世界が注目する『シェイプ・オブ・ウォーター』見所は?

Culture 2017.11.13

今年のヴェネツィア国際映画祭で金獅子賞を受賞、いま世界中から注目が集まるギレルモ・デル・トロ監督の最新作『シェイプ・オブ・ウォーター』。先日大盛況のうちに幕を閉じた第30回東京国際映画祭の特別招待作品として上映されました。

171110_shapeofwater_01.jpg『シェイプ・オブ・ウォーター』©2017 Twentieth Century Fox

チケットは即完売、期待度の高さを物語っていました。上映後には「フィガロジャポン」でもおなじみの映画ジャーナリスト立田敦子さんと、「フィガロジャポン」副編集長でありmadameFIGARO.jpにて「編集KIMのシネマに片想い」を連載中の森田聖美によるトークイベントも開催。映画大好きなふたりの話から、『シェイプ・オブ・ウォーター』の見所をいちはやくご紹介します!

171110_shapeofwater_02.jpgトークイベントより、映画ジャーナリスト立田敦子さん(右)と「フィガロジャポン」副編集長の森田聖美(左)。

madameFIGARO.jpに掲載のヴェネツィア国際映画祭レポートでもこの作品に触れていた立田さん。実は監督のギレルモ・デル・トロは立田さんにとってもっとも好きな監督のひとりで、「今年7月にラインナップが発表されたときに本当にうれしかった」といいます。

『パシフィック・リム』(2013年)や『ヘルボーイ』(04年)、『ブレイド2』(02年)など、ハリウッドのアクション映画も含めさまざまな作品を手がけるデル・トロ監督が今回、ヴェネツィア国際映画祭のコンペに出品されるということは、「カンヌ映画祭に出品された『パンズ・ラビリンス』(06年)路線の作品なのだな、とジャーナリストたちの前評判もすごく高かった。初日の上映直後には大きな拍手が贈られ、記者会見にも立ち見が出るほどたくさんの人が集まりました」

171110_shapeofwater_03.jpgヴェネツィア国際映画祭の授賞式にて、ギレルモ・デル・トロ監督。

立田さんはデル・トロ監督本人についても説明。“メキシコの三人衆”“ゴールデントリオ”などといわれる3人の監督のひとりで、あとのふたりはアレハンドロ・ゴンザレス・イニャリトゥとアルフォンソ・キュアロン。皆1961年〜64年生まれで現在53〜55歳。キュアロン監督は『ゼロ・グラヴィティ』(13年)、イニャリトゥ監督は『バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)』(14年)『レヴェナント 蘇えりし者』(15年)などを手がけ、アカデミー賞の常連になっている監督たち。3人で制作会社も設立、とても仲がよいそうです。「今回金獅子賞を取り、ついにデル・トロの時代が来たな、とすごくうれしかった」と立田さん。

『シェイプ・オブ・ウォーター』は、ありとあらゆるメッセージが込められ、ディテールにもこだわった、デル・トロ監督ならではの(森田談)ファンタジー・ロマンス。舞台は1962年、冷戦時代のアメリカ・ボルチモア。主人公イライザ(サリー・ホーキンス)が清掃員として務める政府の機密機関「航空宇宙研究センター」にある時、不思議な生きものが運び込まれてきます。アマゾンの奥地で現地の人々に神として崇められていたというその生きものの造形にも、デル・トロ監督は情熱を注いだといいます。

「監督は小さい頃にSFホラーの大ファンになり、その作品のひとつが『大アマゾンの半魚人』(1954年)。ご覧になった方はいらっしゃいますか?」と立田さんが客席に問いかけると、何人かの方々が挙手。「この作品を観た方はその中に出てきたクリーチャーを彷彿とされたと思いますが、それがある意味下敷きになっています」

171110_shapeofwater_06.jpg『シェイプ・オブ・ウォーター』のポスター。

>>タイトルに込められた想いとは。予告編映像も公開!

