南仏プロヴァンスで猫さがし。

サンティアゴ・デ・コンポステーラ、巡礼旅のすすめ。

人生で、一番歩きました。

5日間、毎日20〜30km歩いて、合計115km。10kgある荷物も背負って、えんやこら。

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ことの始まりは、十数年前……大学時代だったでしょうか、仲の良い友達が、いつかしてみたいんだよねと話していた、サンティアゴ・デ・コンポステーラの巡礼。その時は「なにそれ」くらいで聞き流していたその巡礼路を、彼女とともに、まさか自分が歩くことになろうとは。

最近あんまり、南仏プロヴァンスで猫、さがしてなくて恐縮ですが、今回はその、サンティアゴ巡礼(カミーノ・デ・サンティアゴ)について。プロヴァンス猫の代わりにスペイン猫をば、と思っております。

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さて、スペイン北部ガリシア地方にある街、サンティアゴ・デ・コンポステーラ(Santiago de Compostela)は、聖ヤコブの遺骸があるとされ、バチカン、エルサレムと並ぶ、キリスト教三大聖地のひとつです。その歴史は長く、1,000年以上前から巡礼者が歩き訪れていたそう。今はカトリック信徒だけでなく、文化的な興味からや、スポーツ感覚で巡礼に来ている人も多いようです。(世界遺産にも指定されましたし。)

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その地につながる主要な巡礼路は10ルートほどありますが、スタート地点はまちまち。ヨーロッパに住む人は「自分の家から始める」ことも。実際、「(2,000km離れた)ベルギーからスタートした」なんていうツワモノ(見た目は華奢な女の子)にも道中会いました。各々好きなところから始めて、途中でいずれかの巡礼路に合流して進む、という感じでしょうか。

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サリアの街の教会。

私たちが巡礼のスタート地点に選んだのは、ゴールのサンティアゴから約100km離れたサリア(Sarria)という街。そこから、一番メジャーな「フランス人の道」と呼ばれる巡礼路を、いくつかの村に寄りながら5日間かけて歩きます。

この道の正規(?)のスタート地点は、フランスのサン・ジャン・ピエ・ド・ポー(Saint-Jean-Pied-de-Port)、その全行程は、ピレネー山脈越えも含まれ、780kmもの長さがあるのですが、我々はラスト115kmだけ、という、謂わばお手軽にわか巡礼者です。
(100km以上歩くと、サンティアゴ到着時に、巡礼証明書をもらうことができるので、サリアは時間のない巡礼者にとって人気の出発点です。)

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青地に黄色のホタテマーク、そしてやじるしが道しるべ。

巡礼路で通る村には、アルベルゲと呼ばれる巡礼宿があり、巡礼手帳(クレデンシャル)を持つ巡礼者は誰でも宿泊可。昔は無料(寄付制)で泊まれるところもあったようですが、今はほとんどが5ユーロ〜10ユーロを先に支払い、泊めてもらうシステムです。もちろん村によってはホテルもあるので、快適さを求めるなら、ホテルに泊まることもできますよ。

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ポルトマリン(Portomarin)の公営アルベルゲ。1泊6ユーロなり。60人くらい泊まれる部屋が2つ。トイレ、シャワー、キッチンなどは共有。

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クレデンシャル。教会やアルベルゲだけでなく、巡礼路にあるカフェやパン屋などあらゆる店でスタンプがもらえるので、毎日せっせと集めます。巡礼証明書の取得には、1日最低2つのスタンプが必要。

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サリア〜サンティアゴまでの道はというと、舗装された道だけでなく、砂利道あり、森道あり、山越えあり……1,000年前と同じ景色なんじゃないかと思うような光景にもたくさん出会えます。
新米ピルグリム(巡礼者)の我々は歩くのが遅いので、朝5時に起き、まだあたりは真っ暗な中、6時に出発、その日の目的地に着くのが午後1時〜3時なので、休憩を挟みながら毎日7〜9時間歩くことになります。

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朝7時すぎ。1度目の休憩がてら朝食をとります。日の出はまだまだ先の、8時半ごろ。

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みんなが愛する、コラカオ(Colacao)は、スペイン版ミロみたいなホットチョコレート。

