栗山愛以の勝手にファッション談義。

ウェス・アンダーソン監督 最新作。話題の映画『ザ・ザ・コルダのフェニキア計画』の見どころとは......?

2025年9月19日(金)公開のウェス・アンダーソン監督の最新作『ザ・ザ・コルダのフェニキア計画(原題"The Phoenician Scheme")』をひと足早く観てきた。いつものように細部にまでこだわり抜いたヴィジュアルでアンダーソン節炸裂だったのだが、一層シュールさが増した気がする。

まず、不思議なタイトルに面食らってしまう。邦題に付け加えられた「ザ・ザ・コルダ」とは、ベニチオ・デル・トロ演じる主人公の名前。資料によれば、「物語の出発点は、オナシスやニアルコスといった1950年代のヨーロッパ人大富豪を題材に何かを作ろうというアイデア」だったらしい。そこで舞台は1950年代で、ジャッキー・ケネディの再婚相手として知られるギリシャの海運王、アリストテレス・オナシス、同郷の船舶王、スタヴロス・ニアルコスなどをイメージし、ザ・ザ・コルダはヨーロッパの富豪という設定である。

そして、「フェニキア計画」は、「独立した複数の都市国家からなる架空の大独立国"フェニキア"全域のインフラを整備して利益を得る」という大プロジェクトのこと。ザ・ザはこれを遂行しようとするが、妨害によって財政難に陥り、資金調達のためにビジネスパートナーたちに会いに行く、というストーリーだ。

ただ、「6度の暗殺未遂から生き延びる」というザ・ザのあり得ない身体能力(?!)や、時折出てくる彼の夢想らしきシーンになかなか気持ち?理解?!が追いつかない。アンダーソンが楽しんで作り上げたらしいことはひしひしと伝わってくるのだが、終始当惑してしまったのだった。

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そんな中でも、収穫はあった。ベニチオ・デル・トロはじめ、ベネディクト・カンバーバッチ(ぱっと見気づかないほどの変貌ぶりだった)、トム・ハンクス、スカーレット・ヨハンソン、マイケル・セラ、ウィレム・デフォー、ビル・マーレイ、そしてシャルロット・ゲンズブールといった豪華キャストを差し置いて、ザ・ザの娘で修道女見習いのリーズル役のミア・スレアプレトンの存在感が半端なかったのだ。

オーディションで役を勝ち取ったという現在24歳のミアは、実は映画『タイタニック』(1997)で名を馳せたケイト・ウィンスレットの長女で、父親はケイトの最初の夫である映画監督のジム・スレアプレトン。Apple TV+で配信中の歴史ドラマ『バカニアーズ』にも出演しているらしいのだが、まだそんなに知名度は高くなく、さらに、「修道女見習い」という役柄から、ずっと白い修道衣姿で、衣装を取っ替え引っ替えするわけでもない。それなのに、肝が据わっているというか、堂々とした佇まいで目がいってしまうのだ。「偉大な母の血を受け継いでいる」つながりで?! 同世代だし、風貌もちょっと似ている、ビョークの娘、イサドラを思い浮かべてしまう(先日セシリー バンセンのショーのオープニングを飾って話題になっていた)。

さらに、エメラルドグリーンのアイシャドウと真っ赤な口紅にマニキュアという修道女らしからぬ派手なメイクが最高に似合っていた。ヘアメイクを担当したハイケ・メルケルによれば、頭巾から前髪を見せるヘアスタイルも本来はあり得ないらしい。

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そして、修道衣という「制服」ゆえに、小物使いが光っている。緑のストッキングに黒のレースアップシューズが効いているし、ザ・ザがリーズルに贈る、ローズカット ダイヤモンドをあしらったチェーンで、ルビーとエメラルドが輝くカルティエの華やかなロザリオもぴったり。アンダーソンによれば「ザ・ザがリーズルに何かあげるならカルティエに作らせるだろうと思って、同社に頼んだら引き受けてくれた」らしいのだが、1880年頃に制作され、現在は「カルティエ コレクション」に収蔵されているネックレスを再解釈したという。

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とにかく劇中同じ風貌で通すリーズルなのだが、最後の一度だけのお召し替えも注目だ。ネタバレになりそうなので詳細はお伝えできないものの、ちなみにそれも「制服」。制服をこんなに魅力的に着こなす人は、そうそう見かけない。

他にもザ・ザがノルウェー人家庭教師で昆虫学者のビョルン(マイケル・セラ)に「肌身離さず持て」と命じる、全財産の現金が入った赤いリュックをプラダが製作していたり(プラダはアンダーソンの依頼を快く引き受けたらしい)、各キャラクターの衣装もいちいち手が込んでいる。だからリーズルのストイックな装いが際立つ結果になっているのか?! 世界観にのめり込むには四苦八苦してしまうかもしれないが、ミア・スレアプレトンという新星の魅力を堪能するには最適な作品です。

『ザ・ザ・コルダのフェニキア計画』
2025年9月19日(金)より、TOHOシネマズ シャンテ、渋谷ホワイトシネクイント他 全国ロードショー

監督・脚本:ウェス・アンダーソン
出演:ベニチオ・デル・トロ、ミア・スレアプレトン、マイケル・セラ、リズ・アーメッド、トム・ハンクス、ブライアン・クランストン、マチュー・アマルリック、リチャード・アイオアディ、ジェフリー・ライト、スカーレット・ヨハンソン、ベネディクト・カンバーバッチ、ルパート・フレンド、ホープ・デイヴィス
配給:パルコ ユニバーサル映画  

 

栗山愛以

ファッションをこよなく愛するモードなライター/エディター。辛口の愛あるコメントとイラストにファンが多数。多くの雑誌やWEBで活躍中。

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