ファッションエディター栗山愛以の22年業界ニュース3。
今年も残りわずかとなった。
そこで今回は年末っぽく、2022年個人的に心に残ったファッション業界ニュースベスト3を発表したいと思う。
早速第3位は、「ルドヴィック・デ・サン・サーナン、アン ドゥムルメステールのクリエイティブ・ディレクターに就任」
ちなみにルドヴィックが自身のブランド設立翌年の18年に来日した時、私はフィガロジャポン本誌の記事のためにインタビューしたのだった。
当時はメンズコレクションで発表していたものの女性にも人気で、「自分でもウィメンズの服を着るし、性別は関係なく、スタイルをディレクションしている」と言っていた。彼のものづくりは「官能的」と評されているが、いまでは女性モデルも起用し、男女を共に官能的に見せながら一つの世界観を作り上げているところがおもしろいのではないかと思っている。異性が抱く類の理想の押し付けは感じられず、「自発的な官能スタイル」(!?)になっているような。ルドヴィックは男女両方の身体の造形に関心を持っているうえに、双方の気持ちがわかるのか……そんな彼のテイストはロックな印象でモノクロメインのアン ドゥムルメステールからそう遠くない気はするし、さらに官能性が加わったらどういう化学反応が起こるのか、大変楽しみである。
ところで、ロエベで大々的にフォーカスされたアンスリウムがルドヴィックのショーでも用いられていて、トレンディな花なのか!? とずっと気になっていたのだが、この機会にいろんな記事を読んでみたらどうやらロバート・メイプルソープが撮影した写真から来ている様子。
ロエベは「まるで作り物のように見える自然物」である点に惹かれたようだから、出発点は違ったようだった。まあでもエロティックとも捉えられるアンスリウムのシルエットは両者にとってポイントだったんでしょうねえ。
第2位は、「ラフ シモンズのブランド終了」
ラフ シモンズには何となくホモソーシャル的なものを感じてしまっていて、長い間遠くから眺めていた。それがプラダの共同クリエイティブディレクター就任と同時期の21年春夏からウィメンズがスタートして、われわれ女性にも門戸が開かれたのかとときどき手に取るようになってきた矢先の出来事だった。
ビジネスが立ち行かなくなったのかもしれないし、ユースカルチャーを取り上げるのが年齢的に厳しくなってきたのかもしれないし、プラダとの棲み分けが難しくなってきたのかもしれない。が、何よりも今回の決断には、プラダに骨を埋める覚悟=ミウッチャ・プラダ氏の引退が近い、ということも含まれているんではないかと恐れ慄いている。カルチャー色あふれるラフ シモンズの終了はもちろん残念だが、偉大なるミウッチャさんの進退の方が気になってしまって仕方がない。ラフとプラダの相性は良い気はしているものの、ミウッチャさんのいないプラダにまだまだ心構えができていないのであった。
そして第1位は、「アレッサンドロ・ミケーレのグッチクリエイティブ・ディレクター退任」
02年からグッチのデザインオフィスに籍を置いているたたき上げで、15年のデビューの時は「誰!?」という感じだった。が、それまでのグラマラス路線を一変。ヴィンテージライクなデザインを用い、あらゆる要素を融合させてしまう折衷主義で、エキセントリックな表現も目を奪った。あっという間に「アレッサンドロ節」=グッチが受け入れられ、当分続くのだろうと思い込んでいたのだが。
退任にはいろんな事情があった様子で、たしかに表現の方向性が偏っている部分はあったと思う。が、ミケーレが類稀なるセンスと異様なほどのこだわりの持ち主であることは事実。その強烈な個性が一度グッチとぴったり合ってしまったから、他のブランドを手がけることはあり得なさそう。自分のブランドを立ち上げるのか、アーティストにでもなるのか。早々に引退して悠々自適に過ごすのも彼らしい感じもする。一方のグッチは、次はかなりの方向転換をするんだろうなあ。
といったわけで、誰もが挙げそうなラインナップになってしまったが、今年はブランドの今後が気になるニュースが相次いだ。
パンデミックを経て、いろいろけりをつける時期に入っているのか。
ミーハーなので新展開はうれしいのだが、才能あるデザイナーが去っていくのは悲しいものです。
本年も読んでいただきありがとうございました!
来年もどうぞよろしくお願い致します。
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