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タイトルに込められた想いとは。

「『シェイプ・オブ・ウォーター』はファンタジーであり、サスペンスであり、ラブストーリーであり、もっと言えば人間の物語。そういう意味でデル・トロ監督のすべての要素が詰まった集大成の作品」と立田さん。ヴェネツィア国際映画祭でのインタビューで、監督は「抑圧された世界での人々の結びつきというものにいちばん興味がある」と言っていたそうです。

「デル・トロ監督の作品にはしばしば弱者が登場したり、疎外された人たちが主人公になりますが、それはメキシコ人である監督の実感が反映されているそうです。10代の時にアメリカに来て、特殊メイクアップアーティストとして経験を積み、その後もアメリカで30年以上にわたってクリエイターとして活躍しています。英語も上手だし、何不自由ないように見えますが、監督のいう実感とは“人と人との結びつきは言語ではない”ということ。それが今回の映画では表現されています」

予告編ムービーも公開に!


その象徴がサリー・ホーキンス演じるイライザなのだそう。
「イライザは声をもたない女性。この役を演じるにあたって、デル・トロ監督はサリー・ホーキンスに『オードリー・ヘップバーンのように演じてほしい』と伝えたそうです。イライザ、オードリー・ヘップバーンといえば……」(立田さん)
「『マイ・フェア・レディ』(64年)ですね」(森田)
「『マイ・フェア・レディ』のイライザは、言葉を学ぶことによって知識を得て、女性として美しく成長し、同時に自分を解放していく。一方で今回のイライザは、声をもたない、つまり言語にも頼らなくてもコミュニケーションをとり、つながっていける、というメッセージが含まれているのではないかと思います」(立田さん)

『シェイプ・オブ・ウォーター』というタイトルにもそれが込められていると思う、という立田さん。

「水の形はいかようにも変化しますよね。とらえどころのないものに対して、人は警戒心を抱き、レッテルを貼りたがるものです。例えば今回マイケル・シャノンが演じたストリックランドは、一見悪人に見えますが、彼は1960年代のアメリカ人が考えていた“幸福”を求めている。そこがデル・トロ監督のすばらしいところで、彼を勧善懲悪の悪人として描いているわけではなく、その時代や組織の犠牲者ともいえるわけです。そういう人たちへの目配りもあるということに感動しました。

デル・トロ監督は博愛主義なのだと思います。誰が悪い人で、誰がいい人、これが幸福、これが不幸、という捉え方をしない。それはクリエイションにも表れていて、例えば古典文学と漫画、ハイカルチャーとサブカルチャーを同列に考える。国も言語も垣根を取り払った価値観は、デル・トロ監督の特徴だと思います。この作品は彼の集大成だと言いましたが、それはこの作品にそうした彼のエッセンスが驚くほど細かいところにまで行きわたっているからなんです。

ミュージカルシーンを取り入れているのも、スタンリー・ドーネンへのオマージュというだけでなく、サイレント時代のミュージカルがどんな意味をもっていたか、がちゃんと下敷きにあります。つまり言葉がなくても、人とコミュニケーションができる、人に感動を与えることができる、それを表現したかったのだと思います」

171110_shapeofwater_04.jpg『シェイプ・オブ・ウォーター』より、威圧的なエリート軍人・ストリックランド(マイケル・シャノン/左)と、不思議な生きものの研究チームを率いるホフステトラー博士(マイケル・スタールバーグ/左)。©2017 Twentieth Century Fox

サリー・ホーキンスは、日本ではまだそれほど知られていないものの、本作のほかにも2018年3月にはイーサン・ホークと共演した、実在の画家を描いた主演作『しあわせの絵の具 愛を描く人 モード・ルイス』の公開が控えています。

「サリー・ホーキンスはイギリスのインディペンデント映画の巨匠、マイク・リー監督作品の常連。つまり相当レベルの高い女優さんです。マイク・リー監督の作品には脚本がなく、リハーサルで作品を作っていくことで有名ですが、3〜4カ月ずっとリハーサルを続けるんです。その要求に応えられるスキルがある俳優さんはそういない」(立田さん)