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夜明け。西へ西へと歩くので、太陽は背中から登ります。

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それまで一切トレーニングをしていなかった私、意気揚々とスタートした1日目はともかく、2日目からは、どんなハイテンションでもカバーしきれないほど膝が痛み始め、太ももやふくらはぎがパンパンに張りました。つらかった。ロキソニンテープや、友達の持って来ていた数々のレスキューグッズ(アミノ酸サプリやファイテン、絆創膏とか、足裏の豆予防のヴァセリンとか)に助けられ、なんとか歩ききった感じです。

サン・ジャン組(サン・ジャン・ピエ・ド・ポーから約800km歩いてきた猛者たち)が時には1日40km歩き、一ヶ月も巡礼を続ける一方、たった5日、最後のちょびっとしか歩いていない私ですが、それでもこの旅路を通して、思うところが諸々ありました。印象に残った言葉とともに振り返ります。

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健康ってほんと大事。|「歩くことが何よりの健康の秘訣。」

68歳でイギリスからスペインに移住し、スペイン語を勉強し始め、70歳になった今年巡礼の旅に出た(もちろんサン・ジャンから徒歩800km!)というマダム。ご主人はゴールで待っていらして、1ヶ月間一人で歩いていると。しかも、その旅程は1日も狂うことなく、完璧に予定どおりきていると話します。
(30代からフランス語を始め、「もう脳が老化してぜんぜん活用覚えらんない〜」とか言っていた自分、たった数十キロ歩いただけで、「もう無理かも」とかほざいていた自分を張り倒してやりたい。)

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彼女曰く、「歩くことが何よりの健康の秘訣。」だそう。そうですね、わかります。貴方のお姿を見ていると。彼女以外にも、巡礼中数々の年配の方に出会いました。カリフォルニアから、教会のメンバーでやってきたというグループには、72歳のムッシュが。噂によると、80歳でばりばり歩くマダムもいたというから驚きです。足腰、大事。元気に歳をとりたい。

それに、人の体って、回復するんだなと身をもって感じました。30km近く歩いた直後は、「もう明日歩けないかも。」と本気で思います。でも、足を冷やして、マッサージして、ストレッチして、シャワーを浴びたりごはんを食べたり、友達と話しているうちに、だんだん痛みは取れ、翌朝にはまた、ちょっとまだ痛いけどがんばるか。という気持ちにまでなれるんです。

休憩も、ほんと大事。|「いい?カミーノ中にするべきことは2つ。KASを飲むこと、そしてMAGNUMのアイスを食べることよ。」

休むことをせず歩き続けると、必ず後でどっと疲れます。どんなにハイペースで歩いている人も、途中何回か休憩して、コラカオやKAS Limon(スペイン版CCレモン)を飲んでいました。

「いい?カミーノ中にするべきことは2つ。KASを飲むこと、そしてMAGNUMのアイスを食べることよ。」と、キャメロンディアスみたいなアメリカ人(たぶん)のおばちゃんも、私たちにそうアドバイスして去っていきました。(マグナムのアイスはフランスにもあるので割愛。ハーゲンダッツの方が美味しいと思うけどな。)

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私たちみたいな新人は、休憩している間、どんどん人に抜かされていくことに焦りを感じたりもするのですが、抜かして行った人たちとも、その日の目的地は一緒だったりして、なーんだ結局同じじゃん、てこと、よくありました。
新米だからこそ、自分にとって最適なペースを知って、筋肉の全然足りてない脂肪だらけの足を労い、休む必要があるんですね。長く続けるためには、こまめな休憩。これ、きっと巡礼以外にも通じます。

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おしゃべりも楽しみのひとつ。|「ガンジス川の火葬場で詐欺にあったんですよ。」

道中、数々の猛者たちに会いました。どんな内容であれ、彼らを巡礼へと向かわせた理由や身の上話にひとつとして同じものはなく、いちいち驚かされます。
巡礼と聞くと、「一人黙々と祈り、神や自己と向き合う」みたいなイメージがありますが、実際のサンティアゴ巡礼はそれだけではなくて。お互い「ブエン・カミーノ(良い巡礼を)!」と声をかけつつ、抜いたり抜かされたり、一緒に休憩したり、ごはんを食べたり、想像以上に和気藹々としていた印象です。

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おじいちゃんと孫?

