かぐわしきみなと通信

バンコク旅(3)ーThe House on Sathornで新感覚トルコ料理

日頃、ファインダイニングの取材がとても多いため、アジア50ベストレストランのランキングに登場する香港以外のレストランやシェフは、香港のシェフとコラボなどでの交流が多いせいか、自然と気になる存在になってきます。

2017年のリストに36位で初登場したバンコクのレストランThe Dining Room at The House on Sathornもそんな一つ。トルコ料理をモダンな調理技術を駆使して新解釈したファインダイニングと聞いて、広東料理のBo Innovation、インド料理のGagganなど、賛否両論がありがちな、実験的で前衛的な料理が大好きな私としては、これは好きに違いないと気になっていました。

大昔にトルコに行ったとき、街の食堂のようなところでしか食べていないものの、この風味は日本人の口に合う!ととても気に入っていたので(地中海の肉じゃが的なイメージの料理がありましたっけ、笑)、それをファインダイニングにするとどんな料理になるのか、気になりつつ、私の口に合うに違いないとの確信も。

もう一つ、頭に浮かんだのはマカオのリスボアホテルにあるGuincho a Galera。マカオでは家庭料理的な店しかないポルトガル料理にも、ファインダイニングがあることを知って欲しいというアプローチのレストランでした。

そんな折り、なんと私のインスタグラムを見ていたというファティさんから直々に、バンコクのThe House on Sathornに食べにおいで、というお誘いをいただいて、レストランがあるWホテルに宿泊。初日はスパでリラックスしたり、バーホッピングをしたりして、2日目は日中街をぶらぶらして買い物。いよいよその夜、The House on Sathornに行って参りました!

140年前にタイの富豪が自宅として建て、その後はロシア領事館としても使われていたお屋敷のダイニングルームがレストランになっています。テーブル席にはドイツからというグループが。

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私たちはシェフズテーブルになるカウンター席で、調理の様子やシェフとのおしゃべりを堪能! さあ、いよいよシェフのおまかせディナー「Signature Journey」の始まりです。どんな旅になるのか、ワクワクしてきました。

まずは前菜のメッゾ5品から! 中東や地中海料理でよくある、小皿にさまざまな前菜を入れて並べたメッゾを一つ一ついただくイメージで。すべてトルコのストリートフードをファインダイニングで表現しているそうです。

ファティさんが炙っているのは、ウニ。

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ウニとキャビアが載ったシャロットの下には「ic pilav」という松の実やハーブが入ったトルコのお米料理が。そう、実はこれピラフの起源なんですよ。東京の龍吟で修業もしていたというファティさんならではの食材の使いこなし。トルコ風握り寿司的な位置づけでしょうか。

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こちらはSogusという羊の脳や舌を使ったトルコのストリートフードを、和牛タンで再現したもの。黒トリュフもどっさり載って風味豊かな仕上がりです。

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ボスフォラス海峡名物のムール貝にタルタルソースを詰めるのは、イスタンブール名物だそう!

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タイ産地鶏の濃厚な黄身が美味しい温泉卵風の中には、エルサレムアーティチョークと呼ばれながらも実は菊芋という、ひまわりの一種から採れる芋に近い野菜とアンズ茸があしらわれていて、ほのぼのした美味しさ。

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トルコのピデというピザ風のパンは、ファティさん自家製。これにまろやかな発酵バターとハニカムの甘さを合わせると、止められない止まらない状態になります。自制せねば!

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前菜5種類だけで、すでにこんな充実ぶり。一つ一つがトルコの伝統食を取り入れているので、元ネタの味は知らなくても、体系立っていて深みがあって楽しめます。

龍吟でブラッシュアップした食材へのこだわりと、トルコ料理の新解釈が体現されているのがこのCHILDHOOD SUMMERSという一品。トマトがもう澄み渡るような爽やかな美味しさで、これにトルコらしいゴートチーズをシャーベットにして添え、パセリのソースを下に敷いていて、ファティさんの少年時代の夏を思い出させる組み合わせだそう。

こんな瑞々しい味のバラエティとバランスが、どこか日本の食と共通しているのかなーなどと思ったり。

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手際よく目の前で仕上げをするファティさん。プレゼンテーションがとにかく詩的で冴えていますね!

