼント】年末年始を華やかに彩る、編集部厳選のスパークリングワイン6選!

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地球温暖化とシャンパーニュはどう向き合っていくのか? 老舗シャンパーニュメゾン「ボワゼル」の決断。

1834年から6世代にわたって、シャンパーニュの中心地エペルネで家族経営を貫くシャンパーニュメゾン「ボワゼル」。スリラー映画の巨匠アルフレッド・ヒッチコックも愛したという由緒のあるブランドです。「2023年は飛躍の年になる」と語る、6代目当主のフロラン・ロック=ボワゼルさんに話を伺う機会がありました。

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ボワゼル6代目当主のフロラン・ロック=ボワゼルさん。主に自社畑のブドウの栽培責任者として、醸造担当の兄リオネル氏と共にボワゼルを改革し続けている。

昨今、世界各国のワイン業界で取り沙汰されているのは、地球温暖化によってこれまでとはまったく異なるブドウ栽培を余儀なくされていること。特にワイン生産の歴史が長いフランスにおいて、これまで受け継がれてきた栽培方法、スケジュール、ブドウ品種のセパージュ(配合比率)では、いままで表現してきた味わいを再現できないという問題に直面しているのです。元来、冷涼な土地で生み出されたキリッとした酸味のワインを長期にわたって熟成させてきたシャンパーニュは、どの生産者も、温暖化が進むこの現状をどう克服していくのかに注目が集まっています。

ボワゼルでは、リザーヴワインを大樽で熟成させ、以降のワインにアッサンブラージュ(配合)する方向性に舵を切りました。これにより、どのラインナップのワインの中でもリザーヴワインの占める量が増え、高品質なポテンシャルが安定するように。そして温暖化によって果実が熟す分、瓶内で2次発酵させる際に添加するドザージュ(補糖)の割合を減らし、ブドウ本来の味わいやポテンシャルを追い求めることを決定したのです。

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今期から出荷されている『ボワゼル ブリュット レゼルヴ NV』は、ラベルやロゴも刷新された。¥11,000

今期からリリースされた『ボワゼル ブリュット レゼルヴ NV』は、2019年ヴィンテージのワインをベースに、大樽で熟成したリザーヴワインを使用した初のボトル。温暖化でブドウが熟しやすくなっている中、フレッシュ感を上げるためにシャルドネとムニエの使用比率を例年より上げたのだといいます。澄んだ淡い麦わら色に、柑橘、白い花の香りが抜けていきます。奥に潜むトーストを思わせる香ばしい香りは、やはりシャンパーニュを飲む醍醐味とも言えるでしょう。爽やかな酸を感じながら、洋梨のような膨らみのある味わいを経て、ハチミツのような甘い余韻へと伸びていきます......。アペリティフや、真鯛のカルパッチョ、グリルした魚を合わせたい一本でした。

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ポストシャンパーニュはイギリス! ハンプシャーの「ブラックチョーク」に大注目。

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生産者が来日し、ブラックチョークのラインナップを試飲! シャンパーニュより後発のフランチャコルタ、英国スパークリングは、品質はもちろんのこと、ボトルデザインやマーケティングの上手さに驚かされます。

地球温暖化によって気温が上がり、伝統的なブドウ栽培地が苦戦している反面、これまで寒冷でブドウが育ちにくかった地域にとっては追い風となっていることも。特に目覚ましい発展を遂げているのがイギリス南部です。ドーヴァー海峡を隔ててフランスと向き合う同地ですが、実は太古の昔には陸続きだった経緯があり、シャンパーニュ地方とハンプシャー、サセックスなどのイギリス南部沿岸地域は同じ石灰質土壌。素晴らしいピノノワール、シャルドネが育つ「約束の土地」なのです。

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CEO兼ワインメーカーのジェイコブ・レドリーさん(右)とアシスタントワインメーカーのゾーイ・ドライバーさん。

これまでも「ナイティンバー」、「ハンブルドン」といった英国スパークリングを紹介してきましたが、「黒い石灰」の名を持つブラックチョークも見逃せないブランドです。元金融マンとしてロンドンで働いていた異色の肩書きを持つジェイコブ・レドリーさんが、ワイン作りの情熱に目覚め、ニュージーランド、シャンパーニュで研鑽を積んだのち、2018年に創業。瞬く間に評判となり、日本には2020年に上陸。23年6月には、日本の英国総領事館で行われたチャールズ国王の戴冠式記念パーティーの乾杯用として選ばれるなど、話題に事欠かないこと請け合いです。こちらも生産者ジェイコブさんが来日した際、ランチをご一緒させていただく機会をいただきました。

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ブラックチョーク クラシック 2020」¥7,700

輝きのあるゴールドに繊細な泡が立ち上り、飲む前から「これはこれは......」と嘆息。レモンやシトラス、どこかベルガモットといったイギリスらしい柑橘系を感じるのは、決して先入観ではないはず。味わってみるとシトラスのような美しい酸に、まさに「チョーク」を感じるしっかりとしたミネラル感が口の中を覆います。やはりこちらも海産物に合わせたいですが、酸味に合わせ、よりフレッシュ感のある帆立や、シュリンプのカクテルなどといただきたい感覚でした。

