知っておくべき、陶芸界のクワイエットラグジュアリー。
これは安齊賢太さんの花器。底にむけてキュッと締まったくびれが秀逸で、毎朝、眺めるたびに惚れ惚れしている。漆器? 陶器? と観る人によって印象が分かれるだろうが、どちらも正解かな。表面は漆器のように艶やかな黒だが、主な素材は陶器。粘土を成形し焼いたのち、土に漆を混ぜたものを塗っては磨くという作業を繰り返すことで生まれる作品だ。その回数は8回とも10回とも。その後、再度窯に入れて焼き付け、さらに磨き続ける。漆は、そもそも塗布する対象に強度や防水性、装飾を与える塗料。焼物に釉薬が施されるずっと前、例えば縄文時代に人類はすでに焼物に漆を塗って強度を出す「陶胎漆器」を作っていたとされるけれど、安齊さんは、焼物の表面に漆を塗るのではなく土に混ぜこんで、陶と漆の21世紀的融合を目論んだ。土と一体となった漆黒は、ピカッとではなくしっとりと光を反射し、陶芸界のクワイエットラグジュアリーを突き進む。静けさの中に滲み出るセクシーさがたまらない。
[ある日のうつわ]
枝ぶりがシンプルでちょっと物憂げな花が似合う。
土に漆を混ぜ込んだ独特の表情が内側にも広がる、見どころの多いうつわだ。
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うつわディクショナリー#47 安齊賢太さんが生む静謐な黒の世界
作り手:安齊賢太
購入した年:2024年
購入場所:Jikonka Tokyo
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