そして、年間何万人もの人が歩くフランス人の道。たまたま同じ時期にその道を歩いているというだけでも奇跡的ですが、なかには何度も何度も運命のように出くわす人たちがいます。

例えば、韓国からふたりで巡礼に来たという母と、20代前半に見える息子。お母さんを気遣いながら旅程を全てオーガナイズしている、その息子のジェントルさには常々きゅんとさせられました。あんな息子欲しい。(彼らはサン・ジャンからサンティアゴまで800km歩いた後、ポルトガル人の道という別の巡礼路をさらに歩きに出ました。サン・ジャン組、強し。)

シカゴから来ていた、スペインにもルーツを持つアメリカ人女性。彼女は誰に対してもオープン、そしてとても面倒見がよく、巡礼中、何人ものカミーノキッズができたと嬉しそうに話します。最後はペースダウンして私たちのスピードに合わせてくれて、一緒にサンティアゴに到着。

イタリアンおやじ3人組は、巡礼初日、歩き始めて最初の1時間くらいで出会い、その後、毎日のように出くわし、最後はサンティアゴで完歩をともに喜びました。ひとり、歩くのが遅いおでぶなおじちゃんがいて、彼のがんばる姿にはうるっとしてしまったほど。

3人の子育てを終えて時間ができたから来た、と語るニューヨーカーマダムももちろんサン・ジャンから出発し800km歩いた猛者。彼女とも何度も出会って、そのたびにハグを。

日本人巡礼者は多くはないものの、会社を辞めたり、大学を休学して世界一周中だという人たち、本を書きながら旅をしているという人……自分は思いつきもしなかったようなことをしている彼ら、とてもかっこよく見えます。たとえ年下でも、大先輩ピルグリム。そんな人たちから、インドで詐欺にあってだまされた話(かわいそうな話なのに笑ってしまってごめんなさい。)や巡礼中に出会った変人たちの話を聞いたりして、ほんの少しでもその人生に触れる楽しさたるや。

必需品って実は少ないかも。|「でも重い。」

自分にとっての必要最小限のものを知る機会でもありました。バックパックに、洗濯すればいいからと、Tシャツも靴下もパンツも、それぞれ3つずつ持って。スキンケア用品は、これとこれ。顔と体は、同じので洗えばいい。なんだ私にとっての必需品て、こんなもんか。(それでもけっこう重くなった。もっと減らせた、と思っている。)

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苦労を共にしたトレッキングシューズとバックパック(45L)。帆立貝は巡礼者の証、2ユーロで購入(のちに1ユーロの店も発見)。

このやりきった感。|「もうすぐ終わっちゃう、どうしよう。」

115kmを歩ききり、サンティアゴの大聖堂に到着したときの、あの気持ち、あの空気は、ほかのどんな旅でも感じられないものでした。

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サンティアゴ・デ・コンポステーラ大聖堂(Catedral de Santiago de Compostela)

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そこには道中出会った人たちの姿があちこちにあって、みんなで修行を乗り切った、同志みたいに感じられます。歩いた距離は違えど(自転車で巡礼している人もいるし)、それぞれの道が安全に守られたこと、ここまでたどり着けたことを感謝し、祝いあう。なんて平和な光景なんだ。

サンティアゴ到着予定の前日に話した日本人の女の子は、その時、「もうすぐ終わっちゃう、どうしよう。」と言っていました。結局彼女はサンティアゴに着いてすぐ、ここで歩くのを止めてしまうのが悲しいからと、さらに先のフィニステラ(大西洋に面した西の果て)へ出立。ああ、やっぱりサン・ジャン組は強い。

1度この味をしめたら、次はフランス人の道800km制覇、または「ポルトガル人の道」を全部歩いてここに来てみたい! と思ってしまいます。その時、なにをどう感じるのやら。いつになるかな、もしかしたら子どもや孫と一緒かも、それまで元気でいなくちゃ。

巡礼中出会った猫たち、動物たちは次のブログでご紹介。

中川史恩

都内在住、猫好きエディター。フランス生まれの保護猫ミャウと暮らす。好きな食べものは帆立の貝柱とチップス全般。苦手なものは直射日光。将来の夢は鶏と暮らすこと。@chez_miaou

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