特に石灰質の土壌で育てられるピノノワールにこだわりを見せていたジェイコブさんに「ブラン・ド・ノワール(黒ブドウのみで作るスパークリングワインや白ワイン)は造らないのですか?」と尋ねたところ、満面の笑みで「もう少ししたらリリースできると思います! ぜひ楽しみにお待ちください」とのこと。続報も期待です。

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Rumour Has It 2022」¥7,700(参考価格)

ちなみにこちらはスパークリングワインでなくスティルワインだったのですが、あまりにも好きなボトルだったのでご紹介。ケント州に住むジェイコブ氏の友人のワイナリーから贈られたシャルドネを使用した、伸びやかな酸と爽やかな果実味を感じる、冷涼感を感じる美しい1本。その名も「Roumour Has It(=噂によると......)」。ジャケ買いしたくなること請け合いです。

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飲んだこと自体が自慢になるシャンパーニュ?! 「サロン」をとうとう飲んでしまった私は......。

とある雨の日、虎ノ門のホテルにて、とうとう運命的に出会ってしまったのが「SALON(サロン)」。1905年に毛皮商ウジェーヌ・エメ・サロンが、自身の理想を追求したシャンパーニュとして生み出した名品です。

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虎ノ門のとあるホテルで味わった「サロン 2012」。

品質安定のため、異なる年にできたワインをアッサンブラージュすることの多いシャンパーニュの中で、単一年だけのワインを使ったボトル(=ミレジメ)しかリリースしせず、使用するブドウは「サロンの庭園」と呼ばれる1haのワイナリーにある畑と、創業者が選んだ19の区画で育つシャルドネのみを使用。そして最大の特徴は、「作柄の良好な年にしかリリースされない」というポイントにあります。1905年のファーストヴィンテージ以来、今回味わった2012年まででまだ43ヴィンテージしか存在せず、またそれぞれの最低熟成年数は10年、出荷本数は4万本という希少性。それゆえ、味わったこと自体が話題になるというシャンパーニュと言われているのです。

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1997年以来、サロンとドゥラモットというふたつのメゾンを率いるデュポン社長。「サロンはカトリーヌ・ドヌーヴのような華やかなスター、ドゥラモットは目立たないけれど同じ場所で育った親しみやすいその姉といったところでしょうか」とにこやかに笑います。

サロンが造られなかった年のブドウは、サロンの姉妹的メゾンである「ドゥラモット」というシャンパーニュに使用されます。この日は、ドゥラモットのラインナップと、現時点での最新ヴィンテージであるサロン2012を、サロン・ドゥラモット社の社長、ディディエ・デュポンさんとともにランチの席でテイスティングさせていただく機会をいただきました。

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「ドゥラモット ブラン・ド・ブラン」¥11,000

「ドゥラモット ブラン・ド・ブラン NV(ノンヴィンテージ)」は2017年ヴィンテージのワインをベースにリザーヴワインが10%ほど入っている、単一年のミレジメいいようなクオリティのシャンパーニュ。シトラスやグレープフルーツを思わせる香り、酸味が中心にある味わい、クリーミーで繊細な味わい......。48ヶ月間澱とともに熟成された腰の強さとミネラル感は、これだけで申し分なく、十分な満足感。

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「ドゥラモット ブラン・ド・ブラン 2014」¥15,400

2014年の単一年ヴィンテージのブラン・ド・ブランには、シャルドネの名産地コート・デ・ブランのグランクリュ全6のブドウが全てブレンドされており、熟成年は6年以上という逸品。流石の熟成感を味わいながら、なぜかフレッシュさを失っておらず、むしろノンヴィンテージのものよりも爽やかな印象さえ浮かぶという不思議なボトルだ。

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サロン 2012」。参考発売価格¥132,000

最後に登場したサロンは......。香りはミネラル、フルーティー、そしてバラのような高貴な香り。美しい金色の液体に絹糸のような泡が立ちのぼり、見ているだけでもうっとりとします。口に含むとしっかりとした酸味、硬質なミネラル感の奥に、パイナップル、ライチなどのトロピカルなフルーツが潜んでいて......。そこから、隠れていた要素が次々に現れ、その一つひとつの余韻が驚くほど長く、心を震わされます。2012年に収穫されたシャルドネという単一の品種が、ここまで華麗で多彩な表現を持つことの奇跡を感じたのです。グラスの中にあるワインに、あり得ないほどの情報量が詰め込まれていて、ある種、飲み手を試してくるような気配さえ滲む......。これまでサロンを飲んだことがある友人が、口を揃えて「最高だ」といった理由が見えてきました。

サロン2012年を味わってからしばらく経ったある日、編集部の私宛にフランスから手紙が。送り手はサロン・ドゥラモット社。

「サロン 2013年、リリースが決定したことをお知らせします」

また再び、サロンの幸運に巡り会えることを夢見ながら、2023年の年も暮れていくようです。

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