England's Dreaming

イギリスで作る日本の味、『Japanese Food Made Easy』。

モノを作るのが好きなので、料理をするのは苦ではないほうだ。でもロックダウンのために外食なしが3カ月近く続くと、自分の味に飽きてくる。

特に和食は、日本のサイトなどのレシピを参考にすると揃わない素材があるので、あまり当てにせずに目分量やカン(笑)で作っちゃうことが多い。でもそうすると、どんな料理でもいつもなんとなく似た退屈なものになる。出来たらせめて、もうちょっと洗練された味にならないものか。無理なく手に入る食材で。

そんな時に出合ったのがこの一冊、『Japanese Food Made Easy。イギリスのMurdoch Booksから出版された英書の料理本だ。

著者の西村あやさんはロンドンを拠点に活躍するフードスタイリスト。

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『Japanese Food Made Easy。料理のレシピ以外にも、揃えるべき基本の食材の細かな説明もある。あらためて学ぶことも多い。photo : Lisa Linder

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西村あやさん。ロンドンのケータリングで料理経験を積んだ後に料理学校に通い、その後フードスタイリストのアシスタントを経て独立したそう。photo : Lisa Linder

以前から彼女のお名前は雑誌や新聞の料理のページのクレジットでよく拝見していたし、こっそり(?)フォローしていた彼女のインスタグラムに広がる世界観も心惹かれるものがあった。だからきっと本も好きなはずとさっそく購入。予想以上に素晴らしくて、いまでは週に何回も手に取っている。

「とんかつ」や「天ぷら」から、「手作りがんもどき」や「鮭の西京漬」。「抹茶アイスのクッキーサンド」に「紫蘇と梨を使ったお酒のフローズンカクテル」、「七味唐辛子」のレシピまで。どれを選んでも、気負わずに出来てとてもおいしい。感動が高まり、西村さんにコンタクトをとってインタビューをお願いした。

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辛いもの好きでカレーを作ればいつも激辛ばかりだった私が虜になった、リンゴとハチミツ入りのマイルドな日本の「カレーライス」。いまでは週イチで作るほどに。photo : Lisa Linder

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Q.本のタイトルに“easy”とありますが、日本のご飯には簡単なものもたくさんあるんだよ、ということをご紹介するきっかけとなった思いは何だったのでしょう?

こちらではまだまだ日本食というと寿司と言うイメージで、特別な時にだけ作る、または難しいと思い込んでいる人が多い気がしていました。

もっと気軽に麺類や丼物のような、普段家にある食材、プラスシンプルな日本の調味料だけで作れるようなレシピを知ってもらいたい。また、作り置きできる日本風のドレッシングやソースを紹介して、毎日の普段の料理に、ちょっと日本風のようなご飯を取り入れてもらえればいいなあ、と思ったのがきっかけです。

そうそう、ドレッシングや照り焼きなどのソースもいくつか紹介されていて、それらが冷蔵庫に常備されていると便利だし、いざって時に安心感を与えてくれる。

Q.イギリスで人気の唐揚げやカレー、手巻き寿司などを押さえつつ、手作り胡麻豆腐など日本人でも初体験の人が多いのでは?というようなものが並びます。この本で紹介するレシピはどのようにして決められたのでしょうか?

私が紹介したかったレシピと、海外で人気のあるレシピ、基本のレシピなどを組み合わせて、出版社と相談してバランスを決めていった感じです。

私が紹介したかったレシピは基本は押さえつつ、かっちりした日本食ではない、普段の生活で作れるモダンなスタイルの日本食だったので、そういうレシピを推しました。

胡麻豆腐は私の好物で作ってみたかった、という単純な理由(笑)と、厳密に言えば違いますがタヒニという練りゴマに近いものがイギリスでは手に入りやすいので、ぜひそれを使ったレシピを取り入れたい、と思いました。

そうそう、この「かっちりとした日本食ではない、普通の生活で作れる」が良いのだ。そしてこのタヒニのような「あるもので代用」のアイデアが特に素晴らしい。

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Q.とても感動して共感したのは、日本ならではの野菜や果物をイギリスのものに置き換えるやり方です。これまでもイギリスで紹介されている日本食のレシピに代替のアイデアはあったけれども、日本人の目からみると「?」というものも多かったです。でも西村さんのものには「なるほど!」「作ってみたい!」と思わせる力にあふれていました。

自分の中でいちばん推していた部分だったので、気付いていただけてうれしいです!