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トルコと言えばまさに地理的にも東洋と西洋の狭間にあり、さまざまな文化の影響が入り交じって、かつてはオスマントルコ帝国で強大な勢力を誇りながらも、歴史的にも東西の大国に翻弄されてきた国。そんなトルコらしい歴史を料理が雄大に表現したかと思えば、ファティさんのふるさととしてのお袋の味的な料理を洗練させていたりして、よく考え抜かれたメニューです。

こちらはVikings Discovered Istanbulというホタテ貝の料理。海辺の岩をよじ登って上陸して来るバイキングが見つけた宝のような一品。

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東洋と西洋の狭間のトルコらしいmantiは、ラビオリのような餃子のような一品。添えられているクリームはKaymakと言って、トルコで愛されているクロテッドクリームのようなモッツァレラチーズのような、水牛の乳で作るというクリームなのです。これに赤ピーマンのピューレを添えて。From My Mum...と名付けられたこの料理、ほんのりと優しい思い出のような味わい。

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The Black Sea、つまり黒海のたおやかな自然を思わせる、コーンとカシュカバルチーズの豊かな風味たっぷりの、ポレンタ風一品。添えられている焼きコーンが目の覚めるような美味しさ。

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そして中には鮮やかグリーンのケールが!

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おおっと目を奪われるプレゼンテーションは、イカのドルマ。ドルマとは、ブドウの葉の中に、具を入れて蒸し煮するトルコ料理。ちょっとイカめしも思わせます。イカスミやポルチーニ茸、スナップさやえんどうを添えて。

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メインにあたる料理は、2種類から選んでということで、友だちは新作というAgean Fish Auctionを選びました。エーゲ海の競り市ですね。金目鯛をトルコの蒸し魚、Bugulamaのスタイルで調理しています。

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私が選んだこれは!ファティさんの代表料理であるSultan's Message、つまりサルタンからの伝書という鳩料理なのです。極秘メッセージを託された伝書鳩が無念にも撃たれてしまって届かなかったという悲劇が、大胆なるプレゼンテーションで皿に表現されています。

そして鳩はちゃんと手紙を携えているのですよ! 大好物の鳩は抜群の焼き上がり、チェリーソース、葱、そしてトルコのピスタチオを添えて、チェリーや野菜のうま味と甘みがぴったりマッチ。これは印象に強く残る料理です!

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液体窒素で凍らせたヨーグルトに、日本から取り寄せた巨峰とベリーソース。Atsinaという爽やかなハーブもアクセントになって、口直しにぴったり。

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そしていよいよ旅の終わりを締めくくるデザートは、トルコ伝統のデザート、Helva。ファティさんのお父様のレシピをベースに、セモリナ粉とカードというフレッシュチーズを使って作られていて、ゴートミルクのアイスクリームが添えられていました。ふにっとした食感とふんわり柔らかい風味。トルコの味そのものを保ちつつアップグレードできて、シェフ会心の一品です。

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最後は盆栽風プチフール。お腹いっぱいです♪

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忙しく動き回っていたファティさんもやっと一息。ちらりと見えていたタトゥーを見せてもらいました。ロックンロールシェフ! 包丁!

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京都の包丁ラバーというファティさんのコレクションも飾られています。

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以前は香港でもシェフをしていたファティさん。アジア料理を長年得意としていた彼が、自らのルーツであるトルコ料理にフォーカスすることを決めたのはまだ1年前と最近のこと。

トルコならではの食材などは手に入りづらいですから、何でもここで手作りしているそう。慣れ親しんだアジアの食材もいろいろ取り入れています。さすが龍吟にいらしただけあって、日本の食材への造詣が深いファティさん、たまたま正月前だったので、「香港だと柚子はレストランでものすごく使われているのに、家で使うにはなかなか買えなくて、お正月のお雑煮に入れたいのに毎年探すのに苦労する」なんて話していたら、なんと高知から取り寄せたオーガニックの柚子、まだあるよ!と2つお土産にくださったのです、感激。

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最後に記念写真! ごちそうさまでした!

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珍しいけれども、何か懐かしさを感じる味が多いトルコ料理。食材の天然の甘みとゴートチーズなどの素朴なコクとの組み合わせが、私にはツボでした。

とにかく風味豊かにヘルシーに、時に雄大にドラマチックにまとめたファティさんの料理、最初から最後まで満喫しました。

この中にはバーもあって、こちらも雰囲気抜群です。邸宅の中でのこの寛ぎ感、たまりません。

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そう言えば料理と一緒に麗しいモクテルもいただきました。

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そうそう、このハウス・オン・サソーンでは、中庭でのアフタヌーンティーも人気なのだとか。次回ぜひ試してみたいもの。Wホテルのイケイケなノリとの対比がたまりません。

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いつもと違う知らない場所で、知らない料理をいただく。旅の楽しさを再発見した2泊3日、貴重なバケーションでした。

甲斐美也子

2006年より香港在住のジャーナリスト、編集者、コーディネーター。東京で女性誌編集者として勤務後、英国人と結婚し、ヨーロッパ、東京、そして香港へ。オープンで親切な人が多く、歩くだけで元気が出る、新旧東西が融合した香港が大好きに。雑誌、ウェブサイトなどで香港とマカオの情報を発信中のほか、個人ブログhk-tokidoki.comも好評。大人のための私的香港ガイドとなる書籍『週末香港大人手帖』(講談社刊)が発売中。

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