「それにマイク・リー監督が描く世界には派手さがまったくない。その中で人の心に何かを与えるには、俳優の演技がすごく大事になってきますよね」(森田)

「この映画は、情熱的な恋に落ちるという意味での恋愛映画ではなく、もっと深いところで人と人とはどんなふうに結びついていくのか、どうやって絆を築いていくのか、もっと言えば、本当にほしいもの、本当の幸福って何?と問いかけています。デル・トロ監督は、50歳を過ぎたからこの作品を撮れた、と言っていました」と立田さん。

上映前にはデル・トロ監督からの、この作品は“愛と映画”を深く愛する人たちのために作ったというビデオメッセージが流れました。“愛”について深く考えさせられると同時に、立田さんは「トリビアの宝庫」でもあるといいます。「もちろん純粋に恋愛映画として楽しんでいいのですが、本当にトリビアだらけで、オタク心もくすぐる映画になっています」

気になるアカデミー賞予想についての話も。

「作品賞や監督賞、サリー・ホーキンスの主演女優賞など、ノミネートまでは確実にいくと思います。ヴェネツィア国際映画祭では『スリー・ビルボード』(18年2月1日公開)とともに評価が高かったですが、『シェイプ・オブ・ウォーター』が受賞した理由のひとつは、根本のテーマが今日的である、ということ。ダイバーシティという現代のテーマを扱っている意味では、賞レースの中でも強いのではないでしょうか。監督賞か作品賞をとって、プレゼンターとしてイニャリトゥとキュアロンのふたりにオスカー像を渡してほしい、と妄想しています(笑)」と立田さん。

171110_shapeofwater_05.jpgヴェネツィア国際映画祭では脚本賞を受賞したマーティン・マクドナー監督『スリー・ビルボード』。主演はフランシス・マクドーマンド。2018年2月1日公開。 ©2017 Twentieth Century Fox Film Corporation All Rights Reserved

森田からは、女性媒体としてこの作品に着目するポイントを紹介。

「この作品には『アメリ』(01年)のような部分があるなと感じました。イライザは自分の殻の中に住んで、ルーティーンを楽しんでいる。閉塞感はもっていないし、人生にそれほど不満もなく幸せだけれど、その殻を破って本当に大切なものに出会う、という過程は、セオリーを与えられて生きるマイケル・シャノン演じるストリックランドと同様に、私たち女性にとっても、スタンダードな“幸せ”と思い込んでいるものを完全に打ち破ってくれる。自分の心の満足感でしか本当の幸せは測れない、手に入れられないのだということを、しみじみ感じさせるラブストーリーだと思いました。女性誌の編集者としては、そこがアピールしていきたい部分のひとつです」

1962年を舞台にしながら、人種問題やLGBT、障害者に対してどのような態度をとるのかといった、立田さんが言及したダイバーシティという今日的なテーマを扱う本作。「世界全体が不安にさらされている現代は、冷戦時代の空気と近く、その中でどのように生きていくか、どのように他人を思いやれるのか。こんな時代だからこそ、このストーリーを描きたかった、とデル・トロ監督は言っていました。実際にお会いしても、監督は本当にいい方なんです。友人の監督のこともすごく応援するし、好きなものには徹底的に愛情を注ぐ、その姿勢は見習いたいし、勇気づけられます」

『シェイプ・オブ・ウォーター』は2018年3月1日公開。デル・トロ監督がこの映画に託したメッセージを感じて、そして冒頭から魅了される美しい映像にふんだんに詰め込まれたトリビアを味わいたくてきっと何度も観たくなるに違いない本作の公開を、ぜひ楽しみにお待ちください!

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『シェイプ・オブ・ウォーター』
●監督・脚本・製作・原案/ギレルモ・デル・トロ
●出演/サリー・ホーキンス、マイケル・シャノン、リチャード・ジェンキンス、ダグ・ジョーンズ、マイケル・スタールバーグ、オクタヴィア・スペンサー
●2017年、アメリカ映画
●124分
●配給/20世紀フォックス映画
2018年3月1日全国公開。
©2017 Twentieth Century Fox
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