イギリスの生活の中で、日本の調味料はかなり手に入りやくなりましたが、日本野菜などはまだ手に入りにくいです。そんななかで、日本食を作る時に季節ごとのイギリスのおいしい野菜を取り入れたりしてみた試行錯誤の結果です。

たぶん外国に住んでる日本の方は皆されていると思いますが、海外でどうやって日本の食材でないものを日本食ぽく食べるかという、サバイバルで生まれたレシピもあります。

イギリス、特にロンドンはさまざまな国の食文化に触れやすい場所です。仕事柄、ラッキーなことにいろいろな国の食材に触れられたことや、友人の料理や外食などで、発想が広がったと思います。

たとえば「豚汁」に欠かせないゴボウ。

西村さんのレシピでは代わりにエルサレム・アーティチョークを使っている。これは日本では「キクイモ」という名で売られているそう。日本に住んでいる方たちも、もしも「キクイモ」を見つけたらトライしてみてください!とのこと。

彼女の特にお気に入りレシピを聞くと、まず「鯖の炊き込みご飯」を上げてくれた。これはイギリスではどこのスーパーにも必ずある燻製のサバを使ったもの。私も作ったけれども、本当に簡単でしみじみ美味。

そして「南蛮漬け」や「玉ねぎとフェンネル、鰹節のサラダ」、「レモンと大根の漬物」「千枚漬け」「京風カレーうどん」なども。こうして書くと、お馴染みの日本の味にモダンさをさらりとプラスしたセンスが光るお料理の数々が並んでいることに気が付くはず。

フードスタイリストとは、メディア用の食事の撮影でお料理をして盛り付け、食材を美しくアレンジするお仕事。ときにはテーブルウェアや背景を手がけるスタイリストを兼任することもあるそうで、この本では西村さんはその両方を手がけている。彼女による美しいスタイリングも魅力のひとつだ。

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シンプルの極みともいえる「釜玉うどん」。そのおいしさを最大限に伝えるスタイリングが素敵。photo : Lisa Linder

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「豆腐、トマト、紫蘇のサラダ」。使われている「和風オニオンドレッシング」も絶品。photo : Lisa Linder

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「抹茶アイスのクッキーサンド」。イギリスでもいまでは定番人気となった抹茶。そのアイスクリームを挟んでいるのは、イギリスのこれまた定番の「ダイジェスティブビスケット」だ。photo : Lisa Linder

3カ月前と比べると随分と緩和はされてきているけれども、まだロックダウンの最中のイギリス。

「不便でも、あるものを工夫して食事を作っていると、新しい発見、新しい食べ方、組み合わせを発見したり、無駄の出ない料理の仕方を工夫したりするようになりました。逆に好きなものばかり食べないので、健康的な食事にもなりました。ある程度の不便さを受け入れて、手に入りやすい地元のものを必要な分だけという食事の仕方、生き方のほうにシフトしていかないといけないだろうと考えています」と西村さん。

ああ、料理ってつくづくクリエイティブな作業なんだな。

手軽でありながら、懐かしく新しい日本のごはんを集めた『Japanese Food Made Easy。外国で日本食を作る時はもちろんのこと、日本に住んでいる人にとっても新しい扉がぱっと開くような料理のアイデアに出合えるはず。オススメです。

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坂本みゆき

在イギリスライター。憂鬱な雨も、寒くて暗い冬も、短い夏も。パンクな音楽も、エッジィなファッションも、ダークなアートも。脂っこいフィッシュ&チップスも、エレガントなアフタヌーンティーも。ただただ、いろんなイギリスが好き。

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