フィガロが選ぶ、今月の5冊 生と死、一瞬と永遠が交差、家族三代の物語。
Culture 2018.03.23
『光の犬』
松家仁之著 新潮社刊 ¥2,160
記憶の断片を手繰り寄せるように紡がれた家族三代の物語。ドラマティックなことは何もないのに抑制された語り口の意味が、しだいに胸に迫ってくる。助産婦として道東の町・枝留にやってきた祖母。薄荷工場の役員だった祖父。川釣りと北海道犬が趣味の生真面目な父。専業主婦の母。子どもたちも50代になり、家族の老いや介護と直面する。ままならない人間の営みに、犬たちが寄り添う。終わりの予感に導かれながら、はかない光をすくいあげる。断絶は断絶のまま描いているのに、散り散りに思えた小さな光が束ねられて人生というカタチを成していく。
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*「フィガロジャポン」2018年3月号より抜粋
réalisation : HARUMI TAKI